持続可能な航空燃料の活用でカーボンニュートラルに貢献

2050年度のカーボンニュートラル実現を目指し、持続可能な航空燃料の活用などに取り組むANAホールディングス(以下、ANAグループ)。自社や航空業界全体で取り組むだけでなく、顧客企業のCO2排出量削減に貢献するためのプログラムも実施している。同社の上席執行役員 グループCSOの宮田千夏子氏に、その実施の経緯と想いについて聞いた。

国産SAFの商用化と普及・拡大へ

経済の発展とともに貨物輸送や人の移動が増えるなか、航空機を飛ばすほどに比例して増え続けるCO2排出量を削減することは、航空会社に課せられた重要な使命である。

これに応えるべくANAグループでは、「2050年度までに排出権取引に依存しないカーボンニュートラルを目指す」という目標を掲げ、2022年8月には具体的なロードマップ「トランジション・シナリオ」を公表。航空機の技術革新や運航オペレーションの改善、持続可能な航空燃料の活用、排出権取引、ネガティブエミッション技術の活用など、さまざまなアプローチでの目標達成に取り組んでいる。

特に持続可能な航空燃料の1つであるSAF(Sustainable Aviation Fuel)の活用は、航空業界における脱炭素化の大きな柱だ。自動車など他の輸送手段と異なり、航空機では電気や水素といったエネルギーへの代替が現状難しい。電気飛行機や水素飛行機の開発も行われてはいるものの、空港施設などの変更も必要であり、実用化に至るまでには年数がかかると考えられる。そこで同社は、現在のエンジンや施設をそのまま活用でき、今後の普及が期待される次世代の液体燃料であるSAFの活用を柱に据えた。

「SAFは、バイオマスや廃食油、排ガスなどを原材料としており、従来のジェット燃料よりもCO2排出量が約80%削減されます。これを従来の燃料に混ぜて使用することで、排出量を段階的に減らしていきます。2020年10月に日本発の国際線定期便に初めてSAFを搭載して運航を開始し、2022年11月には国内線定期便でも使用しました。2030年までに航空燃料の10%以上をSAFに置き換えることを目指しています」と宮田氏は言う。

しかし、SAFを活用する上では、乗り越えるべき課題も少なくない。最も大きな課題は供給面だ。「現在、SAFは欧米を始め、ごく限られた企業だけが製造しており、世界全体の供給量は従来燃料のわずか0.03%しかありません。価格も従来燃料の2~10倍と高価になっています。供給量を十分に増やし、品質・価格面で安定的に利用できるようになることが重要です」(宮田氏)。

国産SAFの安定供給実現に向けた取組みの1つが、有志団体「ACT FOR SKY」だ。2022年3月よりANAを始めとする航空会社やプラントエンジニアリング会社などが共同で設立し、国産SAFの商用化と普及・拡大を進めている。

「SAFを普及させるためには、原材料調達から製造、空港への輸送、貯蔵、補給に至る国内のサプライチェーン全体を整備しなければなりません。当社だけでなく、数多くの有志企業との協業が不可欠です。SAFが使用できない状況となれば、将来的に日本の空港の国際競争力が失われ、訪日観光客が減少する恐れもあります。航空業界だけでなく、日本経済の発展にもかかわる課題であり、国産SAFのサプライチェーン形成は重要な取組みです」と宮田氏は話す。

ANAホールディングス 上席執行役員 グループCSO 宮田 千夏子氏

ANAホールディングス 上席執行役員 グループCSO 宮田 千夏子氏

Scope3のCO2排出量削減に貢献

ANAグループでは自社グループ内でのカーボンニュートラルに取り組む一方で、さらに、航空輸送を利用する顧客企業のサプライチェーンにかかわるCO2排出量である「Scope3」の削減に貢献する取組みも進めている。

「GHG(温室効果ガス)排出量の算定・報告の国際基準である『GHGプロトコル』では、自社の事業活動に関連する事業者や製品の使用者が間接的に排出するGHGをScope3と定義しています。企業に対してこのScope3まで把握・管理し、開示することを求める動きが強まっています。

航空輸送との関係では、貨物輸送や、社員の出張にかかわるCO2排出が顧客企業様のScope3となります。このScope3のCO2排出量を見える化し、具体的な対策をすることに、どの企業も苦労している状況です。」(宮田氏)

そこで同社は、顧客企業に向けて、SAFのコストを一部負担してもらうことで第三者機関の認証を受けたCO2排出量削減証書を発行し、各社のサプライチェーン全体でのCO2削減に活用してもらうというパートナーシップ・プログラム「SAF Flight Initiative」(以下、SFI。「SAF Flight Initiative プログラム」の詳細はこちら (外部サイト))を立ち上げた。2021年9月、大手ロジスティクス企業3社との協同でSAFを使用した貨物便を運航したのを始まりに、2年近くにわたって実績を重ね、2023年5月時点で13社がこのプログラムに加盟している。

ANAホールディングス_図表1

出典:ANAホールディングス

この取組みの立ち上げや運用を支援するのが、KPMGコンサルティングだ。同社はCO2排出量削減証書を発行するための保証業務や、発行に至るまでのサービスデザインに携わり、さらに円滑な運営・推進に向けて、会計・税務処理、規制や関連企業の動向に関する情報提供や、パートナー企業との協業に向けたアドバイス業務などを行っている。

「輸送によるCO2排出量をいかに『見える化』するかという点は、企業にとって喫緊の課題となっています。環境省は2024年3月を目途に、Scope3で求められている間接的なCO2排出量について、実測に基づく『一次データ』で算定させる方針を示しました。これまでのように、産業平均に基づく算定ではなく、実際に排出した量に基づく算定と報告が求められるようになるわけです。こうしたCO2排出量削減への動きが加速するなかで、SFIのような先進的パートナーシップ・プログラムに対する関心はますます高まっていくでしょう」とKPMGコンサルティングの代表取締役社長 兼 CEOの宮原正弘は語る。

「環境省の新たな方針によって、企業のGX(グリーントランスフォーメーション)に対する意識はますます高まりつつあります。また、“企業が持続可能な社会の実現にどのように貢献しているのか”という非財務情報が投資家による投資判断の材料として重視されるようになってきたことも、SFIへの関心に結び付いていると実感しています。ANAグループとしては、そうしたニーズにしっかりとお応えしながら、輸送によるCO2排出量の『見える化』と、SAFの活用による具体的なソリューション(SFI)をご提案し、お客様とともに脱炭素化を推進していきます」と宮田氏は話す。

さらに、いち早くこうした未来に向けた投資、価値観の転換へ向けた取組みを進めていくことで、日本企業がグローバルをリードできる存在になりえ、航空業界だけでなく産業全体の発展につながるはずだと宮田氏は展望する。「今後、世界を見据えて取組みを進めていく上でも、各国の規制に関する最新の情報や対応が不可欠です。そうした面でもグローバルネットワークを持つKPMGコンサルティングには、強力な推進役として期待しています」(宮田氏)。

航空業界のカーボンニュートラルは、1社の力だけで実現できるものではない。SDGsの17番目の目標が「パートナーシップで目標を達成しよう」となっているように、業界をけん引するリーディングカンパニーとともに、顧客やサプライチェーンを構成するすべての企業が力を合わせることが求められるだろう。

ANAホールディングス 上席執行役員 グループCSO 宮田 千夏子氏

ANAホールディングス 上席執行役員 グループCSO 宮田 千夏子氏

ANAホールディングス株式会社

概要

航空事業を中心としたエアライングループとして、国内外の航空ネットワークや顧客基盤を活かしながらさまざまな事業を展開。

「ワクワクで満たされる世界を」を経営ビジョンに掲げ、空からはじまる多様なつながりを創り、社員・顧客・社会の可能性を広げる活動に取り組んでいる。

URL https://www.ana.co.jp/group/
本店所在地 〒105-7140 東京都港区東新橋1丁目5番2号 汐留シティセンター
ANAホールディングス 航空機

KPMGの支援内容

プロジェクト名 SAF関連事業推進プロジェクト支援
期間 2022年6月~2023年3月
支援内容 「SAF Flight Initiative」のためのGHG(温室効果ガス)プロトコルに基づくScope3の削減に係るサービスモデルおよびビジネスモデルのデザイン、マーケティング施策検討などの支援

KPMGコンサルティングより

CO2排出量の削減に向け、企業はさまざまな施策を実施していますが、個社による施策だけでは限界があるのも事実です。その点、貨物輸送や社員の出張などで航空便を利用する頻度の高い企業にとって、ANAホールディングス様が実施するSFIは、Scope3で求められる間接的なCO2排出量の削減効果を含めて有効なプログラムであると言えます。グローバルネットワークを通じた豊富な知見や、会計・税務・保証業務に関するグループ会社を持つKPMGコンサルティングでは、こうしたカーボンニュートラル実現に向けた企業の皆様のGX(グリーントランスフォーメーション)への取組みを、新技術の調査やロードマップの検証、戦略策定、事業性評価などの観点から支援させていただくことで、脱炭素社会への移行を推進してまいります。

KPMGコンサルティング株式会社
代表取締役社長 兼 CEO 宮原 正弘
アソシエイトパートナー 平田 和義

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