本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
衛星画像データを基にしたデジタルツインの活用
最もなじみのある宇宙利用形態の1つに、衛星画像があります。観測衛星の性能向上で、平面的な画像から立体的な分析も可能な全球ベースのデータ基盤などへと発展し始めています。
衛星画像を取得する地球観測衛星には、高度500kmの低軌道を周回する衛星もあれば、静止軌道と呼ばれる高度3万6000kmから観測する「ひまわり」のような気象衛星もあります。
観測衛星の性能を示す例として、画像の解像度を示す「空間分解能」と観測頻度を示す「時間分解能」があります。一般的に、空間分解能と時間分解能はトレードオフ(二律背反)の関係にあると言われます。しかし、昨今は衛星本体やセンサーの小型化・高性能化が進んだことで、複数の小型観測衛星を低軌道で連動させる「衛星コンステレーション」が運用されるようになりました。
衛星画像の解像度が上がるとともに観測頻度も増えたことにより、衛星画像のデータ量も指数関数的に増加しています。膨大なデータから変化を捉えて素早く意思決定に提供するには、人工知能(AI)と機械学習とを組み合わせた解析が必要不可欠です。近年では多くのスタートアップ企業がこの領域で事業を展開しています。将来は衛星画像と他の地図データなどを組み合わせた3次元(3D)地図のモデル化、さらに、3D地図モデル上に時系列データを重畳させることで、4次元的なデータプラットフォームの構築が期待されます。
現実空間をそのまま仮想空間上に再現する「デジタルツイン」で、現実のデータをモニタリングし、AI分析やシミュレーションをすることで、将来予測の高度化などが可能となります。
公的機関では、欧州連合(EU)の欧州委員会が2021年に欧州宇宙機関(ESA)や欧州気象衛星開発機構(EUMETSAT)などと、気象変動対応や自然災害予測の高度化を目的とした「デスティネーションアース(DestinE)」プロジェクトを始めました。EUの地球観測プログラム「コペルニクス」による画像のほか、民間商用衛星からのデータも利用して、2030年までに地球全球分のデジタルツインを完成させる計画です。
また、米海洋大気局(NOAA)は、海面から大気圏、宇宙天気など、多岐にわたるデータを地球のデジタルツイン上に一元化させることにより、氷河の融解や干ばつ、山火事などの気候変動にかかわる予兆検知の精度向上を目指しています。
民間でも、衛星画像を基に構築したデジタルツインの活用は進んでおり、将来的には自動運転用地図のほか、ゲームをはじめとするエンターテインメント市場も有望な導入先として期待されます。
衛星画像は、AIや機械学習技術、ほかのデータソースと組み合わせることによって、平面から立体、さらには時間軸も加味されたデータ基盤として新たな価値をもたらす局面を迎えています。これらの取組みは、組織の意思決定に貢献していくことが期待され、そこから派生するであろう新たなビジネスモデルおよびエコシステムの形成が注目されます。
日経産業新聞 2023年3月29日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 倉澤 秀人