本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
広がる宇宙ビジネス参入への可能性
産業界が宇宙ビジネスへの関心を高めています。コスト障壁や技術障壁の低下などを背景に、これまで宇宙とは関連がなかった企業が宇宙ビジネスを自社の事業に活用できないかと考え始めています。
日本ではこれまで大手製造企業がロケット製造・人工衛星運用などを行い、宇宙ビジネス領域で存在感を示してきましたが、スタートアップが登場、異業種からの参入も始まっています。筆者の実感としても宇宙ビジネスに関する企業から問い合わせを受ける頻度は確実に増えています。さまざまな企業が宇宙ビジネスへの参入を探る動きは、今が宇宙ビジネスのティッピングポイント(臨界点)前夜であることを予感させます。
宇宙ビジネスは従来、参入障壁が高く、技術力や資金力のある一部の大企業のみが手掛けられるものと受け止められてきました。多くの企業では「まだ取り組むには時期尚早」「そもそもどう取り組んでいいかわからない」というのが現状です。宇宙ビジネスへの参入が新たな事業の可能性を切り開くのか、答えは明確には出ていません。しかし、民間の宇宙ビジネスへの参入の可能性が広がり始めた今は、参入を検討する好機とも言えるでしょう。
では、参入の検討をどう進めればいいのでしょうか。まずは自社の既存事業の経営資源を基にした参入が考えられます。製造業の企業であれば、自社の製品や製造技術がロケットや人工衛星の製造に活用できないかを検討してみることです。昨今では、民生部品を積極的に採用してロケットや衛星の製造コストを削減しようとする動きもあります。
ロケットを製造して打ち上げることや衛星を製造して運用することだけが宇宙ビジネスではありません。宇宙ビジネスを構成する要素は多様で、さまざまな業種の企業に宇宙領域への参入検討の余地があります。先入観にとらわれないフラットな思考で考えてみるべきでしょう。可能性を探るため、宇宙ビジネスに精通した専門家に尋ねることも有効です。
次に考えるべきは、社外資源の利用、すなわち他社との業務・資本提携、合弁事業などです。自社に足りない要素を他社と補完し合うことで事業化を加速することができます。宇宙スタートアップへの投資は、米国では個人投資家やベンチャーキャピタルからが多いのに対し、日本ではコーポレートベンチャーキャピタル、すなわち投資を本業としない企業による投資割合が高くなっています。特にITや通信、建設業界による投資が目立っており、こうした業種が宇宙ビジネスに期待をかけている証左と考えられます。
この異業種との結合こそが、日本の宇宙ビジネスの活路になる可能性があります。「宇宙」と組み合わせる何かを想像し、ビジネスを創造するアクションの積み重ねが、日本の宇宙産業の振興につながり、新たなビジネスを生む源泉ともなるでしょう。
参入に至らないまでも「検討してみる」ことが、激変する宇宙ビジネスに対する洞察力を鍛え、将来の参入可能性へのロードマップとなるだけでなく、企業が新たなビジネスを創造するうえでも有意義なアクションとなると言えるでしょう。
日経産業新聞 2023年3月22日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター 宮原 進