本連載は、日刊工業新聞(2023年2月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
高まるデータを活用した内部監査の重要性
企業でデジタル変革(DX)やデータ活用が進むなか、内部監査業務においても変革が求められています。従来、コンピュータ利用監査技法(CAAT)は有益な監査手法として活用されてきましたが、データ分析スキルを持つ人材の不足などの制約もあり、内部監査部門内でのデータ活用の定着・浸透が企業の課題となっています。
一方、デジタル化の加速や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)におけるリモート監査の普及に伴い、利用可能なデータの種類は増加しており、操作性が高い分析ツールも登場しています。このような環境のもと、データを活用した内部監査の重要性がさらに高まっています。
データを活用した内部監査を実現するにあたり、まず重要となるのは目的の具体化です。最初に目的を明確にしたうえで、担当者が日々の監査業務での活用をイメージできるよう、具体的な計画を作成することが必要となります。活用目的に応じて取得するデータの種類や粒度、分析手法、求める結果の精度などが異なりますが、これらのデータの具体的な活用場面には、監査計画時の拠点ごとのリスク評価、重点領域の特定、往査先の選定・優先順位付け、サンプリングにおける特定リスクの考慮、準拠性の確認基準などが考えられます。
次に重要となるのは、「データ」「人材」「プロセス」「分析ツール/環境」の4要素について検討し、データ活用の方向性を決定することです。データ活用を推進する組織において、「有効なデータはあるがそのデータを分析できる人材がいない」「プロセスが定義されていないためデータの分析は散発的でノウハウが蓄積されていない」「高価なツールを導入したが利用におけるルール・環境が整備されていない」といった企業の課題が顕在化しています。
また、スモールスタートとクイックウィン(早期に成功すること)という考え方も重要です。データ活用を実現するには、長期的な方向性・目指すゴールを見据えつつも、まずは試験的なプロジェクトや監査業務の一部などから試行する必要があります。その過程のなかで、課題はどこにあるのかを見極め、計画を軌道修正しながら、データ活用の効果を最大化できるよう取組みを進めるべきでしょう。このような個々の課題を乗り越え、小さな成功を積み上げることで、社内の期待値やモチベーションが醸成され、推進力を高めることが可能となります。
最後にリーダーシップの重要性にも触れておきます。内部監査部門にかかわらず、組織のデータ活用を推進するためにはトップの指導力が不可欠です。内部監査部門長やリーダーには、方向性や活用場面の迅速な意思決定、他部門や外部専門家と円滑な連携を図るための調整、内部監査部門内で必要なリソースの再定義・確保、課題発生時の対応支援といった役割が求められます。
データ分析を活用した内部監査態勢を構築し、データ活用人材を育成することは、リスクアプローチ監査や経営に資する監査を実現し、リスク低減の一助となるでしょう。
日刊工業新聞 2023年4月7日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター 安田 壮一