本連載は、日刊工業新聞(2023年2月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
アジャイル開発の特徴とリスク
デジタル変革(DX)は、データやITソリューションの活用により実現されます。既製のITサービスを利用し、ビジネスモデルや業務プロセスを変革していこうとするケースもありますが、基本的にはシステム開発を伴うものとなっています。
近年では、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)といった新技術を採用することも珍しくはなく、インターネットを通じて顧客や取引先に直接利用させるアプリケーションを開発することなども一般的となっています。いち早く新たな機能やサービスを提供したり、利用者にとって使いやすい画面や操作方法に改善したりすることが、ビジネスの成果に影響します。
DX時代と呼ばれる現在、ビジネスの展開はシステム開発のスピードに左右されます。そこで、多くの企業では従来型の開発手法を見直し、「アジャイル型」を採用することが多くなりました。
アジャイル開発とは、ソフトウェアの開発手法の1つであり、機能単位の小さなサイクルで、計画から設計・開発・テストまでの工程を繰り返すことにより開発を進めるものです。比較対象として、「ウォーターフォール型」の開発手法が挙げられます。開発工程を明確に区切り、上流に相当する要件定義から下流のシステムリリースまで、厳格に管理されるものです。
アジャイル開発の特徴は、仕様確定の柔軟さとリリースまでの開発スピードです。新規事業の立ち上げやサービスの拡充を短期的に繰り返す場合などに好まれる傾向にあります。一方、小規模なチームを組成し、機能単位に要件定義と開発・テストを繰り返す、この柔軟かつ迅速な手法には、リスクが伴うことも忘れてはならないでしょう。
まず1つ目は、何事にも柔軟なプロジェクト運営という誤認識により、進捗や課題管理を難しくしてしまうことです。システム品質の低下や納期遅延という事態を招くため、各企業においてアジャイル開発採用時のプロジェクト管理手法を確立する必要があります。
次に、開発時の記録が残りにくいことです。要件やテストパターンの網羅性確保、関係者間での共有、障害時の確認などが困難になってしまう可能性があります。柔軟さを損なわない程度のアジャイル開発の標準手続きを定め、承認記録や成果物を定義することが望まれます。
最後に、体制やコミュニケーション上の課題に依拠するリスクです。小単位のチームのリーダーの経験・スキルに影響を受けてしまいかねません。また、変更やリリースの権限が集中してしまうこともあります。システム開発や運用は、職務や環境を分離することによって誤謬や不正を防止してきた経緯もあり、柔軟さと迅速さを追求しながら、適切なけん制を取り入れることによって、高品質なシステム開発を実現することが期待されます。
日刊工業新聞 2023年3月31日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター 外山 了至