民間の創意工夫を引き出すアベイラビリティ・ペイメント

アベイラビリティ・ペイメント方式とは、民間事業者のパフォーマンスに応じた対価を公共が支払う手法です。本記事では身近な事例から解説します。

アベイラビリティ・ペイメント方式とは、民間事業者のパフォーマンスに応じた対価を公共が支払う手法です。本記事では身近な事例から解説します。

公共調達において民間の創意工夫を引き出す「アベイラビリティ・ペイメント」

あなたが洋服のクリーニングを依頼する場合を考えてみましょう。

Aさんには、「X洗剤で5分洗った後、2回すすいで、3分脱水してください。乾燥後にアイロンをお願いします」と依頼します。

Bさんには、「汚れのないアイロンのかかった状態にしてください」とお願いします。

Aさんは、指示に従って、「X洗剤で5分洗い→2回すすぎ→3分脱水→乾燥→アイロンがけ」をしました。

Bさんは、「最初に手洗いで部分的な汚れを落とし、Y洗剤で3分洗い→3回すすぎ→2分脱水→乾燥→アイロンがけ」をしました。Bさんが最も適切と考える方法を選択した結果です。

「洋服を汚れのないアイロンのかかった状態に仕上げる」いう目的に対して、その方法まで指示する場合と、方法は自由とする場合、どちらが創意工夫を発揮できるでしょうか。当然、後者でしょう。

公共調達にあてはめてみると…

従来の公共調達においては、発注者である公共が、業務の内容や実施方法、実施体制等を示す仕様書を提示し、受注者である事業者は仕様に基づいて業務を実施することが一般的でした。これを「仕様発注」と言います。これは、冒頭のAさんへの依頼方法に該当します。例えば、施設の監視において配置人数の規定があれば、事業者が不要と考える場合であっても、指定の人数を配置する必要があります。

一方、公共が求める性能を提示し、性能を確保することができれば、実施方法・体制については受注者に裁量があるとする方式を「性能発注」と言います。これは、Bさんへの依頼方法に当たります。受注者は、技術やノウハウを活用し、より効率的・効果的に業務を実施します。施設の監視においては、DX化によって遠隔監視を行い、配置人数を減らすといったことも可能となります。

もっとこうしたい!

話をクリーニングに戻します。Bさんは生地が傷みにくい洗剤を開発し、また、汚れがつきにくい加工方法を生み出しました。より創意工夫が加えられ、よいサービスが生まれました。民間事業者が提供するサービスであれば、新しいサービスメニューを提供することができるので、Bさんのような行動が促されるかもしれません。では、公共調達においてこれを実現するにはどうすればよいでしょうか。

インセンティブの付与

Bさんのような取組みに金銭的なインセンティブを付与するメカニズムを組み込めばよいのです。その方法として「アベイラビリティ・ペイメント方式」があります。

アベイラビリティ・ペイメント方式とは、民間事業者のパフォーマンスに応じた対価を公共が支払う手法です。期待以上のパフォーマンスが達成された場合は民間事業者にボーナスが支払われます。反対に、期待されるパフォーマンスが満たされなかった場合には、減額も可能です。

国においても、指標連動方式という名称で「PPP/PFI推進アクションプラン(令和3年改定版)」にて取り上げられ、その後、令和4年5月に内閣府民間資金等活用事業推進室から「指標連動方式に関する基本的考え方」が公表されています。

パフォーマンスとは?

パフォーマンスの設定について考えてみましょう。

例えば、道路の修繕管理においては、緊急時対応、顧客満足、安全性検査、街路樹の管理、道路清掃等の項目について、それぞれ公共が達成すべきと考える水準があります。これらの項目の中から公共が重要と考えるものを抽出し、項目ごとに、増額・減額方法を設定する方法が考えられます。また、多くの項目を対象に加重平均をとって1つの数値「パフォーマンス・スコア」を算出し、その値をもとに、増額・減額方法を設定する方法もあります。下図の設定であれば、パフォーマンス・スコアが100であれば、委託費に乗じる割合が100%となり、委託費を満額受け取ることができます。パフォーマンス・スコアが100%未満の場合は減額され、100%を超える場合は増額されます。このような方法があらかじめ示されていれば、パフォーマンス・スコアを上げようという民間事業者の取組みが、事業期間にわたって促進されます。

民間の創意工夫を引き出すアベイラビリティ・ペイメント-1

「脱炭素」に向けた取組みにも有効

2050年カーボンニュートラルの実現のために、公共サービスにおいても「脱炭素化」に資する取組みが求められています。一定水準の達成を求めるのではなく、常により上位を目指すことを求めるアベイラビリティ・ペイメントは、「脱炭素化」に資する取組みとの親和性が高いです。期待される成果の1つとして脱炭素に係る指標を入れ込むことで、カーボンニュートラルに向けた取組みを促進することも可能となります。

民間からも提案

公共サービスの価値向上等を目的に、公共が公共サービスに関して民間事業者からの提案を受け付ける「民間提案制度」があります。内閣府が「PPP/PFI事業民間提案推進マニュアル」を作成するなど、国がその促進に力を入れています。

民間提案の受け入れ判断における公共の悩みの1つとして、モニタリングが適切にできるかという点があります。アベイラビリティ・ペイメント方式を用いることによって、あらかじめ確認すべき指標が明確となり、モニタリングが実施しやすいという点も挙げられます。このようなメリットを生かし、自社の技術やノウハウを活用した公共サービスに、アベイラビリティ・ペイメント方式を入れ込んで提案することも有効ではないでしょうか。

まとめ

国内の公共施設については、昭和40年代、50年代に建設されたものが多く、老朽化が進んでいます。施設を適正な状態で活用し続けるには、維持管理・更新が必要であり、財源は限定的である中、効率的かつ効果的な維持管理・更新が求められています。

こうした厳しい制約下に置かれた国内インフラの効率的、かつ、効果的な維持管理・更新を実現するためには、民間の技術やノウハウの活用が避けて通れなくなってきていると考えます。民間の創意工夫を促す方法として、仕様発注から性能発注への移行、さらに、性能発注の効果を高めるアベイラビリティ・ペイメント方式の積極的な活用が期待されます。

執筆者

あずさ監査法人
コンサルティング事業部
ディレクター 西村 留美

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
コンサルティング事業部
ディレクター 林 哲也

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