日本唯一の国際線貨物専門航空会社として、ハイクオリティーな貨物輸送サービスを提供する日本貨物航空株式会社(NCA:Nippon Cargo Airlines Co., Ltd.)。「安全運航」という絶対に譲れない一線の死守と、市場の変化に即応した柔軟かつ迅速な輸送の両立を目指す同社は、経営判断の要となる会計システムと会計業務を全面刷新した。

航空貨物“専業”としての強み

1978年、日本初の国際線貨物専門航空会社として産声を上げ、設立45周年を迎えるNCA。「航空貨物輸送を通じて国際交流を支え、世界の社会、経済、文化の発展に貢献します」という企業理念のもと、世界最高水準の輸送品質を目指してサービスに磨きをかけている。現在は貨物専用機のボーイング747-8F型8機による自社運航を中核として、アジアや米国、ヨーロッパなどに定期・不定期の航空貨物輸送サービスを展開している。

「機材の保有を抑え、財務負担を軽くするライトアセット経営を実践している航空会社もありますが、当社は自らの資産(機材)を整備・運用することで、輸送品質に対する責任を果たしたいと考えています。なかでも絶対に譲れないのは、『安全運航』に対する責任です」と語るのは、同社 代表取締役社長の大鹿仁史氏である。

一方、地政学リスクの高まりとともに、海上輸送をはじめとするサプライチェーンの混乱と停滞が深刻化しているが、機材を自社保有し、航空貨物“専業”としてサービスを提供する同社には、緊急輸送をはじめとする顧客のニーズに柔軟に対応できる強みがある。「サプライチェーンの高度化・効率化に貢献できることが、当社の提供価値であり誇りです。また、いざというときに部品や製品を早く運べる緊急輸送の手段として、当社の航空貨物便をご利用いただく機会は増えています」と大鹿社長は語る。

「あくまで日本の国際物流の中心は海上輸送です。そのなかで当社はどのような役割を求められ、価値を提供できるか、常に意識しながら社会全体の効率化や合理化に貢献していきたい。また、昨今のニーズによって航空貨物輸送に注目いただく機会は増えていますが、当社はあくまでインフラを担う企業。目立たないところで、しっかりとお客様を支えられる状態を続けていくことこそが本来の義務だと考えています。」(大鹿社長)

NCAが目指す、安全運航と柔軟かつ迅速な輸送サービスの両立を実現するには、従業員がより多くの時間を安全やサービス品質向上に割けるようにする必要がある。そのためには、社内システムとオペレーションの効率化を図ることが欠かせない。

その一環として、同社は10年以上利用し続けていた会計システムを2022年4月に全面刷新した。新しいシステムに合わせて、KPMGコンサルティングの支援を得て業務プロセスも抜本的に見直した。

日本貨物航空 代表取締役 社長 大鹿 仁史 氏

日本貨物航空株式会社 代表取締役 社長 大鹿 仁史 氏

日本貨物航空 経理部長 小山 健一 氏

日本貨物航空株式会社 経理部長 小山 健一 氏

会計システムと業務を刷新

NCAによる会計システムの見直しには、ますます激化する市場の変化に柔軟に対応する狙いもあった。

大鹿社長は、「そもそも航空機を安全に運航させるには慎重な準備が必要です。このリードタイムを短くするのは限度があるので、他の部分でスピードアップを図らなければなりません。会計システムを刷新して、情報を一元管理できるようにすることは、非常に重要な取組みでした」と語る。

市場の変化を把握することができれば、ひいてはサプライチェーンの課題解決にもつながる。これによりNCAの価値もますます高まるのである。

上記のビジョンのもと、会計システムと業務プロセスを刷新するプロジェクトは2020年春に始動した。プロジェクト全体をリードしたのは、経理部長の小山健一氏である。

小山氏は、プロジェクトを円滑に進めるべく、KPMGコンサルティングに支援を依頼した。選定理由については、「KPMGには以前から、当社の海外拠点が会計・税務でお世話になっていたこともあり、安心感がありました。海外の商取引にも精通されていますし、将来的な海外拠点の会計システムの展開についても支援が得られる点を期待してお願いしました」と振り返る。

従来の会計システムにおける大きな課題は、紙による業務処理の負担であった。「導入から10年以上が経過し、その間に事業規模が大きくなったことで、業務処理のボリュームも激増しました。経理部員は、月末月初には大量の伝票を処理することに精一杯で、他の業務まで手が回らず、ほとんど余裕がない状況でした。これでは、経理を経験したいという人材もいなくなると考え、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)から取り掛かり、会計システムの刷新につなげました。」(小山氏)

NCA_図表

業務刷新で生まれた新たな展望

そこで、新しい会計システムでは業務のペーパーレス化を進め、伝票入力業務などもできる限り省力化することにした。

「従来の業務フローでは、各部門の担当者が入力した伝票と請求書などの証憑類が紙で経理部に送られていました。また、各部門からの依頼書に基づいて経理部員が会計システムに入力するという作業も一部で行っていました。証憑類を会計システムに電子的に保存すれば紙のやり取りが必要なくなりますし、できる限り操作を簡略化して会計システムを直接操作してもらえれば、二重になっていた入力業務も解消できます。経理部員は内容の精査に集中できるようになり、業務効率は格段に改善されました」と語るのは、当時、経理部に所属し、プロジェクトマネジャーであった高橋慶子氏である。

紙の伝票を確認するためにオフィスに行く必要がなくなったので、従来では困難だった経理部のリモートワーク化も進んだ。さらに、以前は各部門の事務所から伝票が到着するまでのタイムロスがあり、それが決算期の忙しさに拍車を掛けていた。各部門で入力すればそのままシステムに反映されるため、経理部にデータが届くまでの時間も短縮された。

「ペーパーレス化やレポートの自動化も進み、経理部員が市場変化など“森を見る”業務にシフトする環境が整いつつあります」と高橋氏は語る。

日本貨物航空株式会社 オペレーショングループ 危機管理・保安室 アシスタントマネジャー 高橋 慶子 氏

日本貨物航空株式会社 オペレーショングループ 危機管理・保安室 アシスタントマネジャー 高橋 慶子 氏

日本貨物航空株式会社 経理部 決算管理チーム アシスタントマネジャー 岡本 圭介 氏

日本貨物航空株式会社 経理部 決算管理チーム アシスタントマネジャー 岡本 圭介 氏

会計システムと業務の刷新プロジェクトは、2020年春から約2年がかりで終了した。プロジェクトマネジャーとしてプロジェクト全体の進行を管理した経理部の岡本圭介氏は、「会計年度が変わる2022年4月に本稼働させるのが必達目標だったのですが、KPMGコンサルティングが伴走しながらプロジェクト支援をしてくれたこともあり、予定どおりに稼働できました。緊急事態宣言下には、関係者全員がリモートで作業を行わなければならない場面もありましたが、メンバー間で全体管理を密にすることで大きな問題にはなりませんでした。会計システム刷新と同時に業務フローが大きく変わりましたが、大きな混乱もなく運用を開始できたのは、変化の早い航空貨物業界で日々スピード感をもって対応している各部門・支店の協力があってこその成果でした」と語る。

また小山氏は、経理部員の業務知識をさらに向上させ、集約された会計データを用いて、社内のコスト削減や業務改善につなげていきたいという。そして、NCAはこれからも、10年、15年先を見据えながら、さらなるシステムと業務の改革に取り組んでいく方針だ。

日本貨物航空株式会社

概要 本邦唯一の国際線貨物専門航空会社として、グローバルに国際航空貨物輸送事業を展開。安全運航を徹底しつつ、機動力や品質等の面で世界トップクラスの貨物専業航空会社に成長することを目指している。
URL https://www.nca.aero
本店所在地 〒282-0011 千葉県成田市成田国際空港内 NCAライン整備ハンガー
日本貨物航空 航空機

KPMGの支援内容

プロジェクト名 会計システムの刷新と経理業務のBPR支援
期間 2020年1月~2022年6月
支援内容 標準保守終了に伴う会計システムの刷新、および伝票や請求書などの証憑類のペーパーレス化、会計システムによる自動化を通じて、経理業務プロセスの抜本的改革を同時並行で支援

KPMGコンサルティングより

日本貨物航空様は、「安全運航」という航空会社として譲れない一線の死守と、マーケットの変化に即応する柔軟かつ迅速な輸送体制の確立のため、会計システムと会計業務プロセスの刷新に取り組まれました。「安全運航のためには、慎重な準備が必要。このリードタイムを短くするのには限度があるので、ほかの部分でスピードアップを図らなければならない」という大鹿仁史代表取締役社長のお言葉が強く印象に残っています。業務プロセス変革によって時間を捻出し、会計システムの刷新によって、変わりゆく市場ニーズをタイムリーにキャッチアップできる体制を整えたことが、「安全運航」と柔軟かつ迅速な輸送の両立に結び付いたと言えます。変化の激しいなかでも、ビジネスを揺るぎないものにする基盤を創りたいという強い意思を感じるプロジェクトでした。

KPMGコンサルティング株式会社
ファイナンスストラテジー&トランスフォーメーション
パートナー 関根 岳之

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