“インキュベーション村”のキーパーソンに聞く、地方創生の仕掛け方

地域発ベンチャー企業を次々と成功させる“インキュベーション・ヴィレッジ”とも呼べる村があります。村のキーパーソンに地域発ベンチャーが続々誕生する秘訣を伺いました。

地域発ベンチャー企業を次々と成功させる“インキュベーション・ヴィレッジ”とも呼べる村があります。村のキーパーソンに地域発ベンチャーが続々誕生する秘訣を伺いました。

人口1,400人の“インキュベーション村”で地域発ベンチャーが続々誕生する理由

地域発ベンチャー企業を次々と成功させる“インキュベーション・ヴィレッジ”とも呼べる村があります。岡山県の北東端、兵庫県と鳥取県との県境に位置する西粟倉村です。人口1,400人、村面積の93%を森林が占めます。2008年、同村は「百年の森林構想」を掲げ、最大の地域資源である「森林」を活かしながら起業家を発掘、育成する試みを開始しました。以来、継続的に50社超のベンチャーが誕生し、移住者は200人を数えます。地域に、ベンチャーを生み育て、活力として取り込んでいくエコシステムが形成されているのです。

2009年に同村で起業し、以来、村の木材の6次産業化と地域への移住・起業支援事業を手がけてきたエーゼロ株式会社(以下、「エーゼロ」)代表(インタビュー当時)の牧大介氏と、行政側のキーパーソンである同村地方創生特任参事の上山隆浩氏に“インキュベーション・ヴィレッジ”の秘訣を聞きました。そこには、村の「ありたい姿」に向け、ヒト・モノ・カネ(制度)・情報をフル活用する“したたかさ”がありました。

「思い」がある起業志願者を呼び込む

宇都:ベンチャーの創出、育成を地域の活力にしようとする自治体が増えています。地域発ベンチャーを生み出そうとするとき、まず問題になるのは人材です。ベンチャーマインドを持った人材を地域に呼び込み、定着してもらうためには、何から取り組むべきでしょうか?

牧:人材については、その地域に「チャレンジする人」がいることが呼び水となり、「挑戦したい人」が集まってくるという連鎖反応が引き起こされるものだと思います。西粟倉村は2004年、平成の大合併の際に合併しないという選択をしました。その当時から、民間と役場の両方に、起業をはじめ新しいことに挑戦的な、熱量の高い「チャレンジする人」がいたのです。

加えて同じ時期、定期的に村役場や森林組合などから主要な人が集まり、村の未来をどう切り開くかを「議論する場」がありました。議論を重ねる中で、水面下でじわじわと熱量が上がった結果、実際に起業する人が出てきたという印象です。

宇都:牧さんご自身も、西粟倉村に起業家として定着された一人です。

牧:私自身、はじめは西粟倉村は仕事先の1つだったのですが、熱量の高い方々に引っ張られ、巻き込まれて、気づいたらほとんどが西粟倉村の仕事になっていたというのが現状です。人を受け入れる場という意味では、西粟倉村の役場にはベンチャー投資への理解と、起業する人をむやみに萎縮させない「未知のものに対する寛容さ」があります。温かく見守って挑戦を続けさせてくれるので、思いきりチャレンジできました。

上山:ベンチャーマインドを持った人材を受け入れるには、自治体が相応しい「土壌」を持っておくことが大切です。西粟倉村は合併しない道を選んだことから、いかに生き残るか、50年先にどうなっていたいか、村長を中心に真剣に議論してきました。村長は、「全国の中山間地域のモデルになる」という強い意志とビジョンを持っていたので、チャレンジする人を受け入れられた。もともと峠の茶店的村で人の出入りが多く、住民が他所の人を受け入れやすいという土地柄もあったでしょう。

宇都:都市から人を呼び込むために、具体的にはどんな取組みをされていますか?

上山:まず、地方創生や起業家育成を手掛けるNPOと連携して、地域でがんばりたい人に向けたセミナーを都市部で開催しています。また、実際に移住したいという人に対しては、空き家を移住者に貸す不動産事業を行うなど、段階的なスキームを組んでいます。

ただ、西粟倉村の場合は、誰でもいいから来てほしいということではなく、地域の「ありたい姿」があったうえで、そのために必要な人材を呼び込む、という方向になってきています。地方における移住者獲得はレッドオーシャン化していますが、単純に「若い人に来てほしい」というだけでは、もう、競争のスタート地点にさえ立てないと思います。

宇都:「ありたい姿」があったうえでふさわしい人材を呼び込むという考え方は、企業が、自社のパーパスに共鳴する人を採用することと似ています。

上山:そうですね。人やベンチャーがなぜ定着するのかといえば、村が「ありたい姿」を持つと同時に、起業志願者に対して「何をやりたいか」を問い、自覚してもらう仕組みをつくっているからです。役場が、牧さんのエーゼロと連携して開講していた起業支援プログラム「ローカルベンチャースクール」はその1つです。

このプログラムでは、起業したい移住希望者や地元の人に、企画書を作ってプレゼンをしてもらいます。メンターとしてベンチャー経営者や育成の専門家などを招き、役場の担当者、エーゼロの担当者らと一緒に、起業志願者が何をやりたいのか、「思い」があるか、事業がビジネスとして成立するかといった点を徹底的に問い、事業計画を突き詰めていきます。

「田舎に住みたいから」という理由で何となく起業するのではなく、本人がやりたいことを明確にしたうえで起業してもらう。だから、これまでに起業した52社中50社もが存続しているのだと思います。

「制度」は事業を実現するための「ツール」

宇都:地域で起業家やベンチャー支援を行う場合、どのような課題があるでしょうか? また解決策はありますか?

上山:地域で新しいことを始める時、課題は「リソース(人)」と「ファイナンス(資金)」です。西粟倉村は、地域おこし協力隊制度(国からの隊員1人あたり480万円を上限とする交付税措置や、隊員の起業・事業承継に要する経費100万円を上限とする交付税措置等。以下、協力隊制度)などを活用して、リソースとファイナンスを確保しています。交付金や交付税でほぼ100%カバーしてチャレンジできますから、これを使わない手はありません。村の税収は住民のために使い、住民サービスは決しておろそかにしない。そこは徹底しています。

宇都:一方で、最近は国がEBPM(エビデンスに基づく政策立案)の取組みを強化し、自治体の資金の効果的な使い道やKPIの達成を求めるようになっています。

上山:西粟倉村の場合は、事業計画を作り込んだうえで採択するので、起業した時点でKPIは織り込まれていて、起業家は自分が何をすべきか、どの方向を目指していくのかをしっかりと理解しています。曖昧なままスタートしていないので、事前に想定できる問題は避けられますし、壁に直面しても軌道修正できます。

宇都:とはいえ、移住者が多いと、地元住民との関係づくりといった点でも役場は大変ではありませんか?

上山:現状、西粟倉村は住民の17%が移住者で、その方たちは、すでに村のコミュニティの中心的存在になっています。彼らは新しい移住者にとっての「先輩」として機能し、そこで自然な形で教育が行われています。また、起業した各社が、移住してきた社員や、二次創業・事業多角化などに取り組む人たちを支援し、教育、管理するエコシステムができているため、自治体としての負担は減っています。

牧:確かに、役場は協力隊制度などの活用で、民間のチャレンジに伴うリスクをヘッジしています。しかし、各社の事業が走り出した後、村民感情からくるクレームなどにはすべて役場が対応しています。上山さんは「エコシステムができている」「負担は減っている」と言いますが、その努力は生半可なものではありません。

例えば、協力隊制度の運用の工夫や改善のスピードがとても早いのです。つい先日も、協力隊制度の運用方法の大幅な改善についての役場主催の説明会に、一民間事業者として参加しましたが、制度運用をどんどん変えていくことができるのは、他地域ではなかなか見られないと思います。

上山:制度の効果的な運用には腐心しています。制度を使っていると課題感が出てくるので、運用を厳しくすることはあります。例えば、協力隊員の受け入れ事業者は、年1回の研修を受けなければその年の新たな採用はできません。経営計画については、村の審査会の審査も受けなければいけません。一方で、柔軟に対応するべきことはそのようにして、緩急をつけています。小さな村ですから、私の上には村長と副村長しかおらず、意思決定が早いことも西粟倉村の特徴かもしれません。

宇都:制度の運用についていえば、国の政策は3~5年で変化するため、自治体は短い期間で成果を出そうとし、事業者も振り回されてしまいがちです。

上山:事業の成果はすぐには出ません。都会で3年かかるものは田舎では6~7年かかるものです。それを踏まえて、起業後も安定稼働するまで伴走します。

国の政策は変化しますが、制度(補助金・交付金など)はあくまで、事業(目的)を実現するための「ツール」です。制度に合わせて事業をつくるのではなく、先に事業があり、それに合わせてツールを使っていくのです。

やりたい事業はすでにあるわけですから、同じ計画書をその都度、それに当てはまる制度、例えば、デジタル化(デジタル田園都市国家構想交付金等)、SDGsや脱炭素などの制度(省エネルギー投資促進支援事業費補助金、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金等)に合わせて書き換えるだけです。

牧:制度ができてから、それを使える事業を考えていては遅いのです。事業や試みが国より一歩先に動き出し、チャレンジしているタイミングでちょうどいい制度ができるのが理想です。そうすれば、制度ができたときにすぐに使えます。

西粟倉村は、「他の自治体がやっていないモデルを提示する」という自負を持って動いているので、まさに一歩先に動いています。

“インキュベーション村”のキーパーソンに聞く、地方創生の仕掛け方-1

第一歩は「人への投資」と「地域資源」の掘り起こし

宇都:自治体が変化を起こす第一歩として、何から始めたらよいでしょうか?

牧:役場の財布を傷めずに「人への投資」ができる仕組みという意味で、協力隊制度の活用がいいと思います。まず、起業型の協力隊制度の仕組みを整えて、人にしっかり投資するべきです。

上山:地域でよく議論して、その土地の最大の資源を見つけることでしょう。西粟倉村でいえば、森があるから木材にしよう、商材にならない木材はエネルギー源にしよう、森林不適地は環境林化しようなどと、周辺にグリグリと広げていけるんです。

広げたところに使える制度は使い、また新しい人も入ってきます。ベンチャーが事業を行って、新たに使える制度ができればまた使う……というように連鎖が起きます。

「西粟倉村だからできた」といわれることはありますが、私たちも「何もない」と思っていた中から、10年かけてここまできました。活用すべき資源を特定して広げていくことは、実はどの地域でもできることだと思います。

牧:潜在能力というか、まだ掘り起こされていない魅力は、どの地域にも必ずあります。地域の自然、文化、歴史に根ざしたものは、工夫次第で、国内だけでなく世界を市場にできます。いつもそう考え、あれとこれを結び付けようか、あれを別のやり方で使えないかなどと考え続け、日本が沈んでも浮上できるくらいの気概で試行錯誤を続けています。

宇都:長期的な視野を持ちながら、足元の制度を徹底的に使っていくことですね。貴重なお話をありがとうございました。

まとめ

デジタル田園都市国家構想をはじめ、地方創生・地域活性化の文脈では、都市と地方の格差解消が解決すべき課題として挙げられます。しかし、都市か地方かという二元的な立場を超え、「村のありたい姿」に向かって次々と新しい取組みを仕掛ける生き生きとした姿こそが、地方の進むべき方向性と感じました。

  1. 地域に根差した資源の発掘
  2. チャレンジする人への投資を惜しまず、失敗を許容する土壌
  3. 新しいことへの挑戦を絶えず繰り返しつつ、地域の目指す方向性を見失わないこと
  4. イノベーション環境を整備・維持するために使えるリソースは何でも使う「したたかさ」

こうした点は他の自治体にとっても示唆に富むのではないでしょうか。

重要なのは、成功事例の模倣ではなく、成功要因のエッセンスを抽出し、各自治体が取り入れていくことです。西粟倉村では、地理的条件、歴史的・文化的特色を分析した上で、「森」という強みを伸ばして市場を切り拓くコア・コンピタンス基軸の戦略が奏功していました。ヒトや企業を引き付けるためには、例えばVRIO分析のような企業経営におけるフレームワークを活用し、地域の強みを伸ばす独自色の強い戦略を立案していくことが重要になるでしょう。

お問合せ

“インキュベーション村”のキーパーソンに聞く、地方創生の仕掛け方-4

宇都 章吾(インタビュアー)

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林 哲也(監修者)

スピーカー紹介

“インキュベーション村”のキーパーソンに聞く、地方創生の仕掛け方-2

牧 大介 氏
株式会社エーゼログループ代表取締役CEO

1974年生まれ。京都府出身。京都大学大学院(森林生態学研究室)修了後、民間シンクタンクを経て、2005年、アミタ持続可能経済研究所設立に参画し、所長に就任。FSC認証制度を活用した林業経営改善をはじめ、農山漁村での新規事業を多数プロデュース。2009年、株式会社西粟倉・森の学校設立。木材・加工流通事業を立ち上げる。2015年、エーゼロ株式会社を設立し、農林水産業の総合的な6次産業化に向けて研究開発を開始。2023年には株式会社西粟倉・森の学校とエーゼロ株式会社を合併させた「株式会社エーゼログループ」を発足、「未来の里山」づくりを目指す。

“インキュベーション村”のキーパーソンに聞く、地方創生の仕掛け方-3

上山 隆浩 氏
岡山県西粟倉村役場 地方創生特任参事、地方創生推進室長

1960年生まれ。同村出身。大学卒業後、入庁し、村の宿泊施設の「あわくら荘」で事務長を務める。その後「道の駅あわくらんど」の企画から、建設、営業開始まで関わった後、再び「あわくら荘」にて支配人として経営立て直しを担当。2005年から観光施設の総支配人を4年間務め、2009年から役場に戻り産業建設課長(産業観光課の前身)として「百年の森林構想」事業やローカルベンチャー育成、SDGsを担当。2020年4月より地方創生推進室長に就任し、脱炭素先行地域、デジタル田園都市国家構想を担当。

執筆者

あずさ監査法人
コンサルティング事業部
アシスタントマネジャー 宇都 章吾

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
コンサルティング事業部
ディレクター 林 哲也