国際会計基準審議会、「金融商品の分類及び測定に関する基準の改訂(IFRS第9号とIFRS第7号の改訂)」を公表

国際会計基準審議会(以下、IASB)は2024年5月30日に、「金融商品の分類及び測定に関する基準の改訂(IFRS第9号とIFRS第7号の改訂)」(以下、本改訂)を公表しました。

国際会計基準審議会(以下、IASB)は2024年5月30日に、「金融商品の分類及び測定に関する基準の改訂(IFRS第9号とIFRS第7号の改訂)」(以下、本改訂)を公表しました。

改訂のポイント

IASBはIFRS第9号「金融商品」の分類と測定に関する要求事項について適用後レビュー(以下、PIR)を実施し、その結果を受けて、IFRS第9号及び関連するIFRS第7号「金融商品:開示」の要求事項を改訂しました。特に近年ESGリンク特性を持つ金融資産の分類について多くの疑問点が生じていたところでもあり、こうした金融資産の取引が拡大する中、ESGリンク特性に関する規定の明確化が喫緊の課題とされてきました。今回の改訂では、偶発的な特性を有する場合を含め、金融資産の分類に関するガイダンスが追加され、特定の偶発的な特性を有する金融資産及び金融負債の開示規定もあわせて追加されています。

また、その他の包括利益を通じて公正価値で測定される資本性金融商品に関する開示の見直しや、電子送金システムを通じた決済について金融負債の認識の中止を認める例外的な取扱いの追加などの改訂も行われています。

本改訂は2026年1月1日以降開始する事業年度から適用されます。早期適用も可能であり、その際、すべての改訂を早期適用する必要はなく、金融資産の分類に関する改訂及び関連する開示(下記「(1)金融資産の分類に関する明確化」参照)のみを先に早期適用することも選択できます。また、本改訂は過去に遡って適用されますが、比較情報の修正再表示は要求されません。

債務者が事前に決定されたESGに関連する目標を達成するかどうかにより、適用される金利が調整される貸付金などが挙げられる。

主な改訂内容

(1)金融資産の分類に関する明確化

1.基本的な融資の取決めに係る利息の構成要素
IFRS第9号は、「元本及び元本残高に対する利息の支払のみ(以下、「SPPI」)である契約上のキャッシュ・フローは、基本的な融資の取決めと整合的である」としています。ESGリンク特性を持つ金融資産は、そのESG特性がSPPIを阻害するのではないかとの懸念がPIRを通じて示されたことから、利息の支払いが「基本的な融資の取り決めと整合的」か否かをどのように評価するかについて、以下の点が明確化されています。

  • 利息の評価においては、受け取る対価の金額よりも、利息を何の対価として受け取るかに着目する
  • 契約上のキャッシュ・フローが基本的な融資のリスクやコストではない変数(例えば株価やコモディティ価格)に連動する場合や、債務者の収益または利益に対する持分を示している場合には、基本的な融資の取決めと整合的ではない


2.偶発的な特性により契約上のキャッシュ・フローの時期または金額が変動する契約条件
ESGリンク特性を持つ金融資産は、所定の目標が達成されることで、契約上のキャッシュ・フローが変動します。本改訂では、こうした偶発的な特性により契約上のキャッシュ・フローが変動する場合に、SPPIをどのように評価するのかについて明確化されました。具体的には、

  • 評価において偶発事象の発生可能性は考慮しない。
  • 偶発事象の性質が基本的な融資のリスクやコストの変動とは直接関連しない場合であっても、偶発事象による変動前と変動後の契約上のキャッシュ・フローの両方でSPPIが満たされており、かつ、契約上可能性があるすべてのシナリオにおいて、こうした偶発的な特性がない同一条件の金融商品と契約上のキャッシュ・フローに重要な差異がない場合にのみ、SPPIを満たす。
  • SPPIを満たす例として、債務者の二酸化炭素排出量の削減に応じて毎期金利が修正されるローンの事例が追加され、他方SPPIを満たさない例として、市場で決定される二酸化炭素の指標価格に連動して毎期金利が修正されるローンの事例が追加された。

また、本改訂では基本的な融資のリスクやコストの変動とは直接関連しない偶発事象により、契約上のキャッシュ・フローが変動に晒される場合には、SPPIを満たす金融資産及び償却原価により測定される金融負債について、新たな開示が要求されています。

なお、今回の金融資産の分類に関する改訂は、ESGリンク特性を有する金融資産を念頭に開発されたものですが、それ以外の金融資産にも適用され、新たな開示要求は一部の金融負債も対象となることに留意が必要です。

(2)資本性金融商品への投資に関する開示

その他の包括利益を通じて公正価値で測定することを選択した資本性金融商品について、銘柄別の公正価値の開示を不要としました。ただし、代わりに投資のクラス別に、報告日における公正価値と当期における公正価値の変動を(当期中に認識の中止を行った投資に関するものと、報告日現在で保有している投資に関するものとに区分して)開示することが要求されます。

(3)その他の改訂内容

1.ノンリコース特性及び契約上リンクしている商品(Contractually linked instrument:以下CLI)に関する明確化
SPPI要件を適用する際に生じる疑問点に対応するため、以下の点が明確化されています。

  • ノンリコース特性及びCLIの特徴
  • ノンリコース特性を有する金融資産の裏付けとなる原資産プール及びキャッシュ・フローの評価(いわゆるルックスルーテスト)を行う際に、企業が考慮する要因
  • CLIの裏付けとなる原資産プールに含まれる金融資産はIFRS第9号において分類の対象となる金融資産に限定されず、例えばSPPIを満たす場合には一部のリース債権が含まれること


2.電子送金システムを通じて決済された金融負債の認識の中止
IFRS解釈指針委員会のアジェンダ暫定決定に対して生じた実務上の懸念に対応するための改訂が行われました。電子送金システムを通じて決済される金融負債については、電子送金指示が行われ、かつ、以下のすべての要件を満たす場合に限り、決済日の前にその認識を中止することができるとする規定が追加されています。

  1. 企業が電子送金指示の撤回、中止または取消しを行う実際上の能力を有していない
  2. 電子送金指示の結果として企業が現金にアクセスする実際上の能力を有していない
  3. 電子送金システムに関連した決済リスクが僅少である

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
シニアマネジャー 榎本 洋介

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