国際会計基準審議会、公開草案「金融商品の分類及び測定に関する改訂案」を公表

国際会計基準審議会(以下、IASB)は2023年3月21日に、公開草案「金融商品の分類及び測定に関する改訂案(IFRS第9号及びIFRS第7号の改訂案)」を公表しました。

IASBは2023年3月21日に、公開草案「金融商品の分類及び測定に関する改訂案」を公表しました。

公表の経緯

IASBはIFRS第9号「金融商品」の分類と測定に関する要求事項につき、適用後レビュー(以下、PIR)を実施しました。PIRの結果を受けて、IASBは、企業がIFRS第9号及び関連するIFRS第7号「金融商品:開示」の要求事項を概ね整合的に適用できており、その結果として財務諸表利用者に有用な情報を提供することができていると結論付けたものの、いくつかのフィードバックには対応が必要と考えられたことから、今般、基準の一部を改訂する提案がなされたものです。

なお、適用時期は未定ですが、早期適用は認めることが提案されています。また、比較年度の遡及修正は要求されないものの、過去に遡って適用することが提案されています。

本公開草案に対するコメント期限は、2023年7月19日です。

公開草案の主な内容

(1)電子送金システムを通じて決済された金融負債の認識の中止

IFRS解釈指針委員会が、電子送金システムを介した営業債権の決済をどの時点で会計処理するかについての質問を受けた際に、IFRS第9号の要求事項に基づけば営業債権から生じるキャッシュ・フローに対する企業の契約上の権利が消滅する日をもって認識が中止されると結論付け、基準上の追加的な手当ては不要と判断しました。しかし、アジェンダ暫定決定に示された考え方を金融負債の決済に適用した場合の実務上の懸念が利害関係者により提起されたため、アジェンダ決定の確定は見送られ、IASBは電子送金システムを通じて決済される金融負債の認識の中止について審議し、公開草案を公表しました。本公開草案では、金融資産・負債の認識及び認識の中止は決済日会計によることを明記したうえで、上記の実務上の懸念に対応するための会計上の選択肢を設けることが提案されています。すなわち、電子送金システムを通じて決済される金融負債については、電子送金指示が行われ、かつ、以下のすべての要件を満たす場合に限り、決済日の前にその認識を中止することができると提案されています。

  1. 企業が電子送金指示の撤回、中止または取消しを行う能力を有していない。
  2. 電子送金指示の結果として企業が現金にアクセスする実際上の能力を喪失している。
  3. 電子送金システムに関連した決済リスクが僅少である。

(2)金融資産の分類に関する明確化

1.基本的な融資の取決めに係る利息の構成要素
IFRS第9号は、「元本及び元本残高に対する利息の支払のみ(以下、「SPPI」)である契約上のキャッシュ・フローは、基本的な融資の取決めと整合的である」としています。ESGリンク特性を持つ金融資産は、そのESG特性がSPPI要件を阻害するのではないかとの懸念がPIRを通じて示されたことから、利息の支払いが「基本的な融資の取り決めと整合的」か否かをどのように評価するかについて、以下を明確化する提案がなされています。

  • 利息の評価においては、利息を何の対価として受け取るかに着目する。
  • 基本的な融資のリスクやコストとは通常は考えられないリスクやマーケット要因を対価とする場合や、キャッシュ・フローの変動が融資のリスクやコストの変動の向きや大きさと整合しないような場合、基本的な融資の取決めと整合的ではない。

※ 債務者が事前に決定されたESGまたはサステナビリティに関連する目標を達成するかどうかにより、適用される金利が調整される貸付金などが挙げられる。


2.偶発事象により契約上のキャッシュ・フローの時期または金額が変動する契約条件
ESGリンク特性を持つ金融資産は、所定の目標が達成されることで、契約上のキャッシュ・フローが変動します。本公開草案では、偶発事象によりキャッシュ・フローが変動する契約条件となっている場合に、SPPIをどのように評価するのかについて、明確化が提案されています。具体的には、

  • 評価において偶発事象の発生可能性は考慮しない。
  • 偶発事象の発生(または不発生)が債務者固有であるケースは契約上のキャッシュ・フローの変動は基本的な融資の取決めと整合している。
  • 変動した結果のキャッシュ・フローは、債務者への投資ではなく、また、特定された資産のパフォーマンスに晒されているものでもない。

債務者の温室効果ガス排出量の削減に応じて定期的に金利が修正される借入は、SPPIを満たす事例として追加されています。

また、このような条件の変動に晒される金融資産及び金融負債について、追加の開示を提案しています。

なお、これらの提案はESGリンク特性を有する金融資産を念頭に開発されたものではありますが、それ以外の金融資産及び金融負債にも適用されることに留意が必要です。


3.ノンリコース特性を有する金融資産、及び契約上リンクしている商品(CLI)への投資
SPPI要件を適用する際に生じる疑問点に対応するため、以下の明確化が提案されています。

  • ノンリコース特性とは何か、CLIの特徴は何かを明確化する。
  • ノンリコース特性を有する金融資産の裏付けとなる原資産プール及びキャッシュ・フローの評価(ルックスルーテスト)を行う際に、企業が考慮する要因を示す。
  • CLIの裏付けとなる原資産プールに含まれる金融資産はIFRS第9号の対象となる金融資産に限定されないことを明確化する。

(3)資本性金融商品への投資に関する開示

その他の包括利益を通じて公正価値で測定することを選択した資本性金融商品について、銘柄別の公正価値の開示を不要とし、代わりに当期における公正価値の変動を開示することを提案しています。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
シニアマネジャー 榎本 洋介

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