グリーントランスフォーメーション(GX)の目指すところ~「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」を概観する〜
2023年2月10日に閣議決定がなされたGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針について、記載されている施策等を概括します。政府の考える今後10年を見据えたGXのロードマップについて、それらを理解する糸口になると考えられます。
2023年2月10日に閣議決定がなされたGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針について、記載されている施策等を概括します。
2022年7月27日より開催されたGX実行会議にて、5回の議論を経て「GX実現に向けた基本方針」(以下、GX基本方針という)が検討された。そして、2023年2月10日に閣議決定がなされ、GX基本方針として発表された。
GX実行会議は、「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革、すなわち、GX(グリーントランスフォーメーション)を実行する」を目的として設置された会議体であり、内閣総理大臣、関係する大臣や有識者が参加する。
GX基本方針を読むと、国として今後目指すべきところを理解することができる。GX基本方針では、GXを「戦後における産業・エネルギー政策の大転換を意味する」と謳っており、2030年度の温室効果ガス46%削減、2050年カーボンニュートラル実現のためには、文字通りの大転換が必要と唱えている。
そして、そのGXを実現するために、GX基本方針を、気候変動対策についての国際公約およびわが国の産業競争力強化・経済成長の実現に向けた取組等、今後10年を見据えた取組の方針を取りまとめたものと位置づけ、この基本方針に沿って、第211回国会にGX実現に向けて必要となる関連法案を提出することとしている。
そこで、本稿では、GX基本方針について概括し、今後の方向性を探ってみたいと思う。まず、GX基本方針は以下の項目から構成されている。
- はじめに
- エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXに向けた脱炭素の取組
- 「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行
- 国際展開戦略
- 社会全体のGXの推進
- GXを実現する新たな政策イニシアティブの実行状況の進捗評価と見直し
ここでは、上記のうち、今後の政策のみならず、経済活動や国民の生活においても少なからず影響を与えうる、2と3に焦点を当てて説明する。
まず、以下は、「2.エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXに向けた脱炭素の取組」から要旨を抜粋したものを後述の表1にとりまとめた。概観すると再生可能エネルギーおよび原子力のみならず、水素やアンモニア、蓄電池、系統整備など、比較的広い範囲で既に取組が列挙されており、随所に新たな制度の整備について触れており、今後の法制化とその効果の発現が期待される。
表1 GXに向けた脱炭素の取組(抜粋)
※なお、下表は、筆者が項目および施策等の一部を抜粋したものであり、GX基本方針の記載内容を網羅したものではない点にご留意いただきたい。
項目 | 施策 |
---|---|
徹底した省エネルギーの推進、製造業の構造転換(燃料・原料転換) |
|
再生可能エネルギーの主力電源化 |
|
原子力の活用 |
|
水素・アンモニアの導入促進 |
|
カーボンニュートラルの実現に向けた電力・ガス市場の整備 |
|
蓄電池産業 |
|
資源循環 |
|
運輸部門のGX |
※ゼロエミッション船舶、鉄道、物流・人流についても記載あり |
脱炭素目的のデジタル投資 |
|
住宅・建築物 |
|
インフラ |
|
カーボンリサイクル/CCS |
※カーボンリサイクル燃料、バイオものづくり、CO2削減コンクリートについても記載あり |
食料・農林水産業 |
|
次に、「3.「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行」であるが、本節においては、脱炭素関連の投資が今後10年間で150兆円を超えるとの試算を紹介し、以下の3つの措置を講ずるとしている。
- 「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援(規制・支援一体型投資促進策等)
- カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ
- 新たな金融手法の活用
そして、これらの措置を含めて「成長志向型カーボンプライシング構想」の早期具体化および実行に向けて、必要となる法制上の措置を盛り込んだ法案を第211回国会に提出するとしている。
GX基本方針では、新たに「GX経済移行債」を創設し、国として20兆円規模の大胆な先行投資支援を実行すると明記されている。また、国が長期・複数年度にわたるコミットメントを示すと同時に、規制・制度的措置と一体的に講じていくとしている。そして、償還の財源としては、「カーボンプライシング導入の結果として得られる将来の財源」となっており、カーボンニュートラルの達成目標年度の2050年度までに償還を終える設計としている。
また、導入するカーボンプライシングとしては、多排出産業を中心とする「排出量取引制度」と炭素排出に対して一律に課す「炭素に対する賦課金」の併用としている。まず、「排出量取引制度」は、GXリーグにおいて2023年度から試行的に開始をし、あくまで自主性に重きを置きつつ、2026年度には本格稼働をすることを想定している。併せて、さらなる参加率向上に向けた方策や、政府指針を踏まえた削減目標に対する民間第三者認証、目標達成に向けた規律強化(指導監督、遵守義務等)などを検討するとしている。
また、「炭素に対する賦課金」については、わが国経済への悪影響やカーボンリーケージ7が生じるおそれがあることを鑑みて、GXに集中的に取り組む5年の期間を設けた上で、2028年度から導入し、化石燃料の輸入事業者等を対象に、当初低い負担で導入した上で徐々に引き上げていくことを想定している。さらに、再エネ賦課金総額がピークアウトしていく想定を踏まえて、発電事業者に対する「有償オークション」の段階的導入を2033 年度に開始するとしている。
最後に、新たな金融手法の活用としては、例えば、公的資金と民間資金を組み合わせた金融手法(ブレンデッド・ファイナンス)を開発・確立するとして、「GX推進機構」を設立し、民間金融機関等が取り切れないリスクに対して、債務保証等の金融手法によるリスク補完策を検討・実施していくとしている。
以上のように、GX基本方針には、GXを実現するための具体的な投資に対して、国が取り組むべき事項と民間投資の促進のための環境整備などが体系的に取りまとめられており、これらを元に国の施策等が今後検討されていくものと期待される。
1 鉄鋼業・化学工業・セメント製造業・製紙業・自動車製造業
2 Feed in Premium
3 平時からの戦略的に余剰となるLNGを確保する仕組み
4 Sustainable Aviation Fuel
5 Net Zero Energy House
6 Net Zero Energy Building
7 国外への生産移転
執筆者
KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
パートナー 猿田 晃也