金融とは、さまざまな経済活動の中で生きる我々にとって欠かすことができないものです。従来の銀行をはじめとした金融機関が、その信用をもとに顧客資産を預かり、運用し、取引の仲介を行うというその在り方が、ブロックチェーンの登場により変わろうとしています。
今回はWeb3.0における新しい金融の形であるDeFi(分散型金融)について取り上げ、その概要や革新性について解説するとともに、今後金融の世界に起こりうる変化について触れていきたいと思います。
1.DeFiとは
2000年代前半、フィンテック(Fintech)という言葉が誕生し、金融領域にテクノロジーを活用し、より便利に、より多くの人に金融サービスを届けようとする動きが生まれました。2010年代には、スマートフォンの普及に伴い多くのフィンテックサービスが生まれ、以降、時間や場所に縛られずに金融サービスを受けることができる環境が整備されてきました。
これまでの金融サービスは原則として、利用者が銀行等の金融機関の口座を持ち、一定の手数料を支払うことで利用することができます。しかし、何らかの理由で金融機関口座を持たない人※1 はそうした金融サービスを受けることができません。金融包摂(Financial Inclusion)と呼ばれる、すべての人がそれぞれのニーズに合った有用かつ安価な金融商品・サービスを受けることができるという世界※2の実現は、いまだ途上にあると言えます。
そうしたなか、従来の金融とは異なるアプローチで金融包摂を目指す新しい金融、DeFi(Decentralized Finance:分散型金融)が誕生しました。DeFiとは、パブリックブロックチェーン上で稼働する、暗号資産やトークンを利用した金融取引を行うサービス群や、その仕組みの総称です。なお、DeFiと対比する形で、従来の中央集権型金融をCeFi(Centralized Finance)と呼びます。
DeFiの3つの特徴
DeFiは、主に以下のような特徴を持ちます。
- CeFiにおける銀行のような中央の権限主体が不在
- 取引履歴はパブリックブロックチェーンに記録されるため取引の透明性が高い
- 24時間365日誰でも利用することが可能
DeFiの主要サービス
DeFiは、CeFiにおけるさまざまな金融取引を、Web3.0の世界において実現しています。その一部を以下に紹介します。
- DEX(分散型取引所)
DeFiにおいて最も代表的なサービスの1つが、DEX(Decentralized Exchange:分散型取引所)です。DEXは、DeFiという言葉が使われ始める以前から存在しており、DeFiの先駆けとなるサービスと言えます。
国内においてビットコインをはじめとする暗号資産を入手する場合、暗号資産交換業の登録を受けた暗号資産取引所に法定通貨を入金、購入するという手段が一般的です。これらの暗号資産取引所は、CEX(Centralized Exchange:中央集権型取引所)と呼ばれます。CEX利用者は、CEXの販売所にて暗号資産を購入するか、利用者同士の取引により暗号資産を入手することができます。いずれの場合も、取引におけるプラットフォームであるCEXに対し、一定の手数料を支払うことで、暗号資産取引を行うことができます。
一方DEXは、中央で取引を仲介する事業者が存在せず、パブリックブロックチェーン上に構築されたアプリケーションUIを利用することで、利用者間で直接取引を行うことができます。DEXの登場当初は、暗号資産取引所を介することなく、自身のウォレットから直接取引を行うことができるという意味で分散化されていましたが、サービスの認知度が低い、取り扱いトークンが少ない、といった理由から、資産の流動性が低く※3、使い勝手が良いとは言えないものでした。
しかしその状況は、2018年にAMM(Automated Market Maker)という仕組みを利用したDEXが登場したことにより一変し、多くの人がDEXを利用するようになりました。AMM型のDEXでは、利用者があらかじめ交換時のペアとなるトークンをDEXの流動性プールに預け入れておきます。トークンの取引を行いたい利用者は、ペアのうち売りたい方のトークンを流動性プールに入れ、代わりに買いたい方のトークンを流動性プールから取り出す、という流れの取引を行うことができます。取引においては、トークンの交換を行った利用者は一定の手数料を支払うことになり、ここで支払われた手数料は、流動性提供者に分配されます。当該手数料をインセンティブに利用者が流動性提供を行うという一連の仕組みによって、流動性が低く取引が成立しないというDEXの問題を解決するに至っています。なお、流動性プールにトークンペアを預け入れ手数料を得ることをイールドファーミング(Yield Farming)、トークンの交換を行うことをスワップ(Swap)と呼びます。
- レンディング
DeFiにおけるレンディングとは、パブリックブロックチェーン上のレンディングプラットフォームにトークンを一定期間貸し出すことで利息を得る仕組みを指します。暗号資産のレンディングサービスは国内の複数CEXでも運営されていますが、DeFiにおけるレンディングサービスの特徴は、特定のトークンを担保に、別のトークンを借り入れることができる点です。レンディングプラットフォームから借りたトークンを期日までに返済すれば、担保にしたトークンはそのまま返還されますが、返済しなかった場合、引き出すことができなくなり、資産を失うことになります。このように、DeFiにおけるレンディングサービスは、CeFiにおいて金融機関口座に預金することで金利を得たり、金融機関から融資を受けたりといった金融取引を、Web3.0の世界で実現しています。
2.DeFiがもたらす変化
DeFiの革新的な点は、インターネットを利用すれば誰でも金融サービスを利用できるという特性により、金融包摂を実現する可能性があるという点です。現在は暗号資産やブロックチェーンといったWeb3.0の可能性に魅せられた開発者や、そのハイリスクハイリターンゆえの投機を目的とした利用者が多くを占めていますが、DeFiのポテンシャルはCeFiの世界を一変し得るものです。
金融分野における変化
顕著な変化はまず金融分野において現れています。DEXでのイールドファーミングや、レンディングプラットフォームへの預け入れ金利(利回り)は、現在の超低金利時代における銀行普通預金金利に比べ、非常に高いものになります。運用資産や利用プラットフォームにもよりますが、年利数%~10数%という利回りは一般的に存在しています。暗号資産の大きな価格変動リスクを考慮する必要はありますが、ステーブルコイン(法定通貨に価格連動するように設計されたトークン)のみを取り扱うプラットフォーム等、一定程度リスクを抑えた取引を行うことができる環境も作られ始めています。DeFiに対する認知がより一層進めば、現在法定通貨で保有している資産をDeFiに移していくという流れは、十分に想定されるでしょう。
DeFiが高い利回りを生み出している要因の1つとして、中央管理者や窓口運営がないゆえのコスト構造の良さが挙げられます。現在国内でも検討が進んでいるステーブルコインやCBDC(Central Bank Digital Currency:中央銀行デジタル通貨)などのデジタル資産の流通を想定すれば、今後の金融機関の在り方として、高いセキュリティを備えた、自律的に回る金融取引プラットフォームの構築は、検討していく余地があると言えます。
決済分野における変化
決済の領域においても変化は想定されます。ビットコインの登場時、仮想通貨という通称で呼ばれ始めたことからもわかる通り、デジタルの通貨として決済に利用することは、暗号資産のユースケースとして期待されていました。その期待は、大きすぎる価格変動や利用ハードルの高さから一度は砕かれ、暗号資産は決済には不向きという定説が浸透しているのが現状です。
こうした状況は、ステーブルコインや、新しい決済サービスの登場により、変わり始めています。ステーブルコインのような価格が一定のトークンを決済に利用することは、決済を受ける側のリスクを大きく下げることにつながります。また、DeFiにおいて得た資産を、法定通貨に換えることなく決済に利用できるサービスの登場は、利用者の利便性向上につながります。たとえば、Slash Web3 Payment というサービスは、数多存在するトークンによる決済を実現するだけでなく、店舗は決済代金をステーブルコインで受け取ることができるサービスであり、これまで暗号資産決済において存在した問題を解決する可能性を持っています。
3.DeFiの課題
多くの革新的な技術により実現しているDeFiですが、一般の利用者へ浸透するにはいまだ課題は多くあります。その1つが、ブロックチェーンのスケーラビリティです。
多くのDeFiサービスが稼働するイーサリアムブロックチェーンは、Web2.0において一般的に利用されるシステムに比べると、決して処理性能が高いものとは言えません。DeFiやブロックチェーンを基盤にしたゲーム等、利用者が頻繁にトランザクションを発するようなプロトコル、サービスが増えると、基盤となるブロックチェーンは混雑し、処理が滞ります。DEXの代表的なサービスであるUniswapの登場に端を発したとされ、非常に多くのユーザーがDeFiに触れ始めたブーム時は、数百円のトークンを動かすトランザクションを通すのに数千円というネットワーク手数料がかかるなど、イーサリアムネットワーク自体が使い物にならないという事態が起こったこともあります。ブームの落ち着きとともに事態は一定の状態に収束しましたが、さまざまなサービスが共通の基盤で稼働するパブリックブロックチェーンの、構造上の弱点ということができます。
このような問題の解決策として、ブロックチェーンプロトコルの大型アップデートによるネットワーク手数料軽減やセカンドレイヤー※4活用、またはDeFiサービス展開チェーンの選択肢増加によるトランザクション分散等、世界中の技術者による改善が進められています。1つの組織や企業では為し得ないスピードで世界のアップデートが進むさまは、まさにWeb3.0の世界観を体現するものということができます。
CeFiとの接続・融合という点も、課題の1つとして挙げておきます。DeFiが形成する経済圏は目覚ましい進歩を続けていますが、いまだ我々人類の生活は、法定通貨を軸にした貨幣経済を基盤としています。生活のすべてがメタバースやWeb3.0の世界で完結するようになれば、まさにDeFiは実体経済における金融機関の置き換えとなりますが、そうした世界観が実現していない以上、DeFi上の資産は実体経済の資産へ変換される必要があります。上述の暗号資産による決済はその解決策の1つですが、まだまだ利用できる範囲は広いとは言えず、さらなる拡大が期待されるところです。
こうした領域においては、中央集権型の金融機関や暗号資産取引所の存在が必要と言えるでしょう。真の金融包摂、分散型経済が実現するまでは、中央集権型の金融機関が担保する信頼性や利用者保護に大きな期待が寄せられているはずですし、当面両者は併存していくものだと考えます。
4.まとめ
DeFiは従来型金融をディスラプトするという文脈で語られる傾向にありますが、必ずしもそうではなく、中央組織が担保する信頼性が重要な点においてはCeFiが、ブロックチェーンの非中央集権性や透明性が重要な点においてはDeFiが活躍するといったような役割分担がなされていくものだと、筆者は考えます(ただし、いずれはその垣根もなくなり、一つの金融の姿として融合していくものかもしれません)。
1つ間違い無く言えることは、DeFiやWeb3.0というイノベーションを対岸の火事ととらえ、これまでのビジネスや商習慣が永続的に続いていくという考え方は、早めに改めた方が良いということです。そうした考え方こそが、ディスラプションへ通じる道になると認識いただければ幸いです。
※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。
※1 2021年時点での金融機関口座、モバイル口座保有率は世界の成人人口の76%
(出典:THE WORLD BANK 「The Global Findex Database 2021」)
※2 金融包摂とは、個人や企業が、取引、支払い、貯蓄、信用、保険など、それぞれのニーズに合った有用かつ安価な金融商品・サービスを、責任ある持続可能な方法で利用できるようになることを指す
(出典:THE WORLD BANK 「Financial inclusion」)
※3 暗号資産を買いたいと思った時に買えない、売りたいと思った時に売れないといったように、市場に流通する暗号資産が少なく、スムーズな取引が行えない状態
※4 取引の過程をメインのブロックチェーン(レイヤー1)以外の場所に記録し、結果のみを記録することで処理の負荷を軽減する、ブロックチェーンのスケーラビリティ(拡張性)問題に対応するソリューションの総称
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 山本 将道