NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)とは、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産に代表される1単位の価値が等価なトークンとは異なり、固有のIDを持たせることで、一意の識別可能性が付与されたトークンを指します。NFTを利用することで、従来は資産として扱うことが困難であったデジタルコンテンツや権利を、ブロックチェーンによって信頼性が担保されたエコシステム内で管理・流通させることが可能となりました。国内でもアートやゲーム、ファンビジネスのほか、地方創生などの領域で活用が進んでおり、注目を集めています。

1.NFTの特徴

NFTはビットコインやイーサリアムなどの暗号資産と同様にブロックチェーン上で発行されるトークンの一種です。暗号資産は基本的にトークン1単位の価値が等価であることから、FT(Fungible Token:代替可能トークン)と分類されます。他方で、NFTには各トークンに固有のIDが付与されており、エコシステム内で一意に識別できることから“非代替性(Non-Fungible)”を有するトークンであると定義されています。
暗号資産やNFT等のトークン発行・流通の基盤技術であるブロックチェーンは、特定の権限者による中央集権的な管理を不要とする民主的なデータ管理の技術です。ブロックチェーンには、トランザクションデータの正当性を複数の参加者(ノード)が相互に検証する仕組みや、暗号化技術の活用によってデータ自体の改ざんが非常に困難である等の特徴があり、透明性や信頼性の高いエコシステムを構築することが可能です。
NFTは非代替性が付与されたトークンをコンテンツや権利に紐付け、ブロックチェーンを活用した透明性と信頼性の高いエコシステム内で管理することで、従来資産として扱うことが困難であったデジタルコンテンツや権利の流通を実現しています。

2.NFT活用のユースケース

NFT活用のユースケースを語る上では、2021年より爆発的な盛り上がりを見せた、NFTアートを外すことはできません。2021年、Beeple(本名:Michael Joseph Winkelmann)が制作したデジタルアート“Everydays : The First 5000 Days”という作品が、オークションにて約75億円という、これまでのデジタルアートでは考えられない高額で落札されました。また、国内においてはせきぐちあいみ氏の制作したVRアート“Alternate dimension 幻想絢爛”が約1,300万円で落札されるなど、その取引額の大きさから、NFTのユースケースとしてのデジタルアートが大きな話題を呼ぶこととなりました。そのほか、CryptoPunks(クリプトパンクス)というドット絵で表現されるデジタルアートやBored Ape Yacht Club(BAYC)という猿をモチーフにしたイラストは、デジタル・コレクティブルズと呼ばれ、その一つひとつが高値で取引されています。希少なものは数千万~数億円という単位で取引されたことや、有名アーティストや著名人がそうしたNFT購入を続々と表明したことで、これまでブロックチェーンや暗号資産といった領域からは縁遠かった人々を巻き込む大きな市場を形成するに至りました。
これまでデジタルデータはコピーが容易であることから、デジタルアートそのものに大きな価値がつくことはありませんでした。NFTという技術が活用され、デジタルデータに希少性という概念が生まれたことで、自身のアートを販売したい人と、希少なアートを求める人による、NFTの取引市場が生まれることとなったのです。
高額なアートが話題となり一気に広まったNFTですが、その活用の先駆けとなったのは、ゲームの領域と言えます。カナダのブロックチェーン企業Dapper Labs(ダッパーラボ)が2017年にリリースした“CryptoKitties(クリプトキティーズ)”は、ブロックチェーンゲームというジャンルにおける元祖の1つです。CryptoKittiesでは、イーサリアムのNFT規格を利用して発行された猫のキャラクターを購入して育成し、交配して新しいキャラクターを生成することができるほか、ユーザー同士で直接売買することが可能で、過去には1匹のキャラクターが1,000万円以上の高値で取引されるケースもありました。
国内でも2018年には、豚のキャラクターをコレクションし、育成する“くりぷ豚(くりぷトン)”や、歴史上の偉人をモチーフにしたキャラクターを使用し、プレーヤー同士で対戦する“My Crypto Heroes(マイクリプトヒーローズ)”といったタイトルがリリースされました。これらのゲームも同様に、キャラクターやアイテムはNFT化されており、プレーヤー間で売買することができます。NFTとゲームの組み合わせは、これまでそのゲーム内でしか価値を生まなかったコンテンツに資産性や流動性を付与し、新たな価値と経済圏を生むことに成功した事例であると言えます。
その他、スポーツや芸能業界ではファンエンゲージメントの向上を目的とした限定NFTの配布や、アパレル業界ではメタバースなどのデジタル空間でアバターが着用するアイテムとNFTを結び付けた“NFTファッション”という概念が誕生しています。また、ふるさと納税の返礼品としてNFTを付与することで地方創生に寄与したり、人気漫画を題材にしたNFTアートの販売や、購入者特典としてNFTを配布したりするなど、業界の垣根にとらわれない、さまざまな用途でNFTは利用されています。

3.NFTの課題と今後の展開

さまざまな領域での活用が進んでいるNFTですが、取扱いに関する誤解や課題も抱えています。
たとえば、NFTを利用することで、データのコピー防止や、オリジナル作品であることを証明できるといった誤解があります。ブロックチェーン上で発行されたトークンで、固有の識別子を有するNFTをコピーすることは困難ですが、紐付けられたデジタルデータ自体のコピーは可能です。また、コンテンツに関する権利を保有していない第三者が権利者の許諾なしにNFTを発行、販売することを事前に防止することは困難であり、一見オリジナル作品のように見えるNFTが実は権利侵害されたコンテンツであるという場合もあります。権利侵害対策は消費者保護の観点からも重要であり、違法なNFTを排除する仕組み作りの必要性が高まっています。
NFTはこれまでアートやコレクティブルズ、ゲーム領域を中心に注目を集めてきましたが、NFTホルダー限定イベントへの参加証や特定の組織や個人に権力が集中しない非中央集権的な組織運営を行うDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)コミュニティへの参加証として利用されるケースも出てきています。資産のデジタル化のみならず、コミュニティ形成の促進にも活用の幅を広げつつあるNFTは、これまでテクノロジーに縁遠かった人をも巻き込み、人々がWeb3.0の世界観を体現するためのキーコンテンツであると言えるのではないでしょうか。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

執筆者

KPMGコンサルティング 
シニアコンサルタント 鈴木 貴之

お問合せ