近年新たなサービスや事業の創出、スタートアップ企業の台頭に加えて、国内でも国家戦略として位置付けられるなど、Web3.0領域が注目を集めています。
本連載では、「Web3.0 ~ブロックチェーンが支えるインターネット上の新しい世界観~」と題し、Web3.0の構成要素(DAO、NFT、DeFi、GameFi等)に関する基礎知識や動向について、テーマ別に解説します。

1.Web3.0の現状

2022年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(通称:骨太方針2022)において「Web3.0の推進に向けた環境整備」が明記されました。Web3.0という、ブロックチェーンをベースとした新しい概念に注力していくことが、国の方針として定まったと言うことができます。
ビットコインの誕生とともに生まれ、インターネット以来の発明とまで言われるブロックチェーンですが、暗号資産の価格ボラティリティの高さや暗号資産取引所における盗難事件などで世間を騒がせたことで、日本国内においてはいわゆる「怪しいもの」「投機に過ぎない」という印象が少なからずあります。
そのような中、昨今Web3.0という呼称とともに、その革新的なユースケースやポテンシャルに光が当たったことは、ブロックチェーンという技術や業界にとって非常に大きな一歩だと考えます。2022年10月のデジタル庁「Web3.0研究会」立ち上げや、同11月の日本経済団体連合会(経団連)が「web3推進戦略」を発表する等、周辺の活動が活発になっています。こうした動きもあり、Web3.0関連事業に進出する企業や、Web3.0関連事業を行う多くのスタートアップが誕生するなど、ビジネスにおいても大きなインパクトが起こり始めています。
しかし、今はまだWeb3.0の流行による事業への影響やビジネス環境の変化が明確に見えていない方が多いのではないでしょうか。当連載コラムでは、Web3.0を構成するテクノロジーや要素に関して、時流を交えながら紹介していきます。

2.Web3.0とは

Web3.0とは、「ブロックチェーンが支える新しいインターネット上の世界観」だと言うことができます。
従来中央のサーバーで管理されていた情報を個人の端末で保持するようになることで、インターネット上の情報主権が分散化されます。情報主権が分散化し、各ユーザーの権利のもとに利用されることで、特定のプラットフォーマーを盲目的に信頼し、情報を預ける必要がなくなります。また、特定のプラットフォームを利用して行っていた情報や価値の移転が、トークンという媒介を利用して行うことが可能になることで、トークンを軸に自律的に回る経済圏や組織構造を作ることが可能になります。
こうした世界観は、従来インターネット上のサービスを利用する際に必要であったサービスプロバイダーに対する信頼を、ブロックチェーンおよびWeb3.0を構成する技術群が担うことで実現しています。国や中央銀行を信頼することで回る、法定通貨による貨幣経済がそうであるように、ブロックチェーンおよびWeb3.0を構成する技術群は、信頼を軸にして回る経済圏を生み出すテクノロジーであると言うことができるのです。
GAFAMに代表されるビッグテックのプラットフォームをベースに作り上げられた中央集権的なインターネットの構図を変革し得るポテンシャルを持つものが、Web3.0と総称されています。
 
<Web3.0を構成する代表的な技術や要素>
 
・DAO
コミュニティによって発行されるトークンを保有する参加者が、スマートコントラクトを用いた投票システムにより意思決定を行う組織形態を、DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)と呼びます。
DAOは、その目的に応じていくつかの種類に分類されます。
その一つであるProtocol DAOはプロトコルそのものを維持、運用、改善していくためのDAOです。DeFi(Decentralized Finance:分散型金融)と呼ばれる、パブリックブロックチェーン上に構築される金融サービスの運営、改善を目的として組成されることがあります。DeFiサービスが徴収する手数料等のパラメータ変更や、DAOメンバーへの収益配分等のガバナンス変更といった内容について議論を行い、スマートコントラクトをベースにした投票によって意思決定を行います。
コミュニティが集めた資金を、NFT等の高価なデジタル資産に投資し、収益を得ることを目的するInvestment DAOでは、投資対象に関する議論をメンバー間で行い、投票によって投資先を決定します。投資によって得た収益が貢献度に応じてメンバーに分配される仕組みや、コミュニティに参加することで豊富なナレッジを獲得できることが参加者のインセンティブとなります。
DAOはその特徴から、特定の組織や個人に主権が集中しない仕組みを持っており、より民主的で自律的に動く組織形態となる可能性を持っています。既存組織の枠を超えて人材や資本を集約し、また参加者一人ひとりの主体性を効果的に醸成することが可能となる、Web3.0時代における新しい組織形態として注目を集めています。
 
・NFT
2021年、Beeple(本名:Michael Joseph Winkelmann)が制作したデジタルアート“Everydays : The First 5000 Days”という作品が、オークションにて約75億円で落札されたというニュースが報じられました。これまでデジタルデータはコピーが容易であることから、デジタルアートそのものに大きな価値がつくことはありませんでしたが、ブロックチェーンを活用したNFT(Non-fungible Token:非代替性トークン)という技術により、デジタルデータに一意の識別可能性を付加することができるようになりました。結果、デジタルデータに希少性という概念が生まれ、自身のアートを販売したい人と、希少なアートを求める人による、NFTの取引市場が爆発的に盛り上がることとなったのです。
NFTのユースケースはアートだけに留まりません。ブロックチェーンを活用したゲーム(ブロックチェーンゲーム、GameFi等と呼称)におけるNFTは、ゲームのキャラクターやアイテムとして利用できるほか、ゲーム外マーケットに出品してトレードすることができます。従来のゲームのように、サービス終了とともに消えてなくなってしまうゲーム内アセットの保持主権がユーザー側に帰属するという点において一線を画し、独自のジャンルを築いています。
特定のコミュニティへの参加資格を付加されたNFTも、代表的なNFTの活用方法の1つです。NFTを保持することで参加できるオンラインコミュニティやDAOは、インターネットの世界において数多く立ち上がっています。これらの参加資格はNFTとして他者へ転送することができるため、個人間での取引や譲渡をオンラインで簡単に行うことができます。
これらのユースケースを生んだNFTは、これまでテクノロジーに縁遠かった人を巻き込む大きな市場を形成するに至っており、Web3.0という世界観を体現する1つの要素となっています。

3.Web3.0の課題と今後の展開

ビジネス環境を一変させるポテンシャルを秘めたWeb3.0ですが、広く普及するにはいまだ課題があります。その1つが、現行の法制度がWeb3.0という概念に対応していない点です。
2017年、資金決済法の改正により、日本が世界で初めて暗号資産に関する法整備を行った国となりましたが、その後のテクノロジーの進化スピードには対応できておらず、Web3.0関連事業を行う上で適切な法制度とはなっていないのが現状です。また、税制についても同様に、既存の法制度に当てはめた上で税徴収がなされることから、Web3.0の事業を行う上での税負担が、企業に重くのしかかります。こうした事情から、Web3.0スタートアップはこぞってシンガポールやドバイ等、税制上事業を行いやすい国での立ち上げを好むようになり、国内におけるWeb3.0新規事業や、スタートアップが生まれにくくなっています。
この現状を変えるべく、2022年11月、自民党デジタル社会推進本部web3PTが、「Web3関連税制に関する緊急提言」を提出しました。当提言には、「新規発行トークンに投資した法人の期末時価評価課税」および「個人の暗号資産の取引に関わる課税」に関する事項が盛り込まれており、今後のビジネス環境を大きく変えることが期待されています。

いまだ課題はありますが、Web3.0を国家戦略とするべく、政府、業界団体が大きく動き始めています。既存の企業や組織にとっても、自身の事業やビジネス環境の変化に対応する必要が出てくるものと考えられ、他人事とは言っていられない状況が迫っています。
引き続き、当連載コラムにおいてWeb3.0がもたらす変革について情報を発信していきます。

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執筆者

KPMGコンサルティング 
マネジャー 山本 将道

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