ESGによるインパクトの加速

 CEOは、ESGイニシアチブが自身のビジネスにとって、特に財務業績を改善し成長を促すという点で重要であることを認識しています。実際、グローバル全体のCEOの69%がESG課題に関する報告やその透明性の向上に対するステークホルダーからの要求が増えていると答えています。これは2021年調査では58%でした。このようななか、CEOの3分の1以上(38%)は、自社が説得力のあるESGストーリーを伝えることに苦労していると回答しています。

 日本企業においても、78%が同要求の高まりを認識しています。2021年調査でも71%と、過去から継続してグローバル全体(2021年調査では58%)に対し高い傾向が出ており、CEOの重要な課題となっていると言えます。

ESG課題に関する報告やその透明性の向上に対する投資家、規制当局、顧客などのステークホルダーからの要求が高まっている

ESG課題に関する報告やその透明性の向上に対する投資家、規制当局、顧客などのステークホルダーからの要求が高まっている

 グローバル全体のCEOの約半数(45%)はESG施策の進展が企業の財務パフォーマンスを改善すると考えており、1年前の37%から増加しています。しかし、経済の不確実性が続いていることもあり、半数が今後6カ月間に既存あるいは計画中のESGの取組みについて、一時中断あるいは見直しを検討すると回答しており、34%は中断の判断あるいは見直しを実施済みと回答しました。

 日本企業においても、37%はESG施策の進展が自社の財務パフォーマンスを改善すると考えており、2021年の36%から微増しているものの、グローバル全体に対し低い傾向が出ています。またグローバル全体の動向と同様、半数が今後6カ月間に、現行あるいは計画中のESGへの取組みについて、一時中断あるいは見直しを検討すると回答し、32%がすでに中断の判断あるいは見直しを実施済みと回答しています。

 これは、地政学的な緊張や気候変動、パンデミックなど環境や社会の変化による企業への影響は、たとえ同じ業種業態であってもそれぞれ異なり、価値形成のプロセスや影響を及ぼす度合いが各企業によって異なるがゆえに、各社はそれぞれ一度立ち止まって戦略を再考していることがあると推測されます。戦略的意思決定のためには、「何が価値の源泉なのか」を再定義した上で、「何が対処すべき課題なのか」の分析が必要となります。その分析をすることで、規制等の外部圧力ではなく、独自性のある自発的なESG施策の進展につながることになり、この中断・見直しをそのような前向きな取組みとなっていることが期待されます。

 

サプライチェーンへのESGの影響

 CEOにとって、自社のビジネス全体が実際にどの程度持続可能であるかを理解することは非常に重要です。CEOはESG目標を達成するために、報告やその透明性をより一層重視するようになっており、この対象には、より広範なサプライチェーンも含まれます。

 数ある課題の中でも、サプライチェーンの脱炭素化は、ネットゼロを目指す企業にとって大きなハードルとなっています。本調査の結果においても、ネットゼロの(またはそれに近い)目標を達成するための課題のうち、グローバル全体では28%、日本企業も30%のCEOが、サプライチェーンの脱炭素化の複雑さを最も重要な問題と回答しています。

 サプライチェーンの脱炭素化においては、特に「可視化」と「サプライヤーエンゲージメント」に難しさがあります。「可視化」の観点では膨大な数のサプライヤー(tier2以降も含めて)のGHG排出量を調査するには限界があり、調査内容の正確性担保も難しい状況です。また、可視化できたとしても、GHG削減策実行に向けてはサプライヤーの体力にも限りがあり、かつ交渉力次第で要求に応じてもらえないケースも存在します。自社自身の意思とビジョン、戦略を持った「サプライヤーエンゲージメント」のアプローチを作りこむことが必要です。

ネットゼロや同様の気候変動への取組みを達成する上で最大の障壁は何だと思いますか?

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ダイバーシティの推進

 グローバル全体において、ESGのうち「S(社会)」の側面に対して大きな焦点が当てられています。インクルージョン、ダイバーシティ&エクイティ(IDE)の重要性に関して幅広く認知・合意されている一方で、グローバル全体のCEOの68%はインクルージョン、ダイバーシティ&エクイティ(IDE)へのビジネス界での取組みがあまり進んでいないと考えており、73%は今後3年間でIDEに対する社会からの監視が高まり続けると考えています。

 一方、日本企業のCEOにおいて、IDEの取組みがあまり進んでいないと考える割合は58%にとどまり、今後3年間でさらに注目度が高まると考える割合は59%と、楽観的な見方が窺えます。

 これは日本企業が他の課題よりも優先度が低いと判断している可能性に起因しているのかもしれません。企業を取り巻く環境が大きく変化を迎えている中、経営戦略としてIDEをあらゆる施策に組み込むことが、変化に耐えうるサステナブルで強い組織へ成長すること、ひいては企業価値や競争力が向上することに繋がります。言い換えればIDEへの取組みへの姿勢の差が将来の企業価値や競争力の差となり現れてくるということです。関心が高まる人的資本経営にもIDEは当然に含まれており、既に優先度が高い重要な課題であるとの認識を持つことが必要です。

 

インクルージョン (包括性) 、ダイバーシティ (多様性) 、エクイティ (公平性)の視点で考えると組織の多様性パフォーマンスに対する監視は、今後3年間でさらに高まるか

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KPMG Insight Plus 専門家コラム

 

「人的資本」に対する取組みや議論、狭い範囲においてはその報告への関心が、急速に高まっています。しかし、組織にとって大切なリソースが「ヒト・モノ・カネ」であるという認識は、けっして新しいものではありません。 では、なぜいま、「人的資本」なる言葉があらゆるところで表出するようになったのでしょうか。「なぜ」を理解しないまま、今後、要請が高まってくる人的資本に関わる報告への対応に注力しても、「人を活かせる組織」による価値の創出に結びつけることは難しいのではないかと思います。人的資本に関する議論は、なにも目新しいものではない点を、まず、十分に認識すべきでしょう。

「“人を活せる組織”が創る企業価値 」

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