地政学的な混乱
戦争とインフレにより、世界の航空宇宙・防衛(A&D)産業は新たな道を歩み始めており、M&A取引もそれに追従するでしょう。
物価上昇と金融引締めにより、短期的にはM&Aは低迷するものの、長期的にはサプライチェーンの持続可能性を強化し地政学的状況に対応するため、M&Aの活用が重要だと考えます。
ウクライナ戦争は、A&D産業におけるサプライチェーンの脆弱性と混乱を浮き彫りにしました。機体メーカーとTier1サプライヤーは、リスク軽減のため、サプライチェーン内で重要な部品や技術を獲得する必要性について検討しています。
M&A取引に対する柔軟な姿勢
サプライチェーンの短縮を企業に推奨する各国政府の動きに対し、A&D企業はエコシステムの一部をニアショア化する努力を重ねています。A&D企業は、グローバルなサプライチェーンへの依存度を下げ、地域集中型の生産に注力し始めており、M&Aの機会創出につながる可能性があります。
A&D企業が新興企業を買収したり、新興企業と提携したりする機会は豊富にありますが、A&D企業は、新興企業の株式への直接関与には慎重である一方、新技術領域への参入手段については、柔軟な姿勢を取ることが必要不可欠となっています。
サプライチェーン強化を促す政府政策
世界的な緊張の高まりとサプライチェーンの混乱に対応するため、民主主義国の政府は、国内における防衛製品の製造能力を強化する方法を模索しています。特に欧州では、ロシアという共通の安全保障上の脅威を有することで、国際的な産業協力を促進する可能性があります。
転換期にある民間航空宇宙業界
防衛分野以外では、航空業界および航空機を供給するメーカーはまだら模様の景気回復にあり、部品メーカーに対する圧力を軽減できそうにありません。
航空業界の幹部は、2018年から2020年にかけての急激な落ち込みの後、航空機受注の伸長を期待しましたが、ボーイング社およびエアバス社が2022年に納入した航空機の数は2019年の水準を下回るものとなりそうです。財務状況が大幅に悪化しているTier2およびTier3のサプライヤーは、Tier1およびTier2企業による買収を通じた救済を求める可能性があるでしょう。
M&A取引のトレンド
2021年、A&D業界におけるM&Aは急増し、世界のM&A案件数は18%増加(327件)し、企業評価額もTEV/EBITDA倍率が11倍から13倍に上昇しました。2022年上半期におけるM&Aは年率換算で前年比19%減少する一方、企業評価額は昨年の13倍から16倍に上昇しました。
2021年下半期に財務基盤が健全な企業が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により過剰負債を抱えた小規模企業を買収したことで、民間航空宇宙業界のM&A活動は活発化し始めましたが、2022年には政治やマクロ経済の不確実性の影響を受け、この傾向は弱まっています。
地政学的状況とマクロ経済上の不確実性の急速な高まりにより、世界的にM&A活動が減速し、 クライアントは慎重に案件を見定めるようになっています。
将来に向けた教訓
過去1年間に起きた地政学とマクロ経済の劇的な変化は、長期にわたりさまざまな形でA&Dセクターを形作るでしょう。
以下の3つの特質は大きな利益をもたらす可能性があります。
- レジリエンス:サプライチェーンの持続可能性という概念は、A&D業界で広がりを見せています。ウクライナ戦争は、地政学的事象に迅速に適応できるよう設計された、レジリエントな持続可能性の必要性を浮き彫りにしました。
- アジリティ:収益性の高いM&A機会は限定されているため、事業価値を高めるターゲット企業は、どのような市場環境であってもプレミアムがつくでしょう。スピードと信頼性は必要条件ですが、強固なビジネスインテリジェンスと優れた意思決定能力に基づくものでなければなりません。
- 柔軟性:M&Aは技術力を高める唯一の方法ではありません。A&D企業は、さまざまな企業との合弁事業、協業、提携を積極的に検討しています。
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