1.ESG報告の課題

昨年の気候変動サミットCOP26を受け、ESGの「E(環境)」が注目され、広く考えられるようになりました。それに伴い、ESG報告は企業にとって大きな課題となっています。ESGに 配慮した「取組み」は極めて重要であることから、どの企業も、正確性、堅牢性、透明性のある情報をもって報告できるようにしなければなりません。現在、米国証券取引委員会(SEC)、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB審議会)、欧州連合(EU)の3つの機関がそれぞれESG報告基準を策定中で、2023年から2025年にかけて発効される見込みです。グローバル企業のESG報告は3つの基準書すべてに基づいていなければならないため、ESG報告は複雑なものになると考えられます。多くの化学企業が多国籍企業であることを鑑みると、身をもってこの影響を感じることとなるでしょう。

2.膨大な業務

3機関が提案する基準書には違いがあるものの、指針と最終目標は同じです。つまり、ESG情報と指標も、今日の財務情報と同程度の厳格さとテクニカルレベルで、収集、算出、保証、そして報告されなければなりません。ESG報告の要件を満たすために、膨大な業務を要することは間違いありません。企業は、現在の誤謬や不完全性のリスクを高める方法から脱し、新しいプロセス、管理体制、データストリームを構築する必要に迫られています。また、ESG報告関連の新たな要件に応じるため、リソースも課題となります。その責任が求められる財務・管理部門はさらなる負担をかかえ、専門的なスキルさえも求められるかもしれません。企業の人材獲得競争は激化することが予想されます。

3.ただちに着手すること(もちろん保証も忘れずに)

規制要件の強化と複雑化、リソースへのプレッシャー、限られた時間、これらすべてが組み合わさり、混乱になる可能性もあります。1年後、2年後ではなく、今、ESG報告の道を模索し始めることが重要です。企業は、求められている情報を収集、集約するために必要なシステム、プロセス、方針、管理体制について詳細な計画を立案しなければなりません。また、この情報のほとんどは外部の保証を受ける必要があります。保証は、初回の報告サイクル時点ではなく、事前準備の段階で受け、その後、データについても保証を受けるようにしなければなりません。

4.徹底調査:SEC規則案

では、企業はどのような情報を報告すべきでしょうか? SEC規則案では、米国内外の登録企業は、登録書類や定期報告書に特定の気候関連情報を記載することを求められ、それは以下のような内容です。

  • 気候関連リスクおよび、事業や戦略、展望へ与える実際のあるいは予想される重大な影響
  • 気候関連リスクに関連するガバナンスとリスクマネジメントプロセス
  • 温室効果ガス(GHG)排出量
  • 特定の気候関連の財務諸表の指標と、監査後の注記内容の開示
  • 気候関連の目標や目的に関する情報

SEC規則案では、ISSB規則案とは対照的に、ESG関連の情報を財務諸表内で報告することが求められます。財務諸表におけるすべての開示情報は監査対象であり、財務報告に関わる企業の内部統制の対象にもなります。SECが提案した財務諸表における開示内容は、広く3つ、財務的な影響指標、支出指標、財務上の見積りと前提条件、に分類されます。この分類は、連結財務諸表において気候関連の条件や事象、ならびに移行活動による財務上の影響を開示することを目的としています。

5.スコープ1から3の詳細

SECは、スコープ1と2の排出量を個別に開示し、初期段階では限定的保証対象とし、その後組織の規模により2026年または2027年までに合理的保証対象とすることを提案しています。スコープ3の排出量については、重要である場合は開示する必要があると提案していますが、外部による保証を受ける必要がない、ともしています。EU規則とISSB規則については、スコープ1から3に関してどのように展開されるか明らかになっていませんが、現時点においてどちらもスコープ3の排出量の開示を求めています。EU規則ではスコープ3の排出量を保証対象とする一方で、ISSB基準では各法域に判断を委ねる可能性があります。しかし、変化の激しい分野であり、事態が変わることも考えられます。ESG報告に関して企業にできることは、後手に回すのではなく、事実に着目し、具体的な進展を把握し、今後の道筋を立てる作業を本格的に始めることです。

英語コンテンツ(原文)

Gearing up for the ESG reporting challenge

お問合せ

こちらは「KPMG Japan Insight Plus」会員限定コンテンツです。
以下の「資料ダウンロード」ボタンよりログインください。
会員登録がまだの方は「会員登録する」よりご登録手続きをお願いします。