英国上場企業におけるTCFD開示動向

日本国内においても、東証プライム市場上場会社にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく開示が求められることとなりましたが、一足先に英国では、2021年1月よりロンドン証券取引所のプレミアム市場上場会社へのTCFD提言に基づく開示が義務化されています。

英国では2021年1月より、ロンドン証券取引所のプレミアム市場上場会社へのTCFD提言に基づく開示が義務化されています。

日本国内においても、東証プライム市場上場会社にはTCFD(Task force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく開示が求められることとなりましたが、一足先に英国では、2021年1月よりロンドン証券取引所のプレミアム市場上場会社へのTCFD提言に基づく開示が義務化されています。また英国においては、2022年4月6日以降に始まる事業年度からは、非上場企業(売上5億ポンド超、従業員500名超)に対してもTCFD提言に基づく開示を義務付けるなど、開示義務の対象が広がっています。

KPMG英国では2021年11月に、FTSE100企業(ロンドン証券取引所に上場する上位100銘柄)を対象にしたTCFD開示内容の分析を実施しました。一足先に義務化がスタートした英国上場企業のTCFD開示に対する取組みの現状と課題について解説します。

1.リスクと機会の特定

TCFD提言では、気候変動リスクと同時に機会の特定についても開示が求められていますが、現在の開示事例からは、ややリスクの特定に偏りがちな傾向が見られます。以下のグラフは、気候変動に関するリスクに加え、機会についても開示している企業の割合を示したものです。銀行業(100%)、エネルギー産業(86%)などの一部の業種では、多くの新たな事業機会が特定・開示されていますが、保険業(50%)、農業・食品・森林(50%)などの業種では、半数の企業がリスクの開示のみに留まっている状況です。さらに言えば、これらの事業機会の特定に関し、定量的な分析結果を開示できている事例はより限定的であり、英国上場企業においても脱炭素化社会への移行に伴うビジネス機会の特定とその具体化が課題となっていることが分かります。

図表1 Lower-carbon economy opportunities identified

図表1 Lower-carbon economy opportunities identified

(出典:KPMG Measuring climate risks and opportunities 2021)

2.シナリオ分析における炭素価格

TCFD提言は、いくつかの起こり得る気候変動シナリオにおけるリスクと機会を特定したうえで事業に与える影響を評価し、経営のレジリエンスを示すことを求めています。このシナリオ分析において炭素価格が与える影響は大きく、重要な開示項目となりますが、内部炭素価格(Internal Carbon Pricing)の情報を開示できていない企業もいまだ多く見られます。以下のグラフは、シナリオ分析において内部炭素価格を開示している企業の割合を示したものです。銀行業(60%)やエネルギー産業(57%)においては比較的開示企業の割合が多いものの、全体でみるとわずか23%の開示にとどまっています。炭素価格についてはグローバルでの水準のバラつきも大きく、適切な内部炭素価格の設定を行うことの実務的な難しさも背景の1つと思われます。

図表2 Sectors Disclosing Internal Carbon Price

図表2 Sectors Disclosing Internal Carbon Price

(出典:KPMG Measuring climate risks and opportunities 2021)

3.指標と目標

TCFD提言は、気候変動に関連する目標・指標についても開示を求めています。特にGHG(温室効果ガス)排出量については、Scope1(事業者自らによるGHG直接排出)とScope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)に加え、購入した物品の製造や消費者の自社製品使用時のGHG排出などのScope3(その他間接排出)まで範囲を拡大して開示を行うことが求められています。今回の分析対象企業のうち、97%はScope1&2の開示を実施し、82%はScope3まで開示を行っていることが明らかになりました。一方で、GHG排出量以外の土地利用や水使用に関しては開示の取組みが遅れていることも明らかになりました。

以下のグラフは、気候変動関連の削減ターゲット指標について、業種別に開示割合を表したものです。土地利用に関しては開示割合が全体で38%にとどまり、特に輸送業においては、土地利用に関する指標を開示している企業はありませんでした。

図表3 Non-financial highly exposed companies target setting

図表3 Non-financial highly exposed companies target setting

(出典: KPMG Measuring climate risks and opportunities 2021)

また、GHG排出量の開示についても課題がないわけではありません。分析対象企業の82%が開示しているScope3ですが、出張や通勤などの限定的なカテゴリに関する開示にとどまっているケースがほとんどです。サプライチェーンの上流から下流まで包括的に排出量を開示できている事例は、英国上場企業においてもまだ少数で、今後の課題と言えるでしょう。

4.経営者報酬

最後に、経営者報酬と気候関連指標との関係です。TCFD提言では、気候変動関連の指標・目標の開示の中で、それらが経営者報酬とどのように関連しているかを示すことが求められています。以下のグラフは気候変動関連指標と経営者報酬の関連について示されている割合を表したものです。銀行業(100%)やエネルギー産業(86%)においては極めて高い割合となっていますが、全体では37%にとどまっています。ガバナンスの仕組みにおいても、着実なネットゼロへの貢献・中長期的な気候変動リスク/機会のマネジメントが担保できる仕掛けづくりが求められています。

図表4 Are performance metrics included into remuneration

図表4 Are performance metrics included into remuneration

(出典:KPMG Measuring climate risks and opportunities 2021)

これらの分析は、2021年11月時点の開示内容に基づくものであり、今後とも継続的に改善が進んでいくものと思われます。特に、2021年のTCFD提言の改訂で盛り込まれた内容(内部炭素価格の開示、経営者報酬と気候変動関連指標の関係性の開示など)については、急速に開示の充実が進むことも予想されます。一足先に開示義務化に踏み切った英国上場企業の開示動向には、今後とも注目が必要です。

執筆者

間宮 光健(Mitsutake Mamiya)
Partner
Head of Global Japanese Practice EMA

横尾 健(Ken Yokoo)
Senior Manager
KPMG LLP
Global Japanese Practice

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