監査報告書におけるその他の記載内容及びKAMへのXBRLタグ付けの留意点

本稿は、新たにXBRLの対象となった監査報告書の「その他の記載内容」に対するXBRLタグ付けの留意点と、XBRL関連ガイドラインで明確化されたKAM(監査上の主要な検討事項)のXBRLタグ付け方針等について解説します。

本稿は、新たにXBRLの対象となったその他の記載内容に対するXBRLタグ付けの留意点と、XBRL関連ガイドラインで明確化されたKAMのXBRLタグ付け方針等について解説します。

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I.はじめに

我が国における企業情報開示システムであるEDINETは、インターネットを通じて有価証券報告書等の開示書類を閲覧するだけでなく、XBRL(拡張可能なビジネスレポーティング言語)を採用し、開示書類をコンピュータで自動処理するためのデータを提供している。2021年3月期からは監査報告書における情報提供の充実を目的としたKAM(監査上の主要な検討事項)の記載の強制適用に合わせてKAMのXBRLタグ付けを義務化し、KAMの記載内容のコンピュータ処理を可能にした。さらに2022年3月期からは、KAMと同様に財務諸表利用者に対して監査に関する説明・情報提供を充実させる観点から、監査報告書に「その他の記載内容」を記載することが要求され、それに合わせて「その他の記載内容」へのXBRLタグ付けも義務化される。また、EDINETタクソノミに対するパブリックコメントにおいてKAMのタグ付け方針に関する明確化の要望があったことなどから、金融庁は2021年11月に公表したXBRL関連ガイドラインの改訂においてKAMのXBRLタグ付け方針等の解説を追加した。そこで本稿では新たにXBRLの対象となったその他の記載内容に対するXBRLタグ付けの留意点と、XBRL関連ガイドラインで明確化されたKAMのXBRLタグ付け方針等について解説する。なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であることをお断りしておく。

II.その他の記載内容とは

その他の記載内容とは、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容に関する事項であり、監査報告書において区分記載が求められている。その他の記載内容の区分には、その範囲、経営者及び監査役等の責任、監査人はその他の記載内容に対して意見を表明するものではない旨、監査人の責任及び監査人が報告すべき事項の有無並びに報告すべき事項がある場合はその内容が記載される。

監査人は、開示書類における財務諸表以外の情報を通読し、財務諸表との間の重要な相違又は監査人が監査の過程で得た知識との間の重要な相違があればその結果を監査報告書のその他の記載内容に記載することが求められる。その他の記載内容に重要な相違又は重要な誤りがある場合には、監査人は経営者に対してその内容を指摘することになり、経営者は適切に修正することなどが求められる。監査人から指摘があった場合、通常は、経営者は適切に修正すると思われるため、その他の記載内容に重要な相違がある旨が記載されることは、実務上ほとんどないと考えられる。

III.その他の記載内容へのXBRLタグ付け実施時の留意点

EDINETタクソノミにその他の記載内容に係るXBRLタグとして、「その他の記載内容」タグと「未修正の重要な誤り」タグの二つのタグが連結財務諸表に対する監査報告書及び個別財務諸表に対する監査報告書にそれぞれ追加された。「その他の記載内容」タグは、その他の記載内容の区分全体に対してタグ付けするために使われるものであり、その範囲には見出しであるその他の記載内容も含まれる。したがって、財務諸表に対する意見を表明しない場合においてその他の記載内容を記載しない場合を除き、監査報告書にその他の記載内容の区分がある場合には、必ず「その他の記載内容」タグを使ってタグ付けしなければならない。一方、「未修正の重要な誤り」タグについては、前述の通り、通常の場合にはその他の記載内容に重要な相違がある旨が記載されることはほとんどないと考えられるため、「未修正の重要な誤り」タグを使用することは稀であると思われる。

なお、中間監査報告書には「その他の事項」の記載区分が設けられる場合があるが、EDINETタクソノミには当該区分のタグは用意されていないため、タグ付けの対象外である。

IV.「未修正の重要な誤り」タグの使用に関する留意点

その他の記載内容に重要な相違がある旨が記載される場合はほとんどないと思われるが、監査範囲の制約から重要な誤りとなるかどうかを判断できない場合などをその他の記載内容の区分に記載することは考えられる。監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」(2021年8月19日改正)の「付録2 その他の記載内容に関する監査報告書の文例」(以下、「付録2文例」という)において、その他の記載内容の入手状況とその他の記載内容に関する重要な誤りの識別の有無に対応した記載が例示されている。

図表1 その他の記載内容の重要な誤りに対するタグ付けの対象となる記載パターン

付録2
文例

その他の記載内容の特徴 重要な誤りの識別 「未修正の重要誤り」タグの使用
文例1 その他の記載内容は入手済みで重要な誤りを識別していない。 しない
文例2 その他の記載内容の一部を入手していないが入手済の内容に関しては重要な誤りを識別していない。 しない
文例3 その他の記載内容を入手していないため報告すべき内容の有無を記載していない。 しない
文例4 重要な誤りがあると判断している旨を記載している。 しない
文例5 その他の記載内容を入手済みであるが、監査範囲の制約によりその他の記載内容に重要な誤りがあるかどうか判断することができなかった旨を記載している。 (範囲の制約有)
 
しない
文例6 その他の記載内容を入手済みであるが、不適正意見の影響によりその他の記載内容に重要な誤りがあると判断した旨を記載している。 する
文例7 その他の記載内容が存在しないと判断している旨を記載している。 しない

付録2文例において「未修正の重要な誤り」タグが使用されるのは、文例4と文例6のように、その他の記載内容で「重要な誤りがある」と明確に記載されている場合に限られる。したがって、文例5のように通例ではない記載であっても、「重要な誤りがある」と明記されていない場合には「未修正の重要な誤り」タグは使われないことに留意する必要がある。

V.「その他の記載内容」のXBRLタグ付けの効果

財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識と重要な相違があるその他の記載内容の存在は、財務諸表に重要な虚偽表示があること又はその他の記載内容に重要な誤りを示唆している可能性があるが、数多くの企業の開示書類に対して、財務諸表利用者が目視によって監査報告書から未修正の重要な誤りの有無を識別することは容易ではない。また、人手による識別には時間がかかり、重要な情報を適時に入手できない可能性がある。そこで、その他の記載内容とその未修正の重要な誤りにXBRLタグをつけることで、コンピュータ処理による識別が可能となり、その結果としてEDINETの情報提供機能が強化されるという効果が期待される。

その他の記載内容に重要な誤りがあるケースは非常に限定的と考えられるが、それゆえに迅速な情報提供が求められる。その他の記載内容へのXBRLタグ付けは、監査報告書のデジタル化を推し進めて、監査報告書を含む開示情報の利用に関する業務の自動化・効率化を実現する取り組みの一環であるといえる。

VI. KAMのXBRLタグ付け方針の明確化

金融庁は2021年11月に公表したXBRL関連ガイドラインにおいて、KAMのXBRLタグ付けが適切に実施されるようにKAMのXBRLタグ付け方針を一部追加した。KAMにXBRLのタグをつけるためには、KAMの記載内容を記載項目(見出しや監査上の対応など)に合わせて分類することが必要となるが、KAMの記載内容の表現の揺れや表示されるレイアウトに違いがあることで、結果的にKAMのタグ付けにおいて監査報告書間の一部に不整合が生じていた。そこで、金融庁はXBRL関連ガイドラインを改訂しKAMのタグ付け方針を明確化した。

以下、金融庁のXBRL関連ガイドラインにおいて取り上げられているKAMのタグ付けの注意点について解説を行う。

VII. KAMのHTML上のレイアウト

EDINETの利用者はインターネットを通じてWebブラウザでHTML形式の開示書類を閲覧するが、Webページは一つのページが連続しており、スクロールすることで開示書類を表示させる仕組みである。一方、Word®などの文書作成ソフトは、印刷レイアウトを重視してページ区切りが設定されている。一般的に監査人は文書作成ソフトで監査報告書を作成し、それを原稿としてEDINETで提出するための監査報告書の作成を会社に依頼するが、KAMの記載内容によっては、文章量が多くなり、KAMの途中でページ区切りが生じることがある。そのような場合において、EDINET関連ガイドラインでは一つのKAMの「内容及び理由」(又は「監査上の対応」)を一つのタグでタグ付けできないようなレイアウトは可能な限り避けるように要請している。そのため、文書作成ソフトのレイアウトに合わせてKAMの表の途中で区切り線を入れることがないようにEDINETで提出する監査報告書を作成する必要がある。

KAMの表の途中で区切り線を入れてしまうと、監査報告書をWebブラウザで閲覧した場合、スクロールの途中でKAMの記載が分割された状態で表示される恐れがある。このようなKAMの記載の分割は、EDINETの監査報告書において散見されている。「内容及び理由」(又は「監査上の対応」)の途中で表が分割されてしまうと、Webブラウザでの可読性が落ちるうえ、記載文章をコピーしようとする場合、コピー範囲の指定は表の区切り線で止まってしまうため、非効率な作業を強いられることになる。さらに、「内容及び理由」(又は「監査上の対応」)のXBRLタグ付けの範囲もコピー範囲の指定と同様に表の区切り線で止まってしまうため、文章全体を一つのタグでタグ付けできず、コンピュータによる自動集計が適切に行われない恐れがある。

図表2 KAMの表の途中での区切り線を設定した場合のEDINETでの表示

監査報告書におけるその他の記載内容及びKAMへのXBRLタグ付けの留意点_図表2

VIII. KAMの「連結と同一内容である旨」タグ付け

監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」(2021年8月19日改正)第12項但書において「連結財務諸表及び個別財務諸表の監査を実施しており、連結財務諸表の監査報告書において同一内容の監査上の主要な検討事項が記載されている場合には、個別財務諸表の監査報告書においてその旨を記載し、当該内容の記載を省略することができる。」とされており、それを表現するためのXBRLタグとしてEDINETタクソノミに「連結と同一内容である旨」タグが用意されている。

2021年3月期の監査報告書のKAMの記載では、KAMの記載内容を省略しているケースとして、いくつかのパターンが確認された。

「連結と同一内容である旨」タグを使用するケースについては、今回のEDINET関連ガイドラインの改訂において次のように明確化された。

  • 個別財務諸表の監査報告書において、「内容及び理由」及び「監査上の対応」の記載がなく、「見出し」、「開示への参照」及び「連結と同一内容である旨」(「開示への参照」は記載がない場合あり)のみの記載がある場合に、「連結と同一内容である旨」のタグ付けをする。
  • 一つのKAMで「連結と同一内容である旨」の記載があっても、「内容及び理由」又は「監査上の対応」の記載がある場合には、「連結と同一内容である旨」のタグ付けをしない。

そのため、【図表3】の各ケースにおいて、「連結と同一内容である旨」のタグをつけるのは、ケース1とケース5に限定される。

図表3 KAMの記載で「記載を省略」しているとの文章があるケース

    記載を省略している旨の記載の特徴
ケース
連結/個別 見出し 監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
1 個別 記載あり
記載なし 記載なし
2 個別 記載あり
「記載を省略」している旨を記載 記載あり
3 個別 記載あり 記載あり 「記載を省略」している旨を記載
4 個別 記載あり
「記載を省略」している旨を記載 「記載を省略」している旨を記載
5 個別 記載あり
「記載を省略」している旨を記載 「同左」を記載
6 連結 記載あり 記載あり 「記載を省略」している旨を記載

また、ケース5については、KAMにおける項目名としては「監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由」及び「監査上の対応」があるが、「監査上の対応」に「同左」と記載しているのは、本来は、「見出し」と「連結と同一である旨」の記載で足りるところを、何らかの理由によりKAMの表形式を残しているだけであり、「監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由」と「監査上の対応」を区分して記載していないと考えることができる。したがって、「監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由」に書かれている文章に「連結と同一内容である旨」タグを使用し、「監査上の対応」に書かれている「同左」はタグ付けしないこととすることが適当であると考えられる。

図表4 「連結と同一内容である旨」タグを使用する方が適当と考えられる場合

監査報告書におけるその他の記載内容及びKAMへのXBRLタグ付けの留意点_図表4

IX. 公認会計士協会の公表物

公認会計士協会は、2022年2月4日に「EDINETで提出する監査報告書へのXBRLタグ付けについて(お知らせ)」を公表した。当該お知らせは、公認会計士協会の会員に対してEDINETで提出される監査報告書へのXBRLタグ付けについての理解に資することを目的としている。本記事と併せてお読みいただければ、その他の記載内容及びKAMのタグ付けについて開示書類作成担当者の参考になると思われる。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
公認会計士 筏井 大祐
公認会計士 近藤 聡