「データ保護規制の最前線」第12回目。
データ保護規制強化の動きが広まる一方、データを戦略資産として捉えるデジタル変革の実現が進展しています。規制対応への準拠のもと、検討すべきリスク管理上のポイントについて解説します。
本連載は、日刊工業新聞(2021年10月~12月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

データ保護規制対応のリスク管理

本連載では、データ保護規制を取り巻く環境変化と実務対応のポイントを解説してきた。国際的な趨勢としてデータ保護規制が厳格化の一途をたどり、消費者のプライバシー意識も高まる中、データ保護規制への対応が重要な経営課題であることは疑いない。データ利活用の重要性が高まる一方で、日本企業は今後どのようにデータ保護規制対応の実現に向けた企業改革を進めるべきか。規制対応リスク管理の構成要素であるストラテジー、ガバナンス、プロセス、オペレーションの4つの観点で考えることが有効だ。

まず、ストラテジーの観点における大前提は「データ保護は不確実性との闘い」ということである。情報漏えいや規制違反の発生確率は、ゼロにはできない。検討すべきは、タイムリーな情報収集を土台とした継続的な状況把握と、必要なタスクやその優先順位を動的に設定できる仕組み(プライバシー・インテリジェンス)の構築である。さらに起こり得るシナリオごとに、何をどこまで実施し、どのような説明が可能かを事前に備えておくことが、有事の被害を最小限に抑えるためのカギとなる。

次に、ガバナンスの観点では、海外拠点を含めたグループ会社との連携・役割分担の整理が必要となる。製品・サービスを提供する国でのデータ保護規制に網羅的に対応するには、海外子会社にもリスク管理の機能を移譲して負荷分散を図ることが現実的と言える。しかし、各社に協力を要請したものの、意思疎通が十分でなく実質的な協力が得られないという課題を耳にすることも多い。役割や責任は具体的な業務レベルで文書化し、定期的にコミュニケーションを行ってその遂行状況を確認する枠組みを整備するべきである。

また、プロセスの観点で求められるのは、新たなデータの取扱いにより生じるプライバシーリスクを適切に評価するための手続きの導入である。リスクの評価基準をどのように設定するかは難しい課題だが、各国での監督当局の執行事例や社会的な炎上事案には少なからず傾向がある。そうしたリスク顕在化の事例を広く蓄積し、自社に及ぼす損害を推定・分析しながら採るべき対策の検討を続けることで、段階的な基準の精度向上が可能となる。

最後に、オペレーションの観点では、いかに規制対応の属人性を排除して標準化を図るかが肝要だ。従業員が過度に負担を感じず、加えて特別な知識を習得せずとも法令を順守できるよう業務手順にデータ保護対策を組み込むことが望ましい。運用書類の統一や事務手順のワークフロー導入による自動化などが解決策の候補であり、グループ全体でのコスト削減にも大幅な貢献が期待できる。

世界各国におけるデータ保護規制の強化を背景に、クロスボーダーに事業を展開する海外企業では、いち早くデジタル変革(DX)の推進と両輪で、データ保護対策にも積極的に投資を行っている。日本企業もデータを戦略的な資産と捉え、早急に全社的な方針を定めて一元的に管理するよう発想を転換するとともに、リスクに基づき必要な保護対策を埋め込む「プライバシー・バイ・デザイン」の概念も根付かせながら、効果的に改革を進めていくことが極めて重要である。

執筆者

KPMGコンサルティング
ディレクター 勝村 学

日刊工業新聞 2021年12月24日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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