KPMGインターナショナルは2021年半ばに、製造企業のCEO146名を対象に意識調査を実施しました。その見解をまとめる中で、今回のパンデミックや気候変動、地政学的要因により、経営幹部が、デジタル化とESG目標への注力という2つの変革を、今まで以上に重視していることが分かりました。テクノロジー人材の不足と従業員や顧客、投資家からの変革の要求の高まりを受け、バリューチェーン全体を変革するテクノロジーを導入する必要がかつてなく高まっています。しかし、人工知能や5Gネットワークなどのテクノロジーを導入し、改革を成功させるためには、経営者は、何をどこまで目指すのか、目指すところに会社をどう引っ張っていくのかについて明確なビジョンと意志を持ってリードしなければなりません。

ポイント

  • 企業がサプライチェーンリスクを軽減し、かつ機会を最大化するには、テクノロジーを活用してレジリエンスを強化することが極めて重要である。
  • パンデミックによって引き起こされたディスラプションについて、CEOの70%は、競合に破壊されるのを待つのではなく、自らが業界にディスラプションを起こすつもりだとしている。また70%が、テクノロジーのディスラプションを脅威というより機会とみなしている。
  • 企業は戦略的にESGに取り組むことで健全なサプライチェーンを持つことができ、ひいてはそれがより競争力のある企業を作ることにつながる。

レジリエンスが最優先課題

製造企業のCEOは、今回のパンデミックから互いに関連する2つの重要な教訓を学んでいます。レジリエントなサプライチェーンが重要であるということと、事業の混乱を回避しつつそれに乗じることによってレジリエンスを強化するためには、新しいテクノロジーに投資する必要があるということです。KPMGインターナショナルの調査で、今回のパンデミックによる今後3年間の自社への影響を尋ねたところ、68%のCEOが、世界的なロックダウンが発生した場合に備えてサプライチェーンのレジリエンスを確保することを目指すと回答しました。

企業は、ジャストインタイム方式のサプライチェーンからジャストインケース方式へと移行しつつあり、調達先の多様化を図っています。経営幹部の間でサプライチェーンは、リスクを軽減するためだけでなく機会を最大化するためにも最優先事項とみなされるようになっており、サプライチェーンリスクに対処する能力は、企業にとって大きな競争優位になります。

新しいテクノロジーが果たす二重の役割

企業が新しいテクノロジーに投資する必要がある第1の目的は、サプライチェーンへの負担を軽減することです。これには、自社の監視の範囲をサプライチェーンの深層に広げ、深刻な影響が及ぶ前に変化を予期することが最良の方法でしょう。ティア4かその先の層も含めた、無数の取引を追跡できるテクノロジーが必要であり、人工知能(AI)は1つの手段になると考えられます。こうしたテクノロジーにより、リアルタイムで分析した需給データに基づいて製造が可能になり、サプライチェーンの中に脆弱な部分があれば、そこを中心にリスク管理を徹底することもできます。

新しいテクノロジーへの投資の第2の目的は、テクノロジーを利用してより速く収益を拡大することです。調査において、成長目標を達成するための今後3年間におけるオペレーション上の最優先事項として、CEOたちは、あらゆる機能分野のデジタル化と接続性への投資を挙げています。効果的に統合すれば、この種の投資はアジリティを高め、イノベーションを促進することにもなります。

新たな目的意識

ステークホルダー、特に投資家から、ESGの取組みに関する透明性を高めるように迫られていると答えたCEOは、全体の48%となり、そうではないと答えた数の5倍以上にのぼりました。そして、43%のCEOは、魅力的なESGストーリーを打ち出すのが難しいと認めています。この難しさの原因は、ESGに対する彼らのアプローチが、ビジョンに基づくのではなく実際的なものであるように見えることにあるかもしれません。

CEOにとって、ESGは目的を達成するための手段と考えられています。これはCEOが問題の緊急性を理解していないという意味ではありませんが、ESGを主要な成長の手段とは見なしていないようです。31%の回答者がESGに注力することで財務成績が上がると述べていますが、54%はその効果はどちらともいえないと述べています。そして、目的意識を伝えることが顧客関係に最も大きな影響を与えると考えている割合は92%にのぼりました。

結論

今回のCEO調査から学ぶべき主な教訓は、「サプライチェーンへの変革と投資をおざなりにする企業は生き残れない」ということです。これは不変のテーマでありながら、かつてなく差し迫った課題となっています。サステナブルな成長をあげるためには、レジリエントなサプライチェーンが不可欠です。

パンデミックと気候変動が同時に発生していることを背景に、企業は新たなリスクを軽減すると同時に新たな機会を最大化するための手段を求めており、DXが加速しています。DXとESGのゴールは両立するものであり、一体化することによって強い効果を発揮することをCEOはまだ理解していないのかもしれません。デジタル化はサプライチェーンリスクを軽減し、持続可能性を高めることができます。しかし、CEOはESGを、単に目的を達成するための手段としてではなく、戦略的課題として捉える必要があります。ESGに力を入れなければ健全なサプライチェーンを持つことはできず、健全なサプライチェーンがなければ、長期的な目標を達成することは困難になるでしょう。

英語コンテンツ(原文)

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