「eスポーツ市場拡大の利点」第10回。今後も成長が見込まれるeスポーツ市場に企業が参入することで期待される直接的・間接的効果について解説します。
本連載は、日刊工業新聞(2021年4月~7月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
本連載ではビジネスの観点でeスポーツ産業について、さまざまな事例を用いて解説してきた。スポンサーシップや新規事業など、eスポーツに対する企業のかかわり方は多種多様である。第10回では、企業が今後どのようにeスポーツとかかわっていくべきかという観点から、高い効果が期待されるチームの保有について紹介する。
企業がeスポーツ市場へ参入することで得られる直接的な効果はマーケティング活動か新規ビジネスの創出の2つに分類される。
マーケティングの観点でチームの保有は若年層や海外のファンに対してマーケティング・ブランディングを行う絶好の機会となるだろう。新規ビジネスの観点でもチームの保有で新たな売上が期待できる。日本のeスポーツ市場は今後も成長が見込めるため、早期参入で高い効果を得られるとみる。
企業がeスポーツチームを保有することで直接的な効果だけでなく、高い間接的な効果も期待できる。なかでも注目したいのが、持続可能な開発目標(SDGs)に基づいた企業の持続的な成長の実現である。第8回で紹介したとおり、eスポーツは高齢者や障がい者といった社会的弱者を含む幅広い属性や世代の人たちが活躍可能である。企業がeスポーツチームの保有を通して、多様な人たちに活躍の機会を提供することは、企業や社会の成長につながるだろう。
地域に対する貢献や成長という面でも、チーム保有は有効である。国内では地方自治体や日本eスポーツ連合の地方支部が中心となって多くのイベントを開催しており、地方を中心とした市場の発展が国内eスポーツの特徴と言える。
これは日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)が創設当初から掲げる地域密着と共通しており、今後も地域に根付いた発展が期待できる。企業が地域密着型チームを保有することで、企業が根付く地域に対する貢献や、地域を通した成長が実現できるだろう。
そのほかにも、たとえば社内における人材の成長、新しく開発した技術やサービスを検証する機会としての活用、社内外交流の活性化など多くの効果が考えられる。eスポーツに参入する企業が増えることによって、eスポーツ市場が発展するだけではなく、持続的な成長を実現する企業の増加に期待したい。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 水沢 丈
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日刊工業新聞 2021年7月2日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。