「eスポーツ市場拡大の利点」第8回。eスポーツ市場で高齢者の社会参加促進や障がい者の雇用機会創出など、活用の幅が広がり社会的な意義が見出されています。その活用事例と今後の動向について解説します。
本連載は、日刊工業新聞(2021年4月~7月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
eスポーツがビジネス面で話題になっている理由の1つに活用領域の広さが挙げられる。日本ではeスポーツを活用した地方創生、教育、社会的弱者支援などの取組みが海外に比べて顕著にみられる。第8回では、社会的弱者への活用事例と利点、今後の展望を紹介したい。
eスポーツは、国、性別、年齢、ハンディキャップを超えて競技を楽しめるという点に利点があることから、高齢者や障がい者の社会参加ツールとして期待されている。厚生労働省によると、高齢者の社会参加率が高い地域ほど、転倒や認知症、うつ病のリスクが低い傾向にある。
レクリエーションの1つとしてeスポーツを導入した高齢者施設では課題となっていた高齢者男性の参加率が向上するなどの効果を上げている。近年は高齢者のeスポーツチームやゲーム実況ユーチューバーなどeスポーツ市場で活躍する高齢者も増え始めている。
障がい者の社会参加を促す取組みとして、障がい者雇用企業と障がい者のマッチングにeスポーツを活用する事例がある。従来、障がい者雇用は企業と求職者のミスマッチだけでなく、数合わせ採用や、みなし雇用が課題となっていた。
このような課題を受け、一部の企業では、才能の発掘を目的に障がい者が健常者と混じって参加できるeスポーツ大会を開催し、参加した障がい者の技能をデータベース化して企業ニーズに合う人材を紹介している。
多言語習得、プログラミング能力が非常に高いなど特定の技能に強みを持ち、ゲームになじみのある障がい者は多く、eスポーツを通じて雇用機会を創出する意義は大きい。採用する企業側もハード面の能力だけでなく、eスポーツ大会を通じてコミュニケーションなどのソフト面の能力を確認できるため、戦力となる障がい者を見極められる利点がある。
ヘルスケア領域では、デジタル技術を活用したデジタルメディスンが注目されている。小児の発達障害を対象としたゲーム形式の治療用アプリケーション(応用ソフト)が海外で認可された。国内でも禁煙治療用アプリの認可が下りており、今後の普及が現実味を帯びている。
超高齢化社会、かつゲーム大国の日本ならではの取組みとして、たとえばヘルスケア企業、ゲーム企業、高齢者施設が連携し、互いの利害を一致する形でゲームを活用したデジタルメディスンの開発を検討していくことも、国際競争力確保の点で意味があると思われる。今後の動向に注目したい。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 岩田 理史
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日刊工業新聞 2021年6月18日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。