メキシコ:2022年度税制改正の概要(第3回)-移転価格

本ニューズレターでは、2022年度税制改正(2021年11月12日連邦政府官報公布)のうち、移転価格にかかる改正の概要について解説します。

本ニューズレターでは、2022年度税制改正のうち、移転価格にかかる改正の概要について解説します。

本ニューズレターでは、2022年度税制改正(2021年11月12日連邦政府官報公布)のうち、移転価格にかかる改正の概要について解説します。今回の改正により、移転価格の対象取引や提出期限等が変更されるとともに、マキラドーラ企業において従来認められていた課税所得計算方式(APAオプション)が廃止され、他の項目と比較して、企業への影響が大きい改正項目の1つとなります。

目次

  1. 移転価格税制の概要
  2. 対象取引
  3. 移転価格課税額の決定
  4. 比較対象取引
  5. DIM Anexo 9の提出期限
  6. ローカルファイルの提出期限
  7. マキラドーラの課税所得計算
  8. 当該改正の論点

1.移転価格税制の概要

メキシコでの移転価格税制は、一般企業に対するもののほか、別途、マキラドーラ企業に対する規定があります。一般企業に対する移転価格税制は基本的にOECDモデルを準拠しています。具体的には、一定の規模以上の企業に対して、関連会社との取引に際し、税務年度ごとに移転価格レポート(移転価格スタディー)の作成と保持が義務付けられています。また、独立企業間価格の設定について、以下の方法が認められています。

独立価格基準法、再販売価格基準法、原価基準法、利益按分法、残余利益按分法、取引単位営業利益法

その他、移転価格関連のコンプライアンス制度として、全メキシコ企業に対する情報申告(DIM)のAnexo 9による納税者の関連者取引に関する情報の開示、Dictamen FiscalあるいはISSIFでの関連者取引に関する開示、さらに一定規模以上のメキシコ子会社に対するBEPSレポート(ローカルファイルおよびマスターファイル)の税務当局への提出などが義務付けられています。

※以下のいずれかの要件を満たす企業(対象年度の前年度売上ベース)

  • 事業活動からの収益 ≧ 13,000,000MXP
  • プロフェッショナルサービスからの収益 ≧ 3,000,000MXP

2.対象取引

対象取引について、現行では「国外居住者」である関連者との取引に限定されていますが、改正により当該国外居住者の文言が削除され、国内居住者を含む関連者との取引が対象となります。なお、現行の実務においては、すでに国内居住者との取引も移転価格レポート作成の際に分析対象として行われているのがメキシコの場合一般的であり、実質的な影響はないと思われます。

一方、当該対象取引の改正に伴い、DIM Anexo 9の関連者取引の中に、国内居住者との取引が記載項目として追加されることが想定されます。移転価格レポートとDIM Anexo 9の整合性にご留意ください。

3.移転価格課税額の決定

移転価格課税額の決定にあたり、現行では価格面を考慮することのみが規定されていますが、改定により価格面に加え利益率も考慮することが明記されます。なお、現行の実務においても、移転価格レポート作成の際には、すでに利益率を考慮していることが一般的であり、実質的な影響はないと思われます。

4.比較対象取引

比較対象取引について、現行では一定の条件を充足する場合には、複数年度のデータ(例えば3年平均)を利用することができることが規定されていますが、今回の改正により、原則として比較対象取引は分析対象年度のものを利用することが明記され、例外としてビジネスサイクルが1年超の場合のみ、そのビジネスサイクルに合わせた複数年度での比較がされる建付けとなります。メキシコにおける過去の税務調査においても、当局による追徴時には単年度比較での課税計算がなされており、その実態が今回明記されたものと考えられます。一方、進行年度の分析を行う移転価格レポート作成時において、比較対象会社の同じ進行年度の情報を入手することは実務的に困難であるため、移転価格レポート作成時には進行年度の分析において1年前の比較対象会社の数値をもって比較し結論づけるような実務に着地することが予想されます。

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