「eスポーツ市場拡大の利点」第5回。リアルスポーツと同様フランチャイズモデルの採用や大学でのeスポーツを扱った取組みなど、市場拡大の一途をたどる米国のeスポーツについて解説します。
本連載は、日刊工業新聞(2021年4月~7月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
今や世界最大の市場規模を誇るeスポーツ先進国、米国。今回は近年、米国のeスポーツ界で起こっている特徴的な2つの事象、フランチャイズ(FC)リーグの出現と大学のeスポーツシーンの盛り上がりについて紹介したい。
米国では、リアルスポーツと同様にeスポーツでもフランチャイズモデルが採用されていることが多い。eスポーツの場合は、タイトルの開発者であるパブリッシャーがリーグの運営組織となり、所属チームが会費を払う形をとっている。
ブリザード・エンターテイメント(ATVI)が運営するオーバーウォッチ(OW)とコールオブデューティー(CoD)のリーグが代表的なものとして挙げられる。OWリーグに新規チームとして参入するには2,000万ドル(約22億円)、CoDリーグには2,500万ドル(約27億円)の高額な費用が必要だが、各リーグは年々、拡大を続けている。
チームにとってのメリットは、降格がないことで安定した経営ができることやリーグからの収益分配が挙げられる。プレーヤーにも最低給与保証や保険、退職金が用意されている。
放映権も高騰しており、ユーチューブは2020年、ATVIからそれぞれのゲームのリーグやイベントの3年間のストリーミングにおける放映権を16億ドル(約1,750億円)で勝ち取った。2021年で4シーズン目を迎えるOWリーグは5ヵ国から20チームが参加し、賞金総額は425万ドル(約4億7,000万円)になると発表された。
eスポーツ市場の拡大に伴い、そのコンテンツ力に便乗する形でeスポーツチームを設立したり、奨学金を出す大学が増えており、eスポーツ関連へ約1,500万ドル(約16億円)が毎年費やされている。eスポーツを扱う大学が増えたことで大学リーグも盛んになっている。米国最大級の大学リーグであるTespaによると、これまで1,350以上の大学と4万人以上の選手が彼らのトーナメントに参加した。
大手スポーツメディアのESPNもカレッジeスポーツチャンピオンシップ(CEC)を2019年に開幕し、TespaやCSLと協力して大学のeスポーツシーンを盛り上げている。このように、大学もeスポーツに力を入れるようになったことで、大学を介してプロになる道が開かれ、リアルスポーツと同じプロセスができあがりつつある。
米国のeスポーツ市場は拡大の一途をたどっている。大人気タイトルの「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」のリーグ視聴者数は米プロバスケットボールNBAや米大リーグ、北米プロアイスホッケーNHLを超えているという統計もある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でそれがさらに後押しされたはずだ。eスポーツが米国の主要スポーツの一角を担うようになるのも遠くはないだろう。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント Greene Cody
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日刊工業新聞 2021年5月28日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。