「eスポーツ市場拡大の利点」第4回。大手ゲーム会社がなかった韓国のゲーム市場が「eスポーツビジネスの発祥地」と呼ばれるようになった経緯について解説します。
本連載は、日刊工業新聞(2021年4月~7月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
第4回では、eスポーツビジネスの発祥地と呼ばれる韓国で、eスポーツが生まれた経緯を紹介する。
日本のような大手ゲーム会社がなかった韓国のゲーム市場は、1990年代中盤までは日本から輸入された日本の家庭用コンソールゲーム機でプレーするゲームタイトルが人気だった。ゲームに対する一般的なイメージも日本と似たところが多く、他の国に比べると日本と韓国のゲーム事情は近い環境だった。
しかし、1980年代末から始まった韓国政府のパソコン(PC)公教育で、ゲームのコアユーザーである学生層のPCリテラシーが徐々に上がってきたこと、さらに1990年代中盤からインターネットに接続可能な家庭用のPC(ネットPC)の普及で、PCに抵抗感の少ない若い世代が生まれたことによりPC基盤のゲームが流行する土台ができた。
その後、PCでのオンラインゲームが流行し、多種多様なゲームのなかで、相手とリアルタイムで戦略・戦術を競う「リアル・タイム・ストラテジー(RTS)」と呼ばれるジャンルのゲームの人気が高まった。
特に1998年に発売された米ブリザード・エンターテイメントのRTSゲーム「スタークラフト」 が大ヒットしたことで、プレーヤー層が1つのコミュニティになる基盤ができあがった。
当時、そのコミュニティに入りたいのにネットPCを所持していない層に向けてゲーム専用のインターネットカフェのような新しい施設のビジネスモデル(いわゆるPCバン)が登場し、ピーク時は全国2万ヵ所以上の店舗 が存在した。このような施設ビジネスはさらにコミュニティの裾野が広がるきっかけとなり、PCバン内でトーナメント大会をさまざまな形で行ったのが、現在のeスポーツの始まりである。
その後、eスポーツ専用のケーブルメディアが登場し、リアルスポーツのように一般の人にもわかりやすい解説を中継し始め、各地の選手が集まって競技ができるリーグ大会の運営も提供するようになった。そのなかで、2004年に韓国第2の都市、釜山で行ったeスポーツ大会の決勝戦に、当時の予想を大きく上回る10万人が集まったことで大手企業の大口スポンサーが増え、本格的なeスポーツプロチーム・プロ選手の時代が到来した。
韓国のような隣国の先進事例は、今後、日本のeスポーツ産業発展にも参考になる部分が多いのである。
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター Hyun Baro
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日刊工業新聞 2021年5月21日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。