データエコノミーに対応する次世代モビリティ・自動車ビジネス オンラインセミナー抄録(1)

2021年12月公開したセミナーの抄録です。基調講演にMOBI理事の深尾三四郎氏をお招きし、また深尾氏とKPMGの専門家によるパネルディスカッションを行いました。

2021年12月公開したセミナーの抄録です。基調講演にMOBI理事の深尾三四郎氏をお招きし、また深尾氏とKPMGの専門家によるパネルディスカッションを行いました。

KPMGジャパン 自動車セクターでは、オンラインセミナー「データエコノミーに対応する次世代モビリティ・自動車ビジネス」を開催いたしました。

本セミナーでは、基調講演にMOBI(Mobility Open Blockchain Initiative)理事の深尾三四郎氏をお招きし、モビリティデータの可視化・利活用による、モビリティの新たな価値提供とサステナブルな社会の実現シナリオについてご講演いただきました。

第二部では、深尾氏とKPMGの専門家によるパネルディスカッションを行い、モビリティデータを利用した価値創出のための取組み事例をご紹介し、次世代のモビリティビジネス、自動車ビジネスとしての可能性と、その実現のために必要となる戦略、そのポイントについて解説しています。

今回は、基調講演の内容をお伝えします。

第1部・基調講演:データエコノミーに対応する次世代モビリティ・自動車ビジネス
講師:MOBI理事 深尾 三四郎氏

今日、お伝えしたいことは3点です。1点目は、脱炭素SDGsという新しい価値づくりが自動車業界にも今起きていて、背景にある欧州発のゲームチェンジャーの動きによって、急速に進んでいるということを感じ取っていただけたらと思います。

2つ目は、こういった脱炭素SDGsという目に見えない価値を可視化し、インターネット化するという、新しい社会を構築する基盤として、ブロックチェーンというものが今注目されているということをお伝えしたいと思います。

そして3点目は、このような新しいモビリティ社会を構築するうえでの国際的なルールメイキング、この土俵作りが今進んでいますが、この新しい土俵の上で日本としての強み、ものづくりで勝負をしていくことを提言としてお伝えしたいと思っています。

MOBIの活動・果たす役割

私が理事を務めておりますMOBI(Mobility Open Blockchain Initiative)はグローバルコンソーシアムとして、自動車メーカー、サプライヤーを中心に、次世代モビリティ事業者、スマートシティ事業者、自動車業界以外の企業も含めたメンバーと活動しています。ブロックチェーンに関わる事業者として、IT、ICT、さまざまな業界から企業が集まっており、そういった事業会社のみならず、欧州委員会、中国交通運輸部といった、政策立案者も集まって標準化を進めています。

MOBIの提供価値、これをMOBIテクノロジースタック(以下MTS)というふうに定義していますが、大きくは3つのレイヤーがあります。まず1番下は、標準規格 - モビリティに特化したブロックチェーン技術の標準規格、これを作成しています。

2つ目は、この企画を有効化するための実証実験 - パイロットプロジェクトからビジネス実装に向けて、さまざまなデータをつなげていくという作業です - mobiNETという表現をしていますが、MOBIの会員企業が分散型の共有のデータプラットフォームを作って、MOBIの会員以外、他の国際コンソーシアムともつなげることによって、対象を広げていくということを行っています。

最後の3つ目は、CITOPIA("City"と"Utopia"をあわせたMOBIの造語)で、これをいわゆる次世代モビリティの中でどうやって生かすのか、それをどうやってビジネスにつなげていくのかというところで、分散型アプリケーション(dApps)を作っています。

この3つ、三位一体になったMTSというのが、MOBIの提供価値となっています。

このように、モビリティにおける標準規格というものをさまざまな産業とつなげることによって、大きくはスマートシティを作っていくことがMOBIの活動になります。

デジタルツインとトレーサビリティ

2021年10月26日に世界リリースとして発表した、トラステッドトリップという規格をご紹介します。

Introducing MOBI Trusted Trip : Introducing MOBI Trusted Trip (Chinese CC) - YouTube
※外部動画コンテンツへ遷移します。

トラステッドトリップの具体的なユースケースをご説明します。例えば、従量課金型のサービスのユースケースとしては、いわゆる走行税の徴収などがあります。走ったところで走った分だけ走行料を払うといったユースケースです。これは、欧州委員会も含めて、政策立案者からのニーズが高まっています。

背景にあるのは、EVが増えることによって、ガソリン税収が減ります。道路財源が今減少していますので、どういった形で自動車税制を変えていこうかといった議論の中で走行税のニーズが高まっています。

ビジネスにおいては、A地点からB地点まで移動した間のCO2の排出量が、いわゆるカーボンプライシングとして課金されます。もしくはカーボンクレジットを獲得するという意味においては、そういったデータが重要ですので、その物差しとなるものが、このトラステッドトリップになります。

もう1つは、サプライチェーンです。なかでも今最も注目されているのは車載電池です。車載電池を作る段階でのCO2の排出量というのもありますが、もう1つは、使用済みの電池の健康状態を定量化、可視化するための情報、データです。これを管理するための1つの物差しやルールという形で、トラステッドトリップが活用されます。

MOBIの活動も含めて、データエコノミーにおいて、データをどうやって自動車ビジネスに活かすのか、例示します。

スマートシティを作るために必要なのがブロックチェーンというのが、世界的な流れになっています。ブロックチェーンは、そのデータを改ざんされないように、いつも複製されないように管理するという技術であり、大きな目的は2つあります。

1つはデジタルツインといわれる仮想のデジタル空間を創造すること。もう1つはデータの履歴、遡及性といったトレーサビリティを確立することになります。

図表3
図表2

出典:「データエコノミーに対応する次世代モビリティ・自動車ビジネス オンラインセミナー」MOBI資料

デジタルツインの活用事例としては、V2X(Vehicle to Everything)データ取引という、車と他の車、もしくは車とインフラといった形で、車とそれを囲む周辺環境との間でデータを売り買いするという意味です。

また、M2M(Machine to Machine)決済と呼ばれる、AIを搭載したモノとモノ、すなわち車と車、車とインフラの間で自律的に決済を行う技術です。これを作るためのベースがブロックチェーンになります。ユースケースの例では、車が走っている時のパーキングデータ、駐車の空きデータを収集して、それをその道路を管理する自治体のクラウドにアップロードし、それに対して自治体は報酬としてTOKENをデジタル通貨で支払います。

こうしたデータがなぜ必要とされるかというと、駐車していないエリアのデータを活用することによって、道路の車の流れを変えることができます。モビリティデータが社会にとって望ましい形で使われると、そのデータに対して、それを提供した側に報酬を与えるというユースケースになります。

別のユースケースでは、車の事故につながるような、道路に穴が空いている等の情報を車がデータ収集し、先ほどと同じように道路を管理する自治体のクラウドにアップロードします。それに対してご褒美としてTOKEN、デジタル通貨が支払われます。それを受け取った車は、その通貨を高速道路の道路通行料に使うことができます。社会にとって望ましいデータを送信したら、それに対してご褒美があり、それをモビリティにまた活用できます。この循環をトークンエコノミーといいますが、こういったユースケースも最近は出てきています。

実は、今、このデジタルツインはスマートシティを構築するために必要であるという考えが、世界潮流として見られます。スマートシティというのは、いわゆる今既存にあるシティ、街をスマートにするという言葉になります。それを実現するためには、仮想空間上に街のデジタルツインを作る必要があります。その仮想空間上でシミュレーションをして、そこからもたらされるソリューションを、現実世界に引き戻すことによって、街がよくなるという発想です。

ブロックチェーンによる目に見えない価値の可視化

リアルのスマートシティを作るには、さまざまなデジタルツインを集める必要があり、例えば、人、車、インフラ、お金、再生可能エネルギー、そして二酸化炭素の排出です。この車とインフラのIDを作っているのがMOBIの役割です。この価値のインターネット化、まさに価値のプロトコル、仕組みを作るということが、ブロックチェーンがなせる技となります。

目に見えないけれども、今、可視化されてきている新しい価値 - 具体的には、カーボンフットプリントで、カーボンフットプリントを減らす努力は、カーボンクレジットという形の新しい通貨として認められることにもなります。こういったトレーサビリティを確保し、それを信頼性、透明性の高い形で担保するというニーズが高まっていることで、ブロックチェーンの導入議論が盛んに行われているのです。

それ以外にも、車載電池のサプライチェーン、あとはバッテリーの状態(SOH)、再生可能エネルギーが、どこから来たのか、どうやって使われたのかという色付け、こういったところでもブロックチェーンは活用されはじめています。

部材の倫理的調達、半導体の模造品の撲滅、あとは単一障害点といわれる状況 - 例えば東南アジアでどこかの工場が止まったとき、システム全体がダメになってしまうことがないようにするためやサプライチェーンの強靭化のためにも、今、ブロックチェーンが活用され始めています。

ご参考:MOBI’s Web3 Digital Infrastructure for the New Economy of Movement
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