はじめに
ESGへの取組みは今や避けては通れません。
一方、ESGとは包括的な概念であり、存在するのはESGの課題・テーマに関する個別の戦略(気候変動・人権・人材・デジタル等)でもあります。
TMT(テクノロジー・メディア・通信)の業界においても同様であり、各サブセクターでESGの課題、成熟度は大きく異なります。
本稿では、TMTのサブセクターごとに、ESGにおける重要課題と対応の方向性を考察します。
テクノロジーセクター
グローバルに展開する企業も多く、早い段階からESGへの取組みが見られました。
今後は、人権系のテーマへの取組み機運が高まるでしょう。日本企業はこのようなテーマに不慣れな部分もありますが、最大のチャレンジはサプライチェーンの管理、ひいてはサプライヤーを含めた取引先全般の管理と考えられます。
そこまで強いバイイングパワーを持ちえない企業、B2B系の多種多様な商材を扱う企業などにおけるサプライヤー・取引先全般のコントロールは、新たな課題です。
また、前述した人権問題のように、日本企業が従来「十分対応できている」と認識してきたテーマにおいても、グローバルでの対応レベルと比べるとどうか、倫理的価値観トレンドに対しても十分にキャッチアップできているか、といった点で継続的な自己点検が必要になります。
メディアセクター
今後の取組み機運の高まりを踏まえ、自社が提供するコンテンツにおいて倫理的に慎重な取扱いがますます必要となるでしょう。
一方で、倫理とコンプライアンスを徹底することが、却って現場の萎縮や、競争力の源泉たるクリエイティビティの喪失につながっているのでは、との声もあります。
リスクへの対応のみならず、クリエイティビティの追求という意味でも、メディア産業は総じて、ESGおよび企業倫理の観点からますます覚悟を持った経営が必要になります。そのためには、自社としての理念・パーパスの持ちようと、それらを社員やクリエイターなどの関係者、そしてユーザー・視聴者・社会を巻き込んだ共感の形成が大切となります。
通信セクター
もともと、電力消費の多いビジネスであることから、省エネ製品の採用や調達電力グリーン化などの環境負荷対応は早い段階から取り組みが見られました。
競争の激化や政府からの圧力によりトップラインの伸びが期待しにくい通信事業から、金融や物販などの非通信事業に積極的にビジネスを拡大するなかで、個人情報の活用が一層進むことは明らかです。自社が持つ個人情報に加え提携先との交換や情報銀行からの購入、属性情報に加え動的情報の利活用、複数情報の組みあわせ利用といった新たなシーンも想定されることから、今後は通信事業者が持つ膨大な個人情報の取扱いと保護が重要となるでしょう。
デジタル化の阻害要因ともなりかねない、個人情報利用に対する社会的アレルギーや心理的抵抗感に対しては、抵抗感を上回る利便さの提示、社会的課題の解決を図るという大義名分の確立や、それを裏打ちする理念やパーパスの持ちようが、より重要になると考えます。
まとめ
今後のESG活動にはデジタル化が不可避です。デジタル化を促進させることで、ESG活動もスムーズに行えるとも言えます。またテクノロジー企業をはじめとしたTMT業界自身が、ESG活動のためのイネーブラーとして他の業界をサポートする立場にあると考えます。
たとえばカナダのCarbonX社の取組みは、環境負荷の低い消費行動に対してインセンティブを与えるものです。原資がCO2排出権取引の手数料であること、インセンティブ管理にブロックチェーン技術を採用していることなどが、単なるポイント制度を超えた取組みであり、ESG活動における企業と消費者とをテクノロジーで結びつけるスキームとして興味深いものがあります。
ESG経営に向けたトランスフォーメーションの実現には経営理念から事業戦略、実行まで一貫した取組みが求められます。
KPMGはワンストップでのサービス提供を通じてESG経営に貢献したいと考えます。TMT業界として社会的課題の解決に資するDeep Techを世の中に提供していく必要があり、KPMGはそのサポートをしたいと考えています。
【各セクターの動向】
テクノロジー | メディア | 通信 | |
---|---|---|---|
動向 | ・主要テーマは取組み済、今後は人権系テーマへ ・課題はTier2以降の取組み実効性の確保 |
・取組みへの立ち上がりは緩やか ・表現の自由などの人権系テーマへの取組み機運が高まる |
・気候変動対応への取組みが中心 ・今後はデータ活用に伴う個人情報の取扱いが焦点に |
これまで | ・大手企業(ブランドイメージ) ・気候変動、サプライチェーン(紛争鉱物) |
・環境、サプライチェーンとは距離感あり | ・環境負荷低減が中心(巨大サーバ群) |
今後 | ・人権系テーマ(健康管理、強制・児童労働) |
・デジタルライツ、特に表現の自由 | ・膨大な個人情報の保護 |
課題 | ・対象範囲拡大への対応 (Tier2以降サプライヤー・デジタルツール活用) |
・コンプライアンスとクリエイティビティの両立 |
・個人情報取得・利用シーン拡大に伴う許諾対応 |
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター 和田 智