背景
あらゆる業界、地域において、クラウド、AI、5Gなどの技術を活用した新しいビジネスが創出され、社会的課題に挑むメガプロジェクトが立ち上がっています。自動車をはじめとするモビリティ業界におけるMaaS、遠隔医療の発展、スマートファクトリー、スーパーシティ構想など、多くの例を挙げることができます。
この背景には、コンピューティングパワーやネットワーク帯域の飛躍的な伸長があるとともに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やカーボンニュートラルへの対応の必要性に迫られた各国政府や企業の大胆な取組みの加速があり、この流れは今後ますます加速していくものと考えられます。
加えて、業界融合の流れは近年特に進んでおり、たとえばインターネット放送に代表されるような通信と放送の融合や、電気自動車(テクノロジー×自動車×通信×エネルギー×製造)、スマートシティ、フィンテック(FinTech)やエドテック(EduTech)など、こちらもテクノロジーが介在するあらゆる領域に拡がっています。
テクノロジー企業は、こうした大きな流れの中で、その技術開発力を発揮して顧客であるそれぞれの業界の企業変革や事業創造、グローバルでの社会的課題の解決に貢献することを期待されています。すなわち膨大な事業機会が目の前にあると言うことができます。
課題感
こうした事業環境の変化や社会的要請の拡大に対して、日本のテクノロジー企業は充分にその機会を捉えることができているでしょうか。
米系や中国のメガプラットフォーマーが、グローバルに事業を拡大し、国家を巻き込んでの覇権争いを繰り広げているのに対して、日本企業の持てる技術力・競争力は発揮されていないばかりか、むしろCOVID-19からの経済回復やESG投資を捕捉して成長に取り入れていく動きは相対的に鈍いように感じられます。
メガプラットフォーマーが存在感を高める一方で、なお存在する新事業創出・社会的課題解決の機会を捉え、ビジネスの伸長・企業価値の創出を図るアプローチとして協業共創のアライアンス・パートナリングを進め、エコシステムの構築を追求することが、今最も有効なアクションの1つと考えることができます。
そこではテクノロジー企業がイネーブラーとなる技術を提供し、ビジネスモデル構築のリーダーシップを執り、プラットフォーマーを利用しながら競争優位性を確立していくことが期待されます。日本でも、テクノロジー、SIer、通信キャリアの各大手企業がJVを組み、5G、AI、センシング、クラウドなどの技術を持ち寄ってグローバルの競争に臨もうとしている取組みがあります。
解決策
本稿で提議した協業共創のモデルは、一部の企業間および産官学では始まっていますが、翻って多くの日本企業の経営戦略・事業運営の実情は、未だ自社の内部的思考パスから外に出る際に、さまざまな障害があってうまく進んでいないケースも多く散見されます。研究開発から商品企画・設計、基幹材料・部品から組立まで一貫した製造、そして販売までの垂直統合モデルから、グローバル市場での競争激化、固定費削減の要請により製造の外部委託は進んでいますが、エコシステム形成に向けた抜本的なアライアンスの取組みは充分とは言えません。
もちろん、自社が何をコアコンピタンスに、どのような社会的課題の解決に取り組み、どのビジネスで勝ち抜いていくのか、その明確な考えを支柱としてアライアンスは成立し、新しいエコシステムは形成されます。当面は、市場で強みを保ち収益性も期待できる事業は自社単独で進めようという考えが、依然、一般的かもしれません。しかし競争優位性というカードを用い、持ち寄ってこそ強いアライアンスは成立します。冒頭から記しているように、あらゆるエコシステムにおいてイネーブラーとしてのテクノロジーは必須の要素となりますから、テクノロジー企業は持てるコアコンピタンスを軸にアライアンスを主導し、そこに参加する企業へのベネフィット提供とともに自らの事業拡張を追求することが重要となります。
KPMGコンサルティング のTMT(テクノロジー・メディア・通信)セクターでは、テクノロジー企業のコアコンピタンスの特定と、それがいかなる事業機会、特にエコシステム形成を主導し得るかの構想作りをサポートするとともに、あらゆるインダストリーのプレイヤーとの関係作りをグローバルネットワーク、国内ネットワークから支援することが可能です。加えて、エコシステム形成に際しては、我々コンサルティングファーム自身も、中に組み込まれる主体的な1プレイヤーとなり得ます。
KPMGコンサルティングのビジネスモデルは、基本的にはクライアントである企業に対してコンサルティングサービスを提供し、サービス対価としてフィーをいただくのが原則です。しかしそこに留まらず、1プレイヤーとしてテクノロジー企業のエコシステムに組み込まれ、協業共創を行っていくというモデルへの新たな取組みを鋭意始めております。
テクノロジー企業のエンドクライアント向けに、双方の強みを組み合わせ、掛け合わせて価値の最大化を狙う。コンサルティングサービスを通じて、社内導入/完成したアセットやサービスをともに外販する。業界を超えて新しく市場創造を図る。こうした取組みが例となります。
KPMGコンサルティングのサービス提供体制としても、多様なサービス・ソリューションの組み合わせを提案するだけではなく、TMTセクターが主導する形で、クロスインダストリーの取組みにも柔軟に対応できる体制を、適材適所で確立するといった対応も用意しています。
今後グローバル、国内でテクノロジー企業が競争力を高めていく上で、エコシステム形成、共創モデルの動きはより必然となり、さらに加速、進化していくものと予測されます。こうした激しい環境にこそ、エコシステム形成へ向けた構想作り、およびエコシステムに組み込まれる1プレイヤー双方の立場で、テクノロジー企業の競争優位性を高める原動力となりたいと考えます。
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター 本下 雄一郎