人類は、宇宙をオポチュニティのある魅力的な領域とみなすようになってきています。宇宙領域では、新たなテクノロジーが急速に出現し、参入障壁が下がり、官民問わず新たなプレイヤーによる優位性獲得に向けた競争が加速しています。かつて、常に中心的な役割を担ってきた防衛セクターは、宇宙領域での役割を見直さざるを得なくなっています。宇宙進出に参加する国や企業が増えるにつれ、宇宙は防衛や国家安全保障にとってますます重要な領域となるでしょう。

宇宙領域とそのエコシステムの変化をより深く理解するため、KPMGインターナショナルとSpace Foundationは共同で、20名を超える宇宙領域の産業界リーダーおよび国防リーダーと対話を行い、この領域における短期および中長期的な課題と展望について、彼らの見解を求めました。インタビュー回答者の多くが指摘したように、宇宙において人類が長期的に居住し、活動するためには、宇宙の交通ルールを定めなければならない時代に突入しました。人類が宇宙領域から便益を得られるかどうかは、行動と方針に関する国際規範について幅広いコンセンサスが得られるかどうかにかかっているでしょう。また、宇宙空間や地球上での人類の安全を確保するためには、ステークホルダーをサポートすることがこれまで以上に重要となります。

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予測1:宇宙は国家安全保障の将来を決定付ける

宇宙は、2030年までに国家安全保障にとって主要な領域になるでしょう。オーストラリア、カナダ、中国、フランス、インド、日本、ロシア、英国および米国などの国は、重要な防衛計画を整備しています。しかし、その他の国々もまた、宇宙領域に対する権利を主張し始めています。例えばアフリカ諸国は、2019年だけで41基の軌道衛星を打ち上げました。インタビュー対象者の多くが、国家安全保障の枠組みに宇宙領域を組み込むことにはそう時間はかからないだろうと考えています。地球外での人類の活動が増加するに伴い、宇宙領域を安全に保つニーズが高まるでしょう。

また、宇宙空間、特に低軌道上を漂う宇宙ゴミと交通量の増加に関する懸念が増しています。市場と社会が宇宙資産に依存するにつれ、宇宙環境の持続性と適切な管理の必要性がますます国家安全保障上の課題としてみなされるようになるでしょう。

予測2:イノベーションのスピードは加速する

膨大なデータを管理し、人工知能やマシンラーニングなどの新しいテクノロジーを統合する能力は、官民を問わず、宇宙ベンチャーの成功にとって重要な能力となりつつあります。リアルタイムの地球観測データが一般市民に提供され、膨大な量の情報、洞察、およびインテリジェンスを提供する未来を達成するような重要なマイルストーンは、AIやモバイルテクノロジーを利用することで実現されるでしょう。これらのテクノロジーによりほぼすべての人々が、データを自分の携帯電話にダウンロードして、いつでも地球上のあらゆる地点をあらゆる解像度で表示することができます。これは、国家安全保障に重要な影響を及ぼします。

また、経済のあらゆる領域において、テクノロジーの開発が急速に進んでいることからも、近接オペレーションや宇宙空間における製造などの領域で、新しい(現在はなじみのない)能力やテクノロジーが現れる可能性があると予測されます。しかし、新しいテクノロジーが現れる可能性があることよりも、それらが適用され、拡張され、商品化されるスピードのほうに注目すべきです。新しいテクノロジーの安全を確保するための積極的な取組みが鍵となってきます。

予測3:パートナーシップが長期的な成功にとって極めて重要になる

宇宙活動、宇宙開発および宇宙投資におけるパートナーシップとコラボレーションの価値が理解され、既存のパートナーシップと同盟関係を拡大する取組みが実施されています。例えばNATO(北大西洋条約機構)は宇宙センターを設立し、宇宙通信および宇宙情報に関する調整を強化しています。米国主導の統合宇宙作戦センター(CSpOC)は、フランス、ドイツおよびニュージーランドの協力を得て、米国、オーストラリア、カナダおよび英国間の連携の向上を目指しています。多くの場合、民間用と防衛用の観測機器を搭載した軍民両用衛星に関するパートナーシップの利用など、同盟国との間で商用および民間オペレーションとのコラボレーションの強化に特に重点が置かれています。

予測4:国際規範に則することが発展の鍵となる

宇宙で活動する者に対する新しい規範、つまりどのように行動し、どのようなルールに従って活動するかについての規範を策定することによって、すべての人々の便益のために効果的かつ安全な方法で軌道上の環境を活用する未来を実現することができます。その中で、反協力的な協定の範囲は縮小され、従来とは異なるパートナーとのコラボレーションの強化が実現するでしょう。

防衛組織に対する社会的な期待が変化し、各国政府がデジタル時代における「防衛」の意味を再定義するため、さまざまな新たな課題や潜在的な対立点、パートナーシップの可能性が生じてきます。また、それぞれが異なるかたちで現れ、あらゆるプレイヤーやセクターに影響を及ぼす可能性があります。したがって、これらの急速に発生する課題を効果的かつ効率的に評価して対応するために、宇宙領域には、さまざまな潜在的な状況に適合する柔軟性と堅牢さを十分に備えた規範、方針および政策の枠組みが必要となります。

防衛における産業界リーダーおよび国防リーダーの見解

防衛における産業界および国防リーダーとのインタビューの一部をご紹介します。詳細は本レポートをご確認ください。

パートナーシップについて

宇宙での競争の増加と過密化に伴い、パートナーシップの必要性が大幅に高まりました。国防総省が米国宇宙軍を再編成した際には、同盟パートナーと米軍が連携し、共同軍事作戦、共同トレーニング、共同軍事作戦シミュレーション、共同軍事演習を実施する場となる連合C2(コマンド&コントロール)センターの設立に焦点が当てられました。この取組みを支援するため、宇宙軍は同盟国とのパートナーシップを発展させ、能力の共同構築、ならびにコスト削減とスピードアップを実現しました。短期、中期および長期的に直面する課題に対応するためには、強固で堅牢なパートナーシップを築き上げることが重要です。(General John W. “Jay” Raymond/ Chief of Space Operations、 US Space Force)

新たな能力の開発について

フランス宇宙軍の目的は、宇宙へのアクセスおよび宇宙での活動の自由を維持することです。つまり、軍用能力のみならず、我が国と我が国のパートナーの便益にとって戦略的に重要となる能力など、我が国の宇宙に関する能力に対するいかなる脅威にも対応できる立場にいる必要があります。この目標は、1年や2年で達成できるものではありません。10年単位で考えるものなのです。そして現在、宇宙監視技術のほか、最も重要なものとして、我が国の宇宙の便益を保護および防衛する技術の迅速な開発に取り組んでいます。(Major General Michel Friedling/ Commander、 French Space Command)

商業セクターからの価値の獲得について

商業の宇宙エコシステムは、急速に変化しており、多くの防衛組織は、商業セクターから価値とミッションへの貢献度を最大化する方法の理解に挑んでいます。新しい宇宙ベンチャー企業に巨額の民間資本が投入され、例えば、HawkEye 360社は今後2年間で、民間が資金提供する衛星クラスターを最大10組まで軌道上に保有し、政府が活用できる商業用高周波数(RF)のデータと分析を導入する予定です。民間企業が投資を行うためには、政府はその需要を伝え、民間のデータおよびサービスを購入する意欲を示す必要があります。政府は、異なるデータ流通経路、新たなタスクのモデル、および政府と民間のデータをより適切に統合する新しい方法を活用するような実験と演習を重視すべきです。(Kari Bingen/ Chief Strategy Officer, HawkEye 360, and former US Deputy Under Secretary of Defense for Intelligence and Security)

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