茶谷公之、ティム デンリ、ジョン リー | 2021年2月17日
新型コロナウイルスの影響が今も示しているように、ますます複雑化する現在のビジネス環境の中で「スピードの必要性」がこれほど重要視されたことはありません。変化が規模を拡大しながら加速する中、生き残りをかけて競争力を強化し、自動化や人口知能を追求するビジネスが急増しています。
2021年は、AIがこれまでにない飛躍を遂げて主流になると考えられます。あらゆるビジネスが大胆に舵を切ってAIへの取り組みを強化し、AIが主導する未来を勝ち抜いていかなければならないことを受け入れているからです。
ビジネスは自動化への道のりの中で障壁や課題を乗り越えてきました。質の高いデータの不足や、重大な経営判断を機械に委ねることへの懸念から、AIに対する「信頼度のギャップ」が広がりました。誰もがAIで間違いを起こすリスクを取りたくありません。パンデミックが広がり始めた2020年に行った調査では、調査対象の企業幹部の60%以上が、価値創造の大きな障害として高品質データの不足を挙げています。※1
適切なデータ利用規定や規則が整備されていないこともまた成功を妨げる要因でした。AIには、業務遂行と意思決定方法を大きく変革する力がありますが、責任を持って導入されるべきです。AIが生産性を発揮し、企業全体で受け入れられるようになるためには、透明性を持ってきちんと説明でき、信頼できるものでなければいけません。2020年の調査では、企業幹部の50%が、AIの導入および進展の障害としてAIの倫理指針がないことを挙げています。※2
今まさにAI導入が急増しようとしている
AI導入への障害が無くなったわけではありませんが、新型コロナウイルスの大きな影響により、インテリジェントオートメーションやAIが予想外に勢いを増しています。パンデミックは、「平常のビジネス」が急速に平常ではなくなった世の中で、スピードの重要さを明確にしました。この変化による混乱やリモートワークの増加が、AIを今までにないレベルまで推進しています。
インテリジェントオートメーションやAIは、21世紀の企業に、あらゆる側面でこれまでの常識を覆すような影響を与えようとしており、今後の仕事、データ利用、組織の効率、クライアントや従業員の体験、リスク管理などを大改革すると予想されます。
フォレスター・リサーチの「2021年、AIがもたらす希望の兆し」というレポートによると、2020年にAIの導入が15%伸びた一方で、「企業は徐々に増加する小さいソリューションを経験して熟成度が上昇している」とのことです。AI導入は今までにない成長を示す段階にあります。35%以上の企業が今年「職場のAIを強化する」段階にあり、25%の企業がリモートワーク向けのホログラム会議や各従業員に特化した作業方法を導入し、「未開拓分野にAIを広げる」と予想されます。
KPMGグループ各社は、革新的なKPMG Igniteプラットフォームを利用して、クライアントに自動化やAIが持つ計り知れない力を訴求し理解を深めています。クライアントの成長推進、リスク管理、費用対効果の最適化を促す意思決定やプロセスを強化、推進および自動化するために、独自の手法でクライアントが世界中のデータインサイトを活用できるようにサポートしています。KPMG Igniteプラットフォームは、機械学習、深層学習および自然言語処理を組み合わせて構造化および非構造化データ、音声や画像に適用します。
従来のタイムラインとコストを改善
KPMG Igniteは、特許を取得した当グループのAIプラットフォームです。インテリジェントオートメーションや高度なデータおよび分析ツールを使って、クライアントが新型コロナウイルスのような将来起こりうる混乱や非常事態に迅速に対応できるようサポートします。例えば、世界的な大手銀行のクライアントの最近のケースを紹介します。米国政府は、中小企業経営者の従業員の給料支払いを支援するために、コロナ関連の給与保護プログラムを立ち上げましたが、これにより今までにない緊急事態が発生しました。殺到する申し込みに対応するために、銀行側に与えられた準備期間は非常に短いものでした。
幸い、私たちのクライアントである銀行は準備ができており、数時間のうちに大量に到着するローン申込書に対応し、数十から数万の書類に番号付けすることができる自動化システムを立ち上げました。KPMG Igniteを導入したことにより、この膨大な作業を従業員が手動で行った場合とは比べ物にならないわずかな時間で、送られてくるローンの書類を識別、確認して承認することができました。
KPMG Igniteは、「階層化、モジュール化および組み立て可能な」独自の「マイクロサービス」アーキテクチャーを採用しており、私たちが「ハイパー・アジリティ」と呼んでいる比類ないレベルの柔軟性をユーザーに提供しています。これは現代のペースの早い環境において極めて重要な強みです。複雑で変動する市場に組織を適応させるためには、機敏であり、革新的であり、柔軟であることが必要となります。要するに「ハイパー・アジャイル」であることです。
KPMG Igniteは、AIを導入する上での疑念や不安を払拭することを目的として設計されています。基本となっているのは、問題を解決してプロセスを促進させるために必要なビジネスの技術的専門家、そのユーザーそしてAIツールに迅速に結び付けるあらゆる領域にまたがるアプローチです。
KPMG Igniteのモジュール・アーキテクチャーは、業務プロセスを完結させて十分な情報を得た上での意思決定を行うための、昔ながらのタイムラインやコストを効果的に改善します。
米国の証券取引を規制するボルカー・ルールの改正に対応する米国の大手銀行も、私たちのプラットフォームに頼ってきました。KPMG Igniteは、80人の弁護士チームが完了するのに12カ月かかると予想された複雑なソリューションを、たったの16週間で実行しました。
買掛金請求書の全作成工程を自動化するために技術系大手企業であるヒューレットパッカード(HP)が立ち上げた、AIおよび機械学習を展開する多面的な取り組みも注目すべき例です。パンデミックによりHPのタイムラインが加速され、年間50万枚にものぼる紙の請求書の作成工程を急進させるために、今後数カ月で技術を展開・拡大させ、従業員に対するソリューションのトレーニングを行うことを目指しています。「新型コロナウイルスは、より大局的な視野を持ちながら何処の何に投資するか見直す機会を作り出しました」とHPのRPA(金融改革簡素化)のディレクターであるBobby Jutleyは話します。
KPMG Igniteのアーキテクチャーとマイクロサービスは、絶えず変化する市場に対応し、柔軟なツールで構成されたプラットフォームやマイクロ・コンポーネントの中から選び、即時にそれを無限に拡がるニーズに適用することを可能にします。ハイパー・アジリティをサポートするKPMG Igniteの能力は、ローコード手法によって強化されています。この手法では、データサイエンティスト、AIエンジニアおよび強力な自動化ツールを組み合わせることにより、従業員自身が企業規模の高度なアプリケーションを実現できます。この組み合わせは、KPMGのビジネスの多様な専門知識を活用し、マクロレベルの技術要素を瞬時に関連付けてIgniteの正確なマイクロレベルのソリューションを提供するものです。
規制当局がAIに照準を合わせる
急速なAI導入は前途有望でありながら、関連するリスクも浮上しており、導入が加速するにつれ、ビジネスや政府は、信頼でき、消費者のデジタル著作権を保護し、責任ある成長を促進するための基準や規則の策定に躍起になっています。
今年焦点となる以下の主要リスクに注目してください:
- AIの精度と正確性:AIが持つ可能性とリスクの間のギャップを埋めるために、AIに携わる関係者は、技術を統制し、意思決定や結果が失敗した場合の副次的な影響を管理する最適な方法について、規則や指針を強化するよう要求しています。政府はAIの潜在的効果とリスクに焦点を合わせており、自動化への信頼を効果的に向上させる、幅広く新しいフレームワークを提供する規則や指針を必要としています。
- 消費者データとデータ機密性の適切な取り扱い:AIが主流となる中で、消費者データの機密性と責任ある利用が新しい規則の重要な要素となります。既に、個人データの利用方法に関する懸念がEUのGDPRや米国カリフォルニアのプライバシー法などグローバルおよび各国の規則につながっています。
- 意思決定における差別と偏見:機密性の高い個人情報をベースとしたAIの使用例が増えており、不公平な社会的偏見、開発者の偏見またはビジネスモデルの偏見が意思決定に影響を与え、最終的に消費者の差別につながるのではないかという社会的懸念を誘発しています。先を見越したビジネスや政府は、AIをベースとした意思決定や結果が不注意に歪曲されたり、偏見を伴わないようにする方法を検討しています。
私たちはまた、データの信頼性と成果を得るために、今後ブロックチェーンやAIプラットフォームがより深く一体化すると考えています。データ起源のブロックチェーンはデータの信頼性、完全性および使用追跡の正確性を高めます。データの信頼性証明をブロックチェーンに依存することは今まで限られていましたが、企業はデータの信頼性とコンプライアンスの証明を求める消費者や規制当局からの高まる圧力に直面しているため、2021年にはブロックチェーンの活用が増加すると予想されます。
結論として、21世紀の新しいビジネスモデルを展開する上で、AIと自動化は重要な役割を果たそうとしており、2021年はAIと自動化が今までにないほど注目を浴びる年になるでしょう。ビジネスが本格的なAI改革を追求する必要性は最早無視できません。急速に発展する競合他社や新規参入者が、成功を優先して規則を書き換えリスクへの対応を後回しにしている今、もう猶予はありません。
脚注:
※1 home.kpmg/enterprisereboot
※2 Ibid.
本資料は、2021年2月17日にKPMGインターナショナルが掲載した「Trends in artificial intelligence - AI roadblocks are giving way to rapid grouth」を日本語に翻訳したものです。本資料のその内容および解釈は英語の原文を優先します。