新型コロナウイルス感染症と資本主義の進化

新型コロナウイルス感染症は、投資に関する「新たな現実」を明確化することの重要性を示し、財務上の利益ばかりではなく社会的影響をもたらすことの重要性を浮き彫りにしています。

新型コロナウイルス感染症は、投資に関する「新たな現実」を明確化することの重要性を示し、財務上の利益ばかりではなく社会的影響をもたらすことの重要性を浮き彫りにしています。

ステークホルダー資本主義への移行に向けて、この1年で相当な機運が盛り上がってきました。新型コロナウイルス感染症の流行は、投資に関する「新たな現実」を明確化することの重要性を示し、財務上の利益ばかりではなく社会的影響をもたらすことの重要性を浮き彫りにしています。見識ある資本の時代の到来です。

新たなダボス・マニフェストや、2019年8月にビジネス・ラウンドテーブルが発表した企業のパーパスを再定義する公開書簡などの努力もあり、私たちはこの数ヵ月にわたり、経営陣や取締役会の議題にいくつかの行動を求める声が上がるのを目にしてきました。

その結果、実業界に対する人々の目はますます厳しくなっています。ステークホルダーは、企業が自社と社会への価値を長期にわたり創出するために、ビジネスモデルをどのように順応させているかを知りたいと考えています。これは株主第一主義との決別であり、ステークホルダーのニーズを企業の意思決定の一部に組み込む手法の拡大につながります。

新型コロナウイルス感染症は、企業と企業がサービスを提供するコミュニティとの相互依存関係を示す典型的な例であり、ビジネスの回復力への貢献において、インパクトおよび重要なESG(環境・社会・ガバナンス)要因が持つ顕著な役割を明らかにしています。私たちが未知の水域を航海し続ける上で、投資におけるニューノーマルとしてのインパクトおよびESGへの機運を高める重要な教訓があります。

投資家が変化を推進

ステークホルダー資本主義への移行を促す上で、投資家は不可欠の役割を果たします。実際、企業が自社の事業運営に関係するESGのリスクと機会をどのように管理しているかに基づいて投資対象を積極的に精査する個人投資家および機関投資家の数は、今や増大しつつあります。

その中にはさらに先を行き、製品やサービスによって社会問題や環境問題へのソリューションを提供することで企業が創出できるプラスのインパクトに基づき、企業への投資機会を探し出す投資家もいます。

多くの大手金融機関が投資家の需要に応じつつあります。たとえば、ゴールドマン・サックスは2019年末に、気候問題やインクルーシブな成長に関連する投資に7,500億ドルを振り向けると発表しました※1 。サステナブル投資の分野ではすでにリーダーと目されているブラックロックは、自社のポートフォリオのサステナブル資産を1兆ドルに増やす取組みの一環として、1月にグローバルインパクト株式ファンドを立ち上げました※2 。

プライベート・エクイティ、ヘッジファンド・マネジャー、インフラおよび不動産投資家たちも加わりつつあります。たとえば、KKRは、最近、グローバル・インパクト・ファンドを13億ドルでクローズしました。TPGとベインキャピタルは、2番目のインパクト投資ファンドのクローズを準備しています。2月には、カーライル・グループがインパクトを生み出す投資への全社的なテーマ型アプローチを発表しました。リープフロッグ・インベストメンツやブルーオーチャード(最近シュローダー・グループが買収)などの長年インパクト投資を専門としてきた投資運用会社も、ますます活動的になっています。

KPMGの専門家による金融サービスセクターとの対話では、投資家はインパクトとともに望ましいリスク/リターン特性を提供する機会に資本を投入しようと模索しており、大規模な変化が起こりつつあることが示されています。はたから見ても、インパクト投資市場が持続的成長に向かっていることは明らかです。

新型コロナウイルス感染症により、企業の本質的な価値と、企業において価値を推進する要因の双方が問い直される機会が増えています。

これらの要因の多くは、組織の機敏性、文化、従業員、ブランドロイヤリティなど、大きなインパクトをもたらす企業の特性と一致しています。ステークホルダーに対しプラスのインパクトをもたらすという意思を持つことが不可欠であり、ビジネスモデルを通じて社会問題へのソリューションを提供する場合には特に重要です。

多くの人々が現在自問しているのは、企業がどのように適応することができるか、そして新型コロナウイルスの危機から脱したとき、危機から得たものを維持してこれらの特性を強調するためには、今後、事業のやり方をどのように変えていけばよいかということです。このことをより広く投資目標に組み入れるには、どうすればよいでしょうか。

※1Goldman Sachs pledges $750 billion to environmental causes by 2030
※2BlackRock shakes up business to focus on sustainable investing

運用資産(AUM)を引きつけるには信頼性の構築を

新型コロナウイルスにより浮き彫りになったもう1つの必須事項は信頼性です。多くの投資家は自らの投資アプローチの一環としてインパクトの追求を取り入れていますが、一部の投資家は、インパクトに適用される標準的測定方法や定義がないために懐疑的です。

金融機関が自社のインパクト商品を拡大し、より多くの投資資本を引きつけたいと望むなら、信頼性の向上に注力する必要があるというのが、私たちの見解です。さらに、私たちはインパクト投資の拡大を支援した経験から、投資家エンゲージメントの推進と信頼性構築に役立つよう、金融機関が重点を置くべき3つの広範な領域を提案します。

1. 透明性と開示

  • コミュニケーションの重要性を過小評価しない。投資家は、単なる財務報告以上のものを求めています。インパクトに対するファンドマネジャーのアプローチを裏付ける根拠と、継続的な改善に向けた計画を理解したいと望んでいます。コミュニケーションの強化(信頼性あるデータとエビデンスに裏付けられた)は必須です。
  • 独立の第三者の意見を取り入れる。「インパクト・ウォッシング」に関する懸念が広まっていることから、インパクト・アプローチの設計に独立アドバイザーが関与することで投資家を安心させることができます。特に、自社チームにインパクトの専門知識を確立する際には、このことが重要です。また、多くのファンドマネジャーは、アプローチの実行方法について独立アドバイザーの見解を投資家に提供するために、期末プロセスの一環としてインパクト保証を導入しています。

2. 信頼性と誠実さ

  • 見解の共有。投資家との対話では、投資家は見解や経験が具体的にどのように取り入れられているか、また、市場が変化する中で金融機関が自らのアプローチを繰り返し行っているかということを知りたいと考えていることが示されています。
  • 意思を明確に示す。金融機関は財務上の利益のみならず、測定可能なインパクトに大きく貢献するという、より広いコミットメントと能力を示すことがますます求められるようになっています。投資家は、ニッチなファンドだけではなく、企業のより広い領域におけるインパクト投資の可能性について、ゼネラル・パートナーがどのように見ているかを知りたいと考えています。

3. インパクトの統合

  • インパクトを測定するだけではなく、管理する。インパクトをめぐる意図を明確に示すための中心的方法は、当該資産のオーナーシップの一環としてそれを管理することです。インパクトの指標は、意図した所にインパクトの実現を促すとともに、新たな価値の創出や強化につながるような、業務上の意思決定の改善を促すために活用できます。
  • 正味インパクトを評価する。インパクト投資では、常にプラスのインパクトを生むことを意図してますが、現実には(時として)意図しない結果を招くことがあり、そのことも考慮に入れる必要があります。投資家は、自分の投資に関連するプラスとマイナスのインパクトを総合した「正味」インパクトをますます問題にするようになっています。

未来に向けて

インパクトは、インパクト投資家を自認する人々だけではなく幅広い投資家にアピールしつつあり、新型コロナウイルス流行後の世界で、金融サービスにおける重要な役割を果たすことは疑う余地がありません。パーパス駆動型を自認する企業が増え、ESGをめぐる基準やインパクトのフレームワークおよび指標を確立する機運が高まり、資産運用会社とアセットオーナーは仕事が容易になるでしょう。

私たちは金融機関が自社のクライアントや投資家との間で信頼性の構築に注力することとともに、業界全体での協力を継続することを推奨します。実際、金融サービス業界がこの市場の成長を促進したいと望むならば、インパクト投資・エコシステム全体にわたる共同の取組みが必要となるでしょう。

これからの金融の世界では、投資の意思決定の一環としてインパクトを考慮するようになるでしょう。見識ある資本の時代の到来です。

お問合せ

金融機関に関する最新情報