連結納税制度の廃止とグループ通算制度への移行

税制改正におけるグループ通算税制の概要と企業グループの状況別に留意すべき実務上のポイントについて解説します。

税制改正におけるグループ通算税制の概要と企業グループの状況別に留意すべき実務上のポイントについて解説します。

2020年度(令和2年度)税制改正により、2022年3月期をもって連結納税制度が完全に廃止され、2022年4月1日開始事業年度からグループ通算制度に移行します。これにより、グループ通算制度の適用を受ける企業は、税制改正後の事業年度の決算(四半期決算を含む)において、連結納税制度からグループ通算制度への移行およびグループ通算制度の適用を前提として、会計および税務上の影響を考慮して適切な経営判断を行う必要が生じます。同様に、企業のM&Aにおいても買収後の会計および税務上の影響について事前に十分な検討を行ったうえで意思決定をする必要があります。そのため、企業グループの財務経理税務業務が大きな変革期を迎えることになります。
本稿は、税制改正におけるグループ通算制度の概要と企業グループの状況別に留意すべき実務上のポイントについて解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

 

ポイント

  • 「連結納税制度に代わり適用されることとなるグループ通算制度とは」
    グループ通算制度の背景には、連結納税制度の下での税額計算が煩雑過ぎるといった指摘があった。税制改正により導入されるグループ通算制度とは、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みを維持し、制度の簡素化により、企業の事務負担の軽減を図りつつ、親会社の欠損金利用制限措置を設けて公平な税負担措置を講じたものである。
  • 「グループ通算制度への移行に際して留意すべき実務上のポイントとは」
    連結納税制度を導入済の企業グループと、連結納税制度の導入を検討している企業グループとでは留意すべき実務上のポイントが異なる。双方、グループ通算制度移行後における諸要素を考慮する必要があるが、特に連結納税制度の導入を検討している企業グループにおいては、グループ通算制度の施行前に連結納税制度を選択・適用し、経過措置を利用してグループ通算制度に移行することで親会社の欠損金はグループで控除可能な欠損金として利用することができる。

I.グループ通算制度の背景

2020年度税制改正によって連結納税制度(企業グループ内の個々の法人の所得と欠損を通算するなど、企業グループ全体を1つの法人であるかのように捉えて法人税を課税する仕組み)が廃止されグループ通算制度へ移行することとなりました。連結納税制度は2002年度(平成14年度)の導入から16年余りが経過し、企業グループの一体的経営を進展させ、競争力を強化する中で有効に活用されてきました。その一方で、経営が多様化し親法人に情報などが必ずしも集約していない、連結納税制度の下での税額計算が煩雑、税務調査後の修正・更正に時間がかかり過ぎる、といった指摘があり、損益通算のメリットがあるにもかかわらず、制度を選択していない企業グループも多く存在していたことから、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みを維持しながら、上記問題点を解消するため、抜本的に法改正がなされました。

財務省資料第24回総会「政府税制調査会 連結納税制度に関する専門家会合」

II.グループ通算制度の概要

1.制度の概要

  • グループ通算制度とは、完全支配関係のある企業グループ内で損益通算および欠損金の通算を可能としながら、その企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が法人税額の計算および申告を行う制度です(図表1参照)。

図表1 グループ通算制度における所得計算イメージ

図表1 グループ通算制度における所得計算イメージ
  • なお、グループ通算制度の適用法人に修正・更正が行われる場合には、原則として通算グループ内の他の法人の税額計算に反映させない(遮断する)ための措置が講じられています。

2. 時価評価課税・欠損金の持込み等

  • グループ通算制度の適用開始時および通算グループへの加入時における時価評価課税および欠損金の持込みの取扱いは、組織再編税制と整合性のとれた内容となっています。
  • また、連結納税制度より時価評価課税や欠損金の切捨ての対象が縮小することが見込まれる一方で、連結納税制度のもとでは時価評価課税は不要とされ、連結納税開始前の欠損金の持込み等について何ら制限を受けなかった親法人にも、時価評価課税、欠損金の切捨てまたは欠損金や資産の含み損等の利用制限が生じることになりました。

3. 親法人の欠損金

  • 親法人の連結納税開始前の欠損金は、その開始後においては連結欠損金として連結グループ内で控除することが可能でしたが、グループ通算制度では、親法人のグループ通算制度の適用開始前の欠損金は、子法人と同様、特定欠損金として自己の所得の範囲内でのみ控除することとなります。

4. 適用時期および単体納税法人への移行

  • グループ通算制度は2022年4月1日以後に開始する事業年度から適用されますが、経過措置により、グループ通算制度の施行前に連結納税制度を適用している連結法人は、所定の手続を行うことにより単体納税法人に戻ることが可能となりました。

5. 連結納税制度における特定連結欠損金

  • グループ通算制度の施行前から連結納税制度を適用している連結法人がグループ通算制度に移行する場合には、経過措置により、連結納税制度における特定連結欠損金個別帰属額はグループ通算制度における特定欠損金とみなされます。
  • また、連結欠損金(連結親法人の連結納税開始前の欠損金を含む)は、グループ通算制度において特定欠損金以外の欠損金として通算グループ内で控除可能となります。

6. 連結納税制度を導入済の企業グループの検討事項

  • 現在、連結納税制度を適用している企業グループは、グループ通算制度移行後における損益通算や欠損金の通算の効果、欠損金や資産の含み損などの持込み・控除制限および事務負担などの諸要素を考慮し、施行日前までにグループ通算制度へ移行するか単体納税制度に戻るかを検討することが重要です(図表2参照)。

図表2 連結納税制度を導入済企業グループのタイムラインと検討のポイント

図表2 連結納税制度を導入済企業グループのタイムラインと検討のポイント

7. 連結納税制度の導入を検討している企業グループの検討事項

  • 連結納税制度の導入を検討している企業グループは、グループ通算制度移行後における諸要素を考慮しつつ、以下のいずれを選択するか検討することが重要です。

    ①グループ通算制度の施行前に連結納税制度を選択・適用し、経過措置を利用してグループ通算制度に移行する
    ②グループ通算制度の施行後にグループ通算制度を選択・適用する
    ③単体納税制度を維持する

    たとえば、①を選択した場合は、グループ通算制度移行前の親法人の欠損金(連結欠損金)は、移行後において特定欠損金として取り扱われることはありません。通算グループで控除可能な欠損金として利用することができます(図表3参照)。

図表3 連結納税制度を導入を検討している企業グループのタイムラインと検討のポイント

図表3 連結納税制度を導入を検討している企業グループのタイムラインと検討のポイント
  • 特筆すべきケースとして、「親法人が欠損金を有する法人(持株会社など)で、当該親法人単体で欠損金を利用できないと見込まれる企業グループ」は、①を選択することにより、グループ通算制度移行前の親法人の欠損金(連結欠損金)を、通算グループで控除可能な欠損金として利用することができますので、大きな税制上メリットがあります。なお、連結納税制度の選択は連結納税を適用しようとする事業年度開始の日の3月前の日が届出書の提出期限となりますので、3月決算法人においては2020年12月31日までに十分な検討を行ったうえで、企業グループとしての意思決定を行う必要があることに御留意ください。

III. グループ通算制度への移行に伴う留意すべき実務上のポイント

税制改正法令は2020年4月1日より施行されており、現在グループ通算制度への移行期に突入しています。連結納税制度は2022年3月期をもって完全に廃止され、2022年4月1日開始事業年度からグループ通算制度に移行するため、連結税効果会計、会計システム、法人税申告対応を含め、企業グループごとに様々な疑問や問題が生じることが想定されます。
そのため、企業グループにおける留意すべき実務上のポイントは以下のとおりと考えます。

  1. グループ通算制度への移行に伴う会計・税務の対応
  2. 単体納税、連結納税およびグループ通算制度下における繰越欠損金の利用可否の検討
  3. 新規会計システム導入の検討
  4. 連結税効果計算、会計システム、連結決算、四半期決算の改訂に関するプロジェクトマネジメント
  5. 連結税効果計算、決算業務の高度化(高効率化、RPA活用)の検討
  6. 業務増加に伴う企業グループにおける電子化(電子帳簿保存法、スキャナ保存法対応、システム対応)の検討
  7. 業務増加に伴う企業グループ税務業務や税務申告業務のアウトソースの検討
  8. M&A案件、グループ組織再編成における会計・税務の影響についての検討
  9. グループ通算制度の適用開始時およびグループ組織再編に関する子会社株式のValuationの要否の検討

これまで日本の企業グループにおいては、税務関連業務は機密性が高く、企業ノウハウ蓄積の観点から、インハウスで対応する事例が多く存在しましたが、税制改正に拠って、企業における業務が著しく増加することにより、これまで以上に会計および税務専門家の関与が必要になると推察されます。

執筆者

KPMG税理士法人
パートナー 小出 一成

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