小売業のミッションを実現するスマートシティの構築とは
「小売りの明日」第11回 - 自動運転での物流やAI、IoTを活用した商品管理など、グーグルの「スマートシティ」開発計画がもたらす小売業の未来を考察する。
自動運転での物流やAI、IoTを活用した商品管理など、グーグルの「スマートシティ」開発計画がもたらす小売業の未来を考察する。
米グーグルが「街」を創る。2017年10月、カナダ最大の都市トロントで新たな都市計画が発表された。トロント南東部のウォーターフロントエリアを再開発し「スマートシティ」を構築するというものだ。グーグルが世界最高峰の技術と知見を集結させた「街」とはどのようなものなのか、世界が注目している。
再開発にあたってグーグルの親会社であるアルファベット傘下のサイドウォーク・ラボ(Sidewalk Labs)と組み、「サイドウォーク・トロント(Sidewalk Toronto)」として事業を進めている。順調に進めば2022年から第1弾の入居が始まる。
同社がスマートシティの構築において提案するポイントは、「組み立て式の店舗」「自動運転車」「ロボット・デリバリーシステム」「低コストのモジュラー式ビルディング」「再生可能エネルギーによる熱を建物同士で融通し合うサーマルグリッド」「ゴミ処理システム」、そして「可変式の道路」だ。これらが融合して街が柔軟に変化していくという。
例えば、朝は通勤に使われた道路が昼間は子供たちが遊ぶ公園に変化し、その周辺にあるお店もニーズに合わせて朝、昼、晩と姿を変えていく。住人にとっては同じ場所なのに、時間によって異なるお店やシーンを楽しむことができるのだ。
小売業にとっても革新的な要素が盛り込まれている。車はすべて自動運転で人工知能(AI)が目的地までの最短最適な移動経路を選択する。そして人を運ぶだけではなく商品を運ぶ物流の役割も担い、さらに車がお店やオフィスにも変化する。車を保有しないことで維持費を軽減し、家もお店もブロックやコンテナのようなパーツを組み合わせることで低コストかつ短工期での建設が可能となる。出店コストも最小限かつ可変式のため、ニーズに合わせて様々な展開を可能にする。
街全体がデータで管理されるので、どの時間に、どこで、どのような商品を出せば売れるのか、AIが瞬時に算出することももちろん想定の範囲内だろう。宅配してほしいものはロボットがすべてデリバリーし、不在の場合はAIやIoTを導入したスマートハウスとデータ連携し、セキュリティを確保しながら家に商品を入れておいてもらうことも可能になる。
サイドウォーク・ラボは、「生活の質を向上させる都市を再考する」という理念を掲げている。生活の質を向上させるという点では、小売業が担うミッションと違いはないのではないか。そういう意味においてもトロントのスマートシティ構想は今後最も注目していくべき話題の1つなのは間違いない。小売業は商品を売るのが意義ではなく、人々の人生を豊かにすることが広い意味でのミッションだ。それを実現する大きな可能性をグーグルのスマートシティは秘めている。
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日経MJ 2019年2月25日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。