組織再編に係るドイツ税制

ドイツにおける組織再編の手法、および各手法に係る税制を整理し、その基礎となる枠組み、最適な組織再編プランを税務の観点から解説を行います。

ドイツにおける組織再編の手法、および各手法に係る税制を整理し、その基礎となる枠組み、最適な組織再編プランを税務の観点から解説を行います。

多くの日系企業が欧州各地に進出している現在、欧州での事業および管理の強化と効率化、意思決定の質向上とスピードアップ、地域内での重複機能やコストの削減、コンプライアンスやガバナンス強化など、多面的な検討と対応を求められることがますます増えてきています。このような状況下では、企業グループ内の組織再編を行うことが、目的を達成するための1つの手段になり得ます。
組織再編を検討する際には、本稿の対象であるドイツ税務の観点以外にも、地域統括会社の設置要否、法人と支店の組織形態比較、シェアードサービスセンターの活用など、さまざまな要点があることを念頭に置く必要があります。
本稿は、ドイツにおける組織再編の手法、および各手法に係る税制を整理し、その基礎となる枠組みをご説明し、企業グループにとって最適な組織再編プランを税務の観点から考える際の参考にしていただくことを目的としています。
なお、今回は日系企業のドイツ拠点にとって一般的であるGmbH(ドイツ有限会社)形態に限定して、その組織再編の解説を行っている点をご理解ください。
また、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

ポイント

  • 組織再編とは、ある経済的組織が他の組織下で継続されることである。ドイツ民事法上、組織再編はドイツ組織再編法に基づくものとして、包括承継による受け渡しが可能となる。
  • ドイツ組織再編法に基づく組織再編では、消滅する会社側の清算等の事務手続を省略するなど、一度の法的手続で複数の過程を処理することができる。
  • ドイツ組織再編税法では、一定の条件下で、承継される事業資産に含まれる含み益への課税を繰り延べることを認めている。また、合併登記手続を8ヵ月以内に実施することで、税務上は合併有効日に遡及しての承継が可能となる。
  • 上記の両法律は、EU/EEA内の他国企業とのクロスボーダー組織再編にも適用可能である。ただし、ドイツ組織再編税法の遡及的効果に関して、クロスボーダー案件では相手国の規則との調整が必要になる。

EU:European Union/欧州連合、EEA:European Economic Area/欧州経済領域

I. 組織再編の基本的なパターン

組織再編にはさまざまなパターンが存在しますが、まずは組織再編法に基づく組織再編に関して解説を進めます(組織再編法第1条1項に掲げられている、合併、分割、資産譲渡、形態変更)。
組織再編法に基づく再編では、一般的手法で個別承継となる資産や負債の譲渡を包括承継で行うことができます。たとえば、負債引受を個別承継で行う場合はドイツ民法第414条以下に則り個別に債権者の合意を得なければなりませんが、包括承継の場合はその必要がありません。
また、組織再編法に基づく組織再編では、新たな持分の発行は生じますが、金銭の支払が生じる再編は対象としていません。

1. 合併(Verschmelzung)

組織再編法に基づく合併では、一方(被合併会社)の資産および負債を、包括承継によりもう一方(合併会社)へ譲渡します。被合併会社は会社を清算することなく解散します。合併会社が既存の事業体、または新設された事業体かどうかで、合併方式が下記の2つに分類されます。
また、ドイツ国内間のみならず、EU/EEA内の国の企業との合併も認められています。
 

(1)吸収合併(Verschmelzung nach Aufnahme)

吸収合併は既存の被合併会社と合併会社間で行われます。被合併会社の資産および負債は包括承継により合併会社に引き継がれ、被合併会社は清算期間を待たずに解散します。被合併会社の出資者は、新たに合併会社の持分を持分交換により入手します。

吸収合併(Verschmelzung nach Aufnahme)

(2)新設合併(Verschmelzung nach Neugrundung)

新設合併は、新設された会社を新設合併会社として、被合併会社の資産および負債を包括承継させる方法です。吸収合併と同様に、被合併会社は清算期間を待たずに解散します。被合併会社の出資者は新たに新設合併会社の持分を得ることになります。

新設合併(Verschmelzung nach Neugründung)

2. 分割(Spaltung)

分割とはある意味、合併の裏返しと言うことができます。合併では複数の会社を1つにまとめますが、分割では、1つの会社を切り分けていくことになります。組織再編法による分割には、大きく分けてこれから紹介する3つのパターンがあります。さらに分割された事業体が既存の会社に組み込まれるか(吸収分割)、または新会社として独立するか(新設分割)に細分することができます。


(1)消滅を伴う分割(Aufspaltung)

消滅を伴う分割では、既存の会社(分割会社)のすべての資産および負債は、複数(2社以上)の他の既存の会社(承継会社)、または新設される会社(設立会社)に部分的な包括承継が行われます。この場合、分割会社は清算期間を待たずに解散し、分割会社の出資者は、継承会社もしくは設立会社の持分を代わりに得ることとなります。

消滅を伴う分割(Aufspaltung)

(2)分割(Abspaltung)

分割では、分割会社は引き続き存続します。その分割される事業は他の既存の会社(承継会社)、または新設される会社(設立会社)に部分的な包括承継が行われます。

分割(Abspaltung)

(3)分社(Ausgliederung)

分社は、分割された事業体の持分を得るのが分割会社の出資者ではなく、分割会社自身であるという点が特徴的です。そのため、分割後には分割会社と継承会社は親子関係となります。

分社(Ausgliederung)

3.資産譲渡(Vermogensubertragung)

組織再編法で定められている資産譲渡とは、保険会社間または公営資本会社間でのみ行われる合併や分割を指します。そのため、本件の解説は省略します。

4. 形態変更(Formwechsel)

これまで述べてきた組織再編法での再編パターンと異なり、形態変更では資産譲渡は行われません。形態変更では会社の法形態の変更を行うのみで、出資関係の変更は認められていません。

II. 組織再編税法に基づく税務上の取扱い

組織再編税法とは、合併、分割、資産譲渡、形態変更などに伴う企業の再編を行う際の税務上の取扱いを定めた法律です。当法律下では収益税(所得税および法人税、営業税)上の取扱いを規定しており、さらに組織再編は売上税や不動産譲渡税などの個別税法にも影響を及ぼします。
現在の組織再編税法は、ドイツ国内の無制限納税義務者のみならず、EU/EEA各国との国境を越えた組織再編にも適用されます。

1. 組織再編法と組織再編税法の関係

組織再編法と組織再編税法は必ずしも同枠の組織再編を対象としていません。しかしながら、一般的に資本会社(GmbHなど)間で行われる合併や分割といった組織再編は、両法律に共通する部分に含まれます。

2. 資本会社間での合併における税務上の取扱い

税法上、合併では、原則的に移行される被合併会社の資産/負債は時価で評価されます(組織再編税法11条1項)。その場合、被合併会社の税務上の貸借対照表は時価にて作成されることになります。そのため、時価が帳簿価格を上回っている場合には、その差額分が被合併会社の合併譲渡益となり、法人税・営業税の課税対象となります。また、合併会社は被合併会社の資産/負債を当該時価で帳簿上引き受けることになります。
合併会社側では、被合併会社が行った評価方法に基づく税務上の価値で資産/負債を引き継ぎますが、そこから被合併会社への持分(簿価)、および合併費用を差し引いた金額が、税務上の合併利益/合併損失となります。
また、EU/EEA間での国境をまたぐ合併(Cross Border Merger)では、ドイツ国内法人にはドイツ法、他国の法人にはその居住国の法律が適用されます。


(1)税務上の評価方法の選択肢

組織再編税法では、被合併会社の資産/負債を、時価以外に下記の条件下で、簿価または簿価と時価の間の価値で評価することを税務署へ申請できます(組織再編税法11条2項、3項)。

  • 合併後も、合併会社が法人税課税の対象となっていること
  • 合併後に、合併会社へ引き継がれた被合併会社資産を売却した際の売却益に対する課税権がドイツに留まること
  • 合併の対価が持分であること、または対価がない場合(例、Upstream Mergerなど)

この場合、被合併会社は税務署へ申請する価値評価方法に基づく税務上の貸借対照表を作成することになります。簿価を上回る評価を行った場合(ただし時価まで)、時価評価の場合と同様に合併譲渡益が発生します。
また、クロスボーダーでの合併では、状況により時価以外での評価が可能か、確認が必要となります(特にドイツでの課税権を満たしているどうか)。


(2)税務上、引き継げない項目

組織再編税法12条3項、同4条2項2文では、合併会社が引き継ぐことのできない項目を列挙しています。

  • 繰越欠損金
  • 相殺可能な欠損金
  • 被合併会社で相殺できなかったマイナス所得
  • 利息控除制限制度に基づく繰越可能なネット利息
  • 利息控除制限制度に基づく繰越可能なEBITDA

実務上は、上記のように引き継げない欠損金を少しでも有効活用するために、合併の際の被合併会社の資産を時価または簿価と時価の間の価格で評価し、本来課税対象となる含み益を欠損金と相殺させることで、消滅する前に欠損金を利用することがあります。
また、合併会社側に欠損金がある場合、合併により新たに発行される持分の比率により、法人税法上の欠損金利用制限の対象となる可能性があるので、注意が必要です。
グループ会社間の再編では、欠損金利用制限に含まれる適用除外項目に該当するかどうか、事前の確認が重要になります。


(3)税務上の遡及的合併効果

組織再編税法では、税務上の課税所得の算定や被合併会社から合併会社に引き継がれる資産評価は、税務上の資産/負債譲渡日(Steuerliche Ubertragungsstichtag)に行われたとみなします。これは、組織再編法上の合併有効日(Verschmelzungsstichtag)の前日時点での税務貸借対照表が基準となります。
同様に、商法上も合併有効日の前日時点での財務諸表作成が必要になります。合併登記届提出は、商法上の決算日から8ヵ月以内に行われる必要があります。

 

税務上の遡及的合併期間

上記の図を例にとると、合併有効日が2020年1月1日のため、商法上も税務上も、被合併会社は合併のためにその前日である2019年12月31日時点での合併前最終財務諸表を準備する必要があります。また、合併登記届提出が8ヵ月以内に行われているため、税務上は遡及して2019年12月31日時点での資産/債務の評価方法に基づいた税務上の財務諸表が有効となり、合併会社に引き継がれたとみなします(2020年1月1日に日付が変わる時点)。つまり、登記完了日ではなく、商法上の合併有効日から合併会社側での会計・税務処理が開始されたとみなされます。
被合併会社の税務年度(商法上の会計年度)が暦年であれば、時価で評価を行った場合の合併譲渡益は、2019年度の税務申告の対象となります。
クロスボーダーでの合併の場合は、相手国の税務上の遡及規定にも注意する必要があります。ドイツでは8ヵ月の遡及期間を設けていますが、遡及期間が一致しない場合は、両国間での資産/負債引渡日に不一致が生じ、どちらの国でも把握されない期間が生じる可能性があります。このような場合は、遡及期間が短い方へ合わせるなどの特別処置がとられます。

3. 資本会社間での分割における税務上の取扱い

分割では、既に合併で説明してきた規則がそのまま適用される場合が多くあります。
組織再編法で分割が認められているのは、ドイツ国内に所在地を有する資本会社となります。さらに、分割会社だけでなく継承会社もドイツ国内に限定されます。したがってクロスボーダーでの分割は組織再編法を適用できません(EUの基本概念に違反しているとの意見もあります)。
それに対し、組織再編税法上は既に改正が加えられており、問題なくクロスボーダーでの分割を行うことができます。


(1)消滅を伴う分割(Aufspaltung)と分割(Abspaltung)の税法上の取扱い

両分割パターンは税法上、基本的に合併で説明した規則が適用されるため、税務上の遡及的効果も同様に適用されます。また、合併でも説明してきた移行される資産/負債の評価方法に関して、時価以外に、簿価または簿価と時価の間の価値での評価を下記の条件を前提に認めています。

  • 分割される資産/負債が事業単位(Teilbetrieb)として独立したものであること、さらに分割(Abspaltung)の場合は、分割会社に留まる事業も独立した事業単位であること(実態のある事業単位)
  • 独立事業単位には、人的会社への出資や資本会社への100%の出資なども該当する(実体のない事業単位)。ただし、不正使用防止の規制もあるので注意が必要

また、分割のための税務上の決算日に独立事業単位が既に存在している必要があります。
一度の分割において複数の独立事業単位が承継される場合は、各独立事業単位ごとに資産/負債の評価方法を選択することができます。ただし、それぞれの独立事業単位内の資産/負債の評価方法は統一されていなければなりません。仮に複数の独立事業単位が1つの継承会社に分割され、その中の1つの独立事業単位のみが簿価での評価条件を満たせない場合、その1つの独立事業単位のみが時価で評価されることになります。
条件を満たせない場合は、時価で分割が行われることになり、資産上の含み益は分割会社にて分割譲渡益となり、法人税・営業税の課税対象となります。ただし、独立事業単位に留まる資産/負債は、引き続き簿価にて評価されます。
また、税務上の欠損金や利息控除制限に関して、分割の場合も継承会社は引き継ぐことができません。そのため消滅を伴う分割(Aufspaltung)では、すべての欠損金を分割会社は失うことになります。
分割(Abspaltung)の場合は、継承会社に割り当てられる欠損金部分が消滅します。
グループ会社間の再編では、合併の場合と同様に、欠損金利用制限に含まれる適用除外項目に該当するかどうか、事前の確認が重要になります。


(2)分社(Ausgliederung)の税法上の取扱い

税務上、分社(Ausgliederung)は分割とは別のものとして判断されます。
基本的な税務上の取扱いは、今まで見てきた分割と同じですが、分社の場合、簿価で独立事業単位(Teilbetrieb)を分割する場合、下記の条件を満たしている必要があります。

  • 分割される独立事業単位の価値がマイナスでないこと
  • 引き続き、ドイツ国内での課税が制限されていないこと

また、分割会社が受け取る継承会社の持分に対し、7年間の売却規制が生じます。

執筆者

KPMGドイツ
フランクフルト事務所
シニアマネジャー 神山 健一

デュッセルドルフ事務所
シニアマネジャー 岡本 悠甫

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