確かなESGデータをリアルタイムで得るために

確かなESGデータをリアルタイムで得るために

現在、投資や製品開発の決定においてESG基準を組み込むことが強く求められています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ショックを経験し、そのデータを実質的に検証することの必要性が生じています。銀行、保険、そしてアセットマネジメントなどの業界が、検証可能なESGデータをより効果的に収集、共有する方法を模索しているのは言うまでもありません。

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ティム デンリ

KPMG Ignition Tokyo 代表取締役共同会長 / KPMGグローバル CTO

KPMG in Japan

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Frontiers in Financeでも検証した通り、形態、規模の大小に関わらず、金融サービス各社は、幅広いESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)データを意思決定に取り込む方法を模索しています。また、一部の企業は、経営およびレポートのために、より広範な二酸化炭素排出量を正しく測定しようとしています。その他の企業では、新たに洗練されたESGベースの製品を開発しており、今後の成長源とすることを目指しています。

一般的にESGデータは、一貫性がなく、検証が不十分で標準化されていないのが問題だとされています。現在のところ、ESGデータに関する国際的な会計基準はなく、依然として検証と監査の取り組みには一貫性がなく、ESG指標に沿った報告をする小規模事業者はほとんどありません。

コロナ危機はESGデータの収集・共有におけるさらなる弱点を浮き彫りにしました。海外渡航の制限や職場の封鎖で、従来の検証と監査プロセスは崩壊しました。賢明な投資をするために検証可能なデータをタイミング良く得ることはますます難しくなりました。

当然のことながら、銀行業界、保険業界、アセットマネジメントなどの各業界のリーダー的企業は、現在、ESGを今後の復興に存分に利用するための、正確かつ高品質で時宜を得たデータがない可能性があることを懸念しています。

データの開放

バリューチェーンの中にいるすべての人々、言い換えると「経済コミュニティ」がサプライヤーと取引先企業に関する検証済みのESGデータをリアルタイムで見ることができたら、「ニューリアリティー」はどのような姿になるでしょうか。膨大な数の新たなバリュープロポジションと製品開発の機会が即座に広がる世界が実現すると考えられます。

例えば、銀行は一定の持続可能性や環境基準に準拠するアセットプロデューサーに対して、融資を行う商品を作り出すことが可能となります。また、アセットマネジメント会社は、インパクト投資における実際の二酸化炭素排出量に関するリアルタイムのデータを提供することができます。そして保険会社は、一定の認証や基準に準拠した顧客に保険料割引を提供することが可能となります。

有効な基準およびシステムの構築

これを実現するためには、克服しなければならない2つの大きな課題があります。1つ目は、ESGのリスクと影響を測定するために、関係者が世界中で共通して使用できる、ESG測定基準および認証について、国際的な基準制定機関と政府を合意させることです。この分野においては調整が始まったばかりであり、ポストCOVID-19クライシスの世界に照準を合わせるには時間がかかることが想定されます。私たちのより詳しい見解は、Toward consistent and comparable ESG reportingよりご覧いただけます。

2つ目の課題は、それぞれの「経済コミュニティ」のすべての関係者の間で、データをリアルタイムに共有する方法を見つけることです。最近では注目を集める新たなソリューションが出始めています。その中でも、DLT(Distributed Ledger Technology:デジタル台帳技術)は最も有望なソリューションだと見られています。

デジタル台帳の再生

皆さんは、ブロックチェーン技術の文脈でDLTをご存知かもしれません。ビットコインのような仮想通貨に人々の関心が高まり、ブロックチェーンは新たなゴールドラッシュを起こすものとして注目を集めました。しかし、仮想通貨バブルが少しずつ冷え込むのに伴い、ブロックチェーンへの期待も薄れていきました。

しかし、過去10年間にわたり、ブロックチェーンおよび他のDLTはそれだけでは終わらないということを証明してきました。不変かつリアルタイムで分散され、そして検証可能なトークン化された資産の共有データベースの作成という基本的な概念は変わりません。ますます多くの企業が、DLTがより複雑なデータの課題を解決するのに役立つことに気付いたのです。

すでに進む導入

この点において、金融サービス企業は遅れていません。すでに多くの銀行、保険会社、アセットマネジメント会社が、DLTまたはブロックチェーンソリューションを経営モデルに組み込んでいます。しかし、ほとんどの場合、こうした投資および導入は主に社内向けのものであり、企業のより複雑なビジネスプロセスのデータ共有を改善することを目的にしています(例えば、ブロックチェーンを利用して、グローバル事業部門の支店間の為替取引の時間短縮を図っている企業が挙げられます)。

イノベーションで社の評判を上げようと画策する企業は、さらに大きな動きに出ています。例えば、JPモルガンはユースケースを模索し、新しいソリューションを導入するためにブロックチェーン・センター・オブ・エクセレンスを作りました※1。HSBCは、今年中に200億米ドルを上回る資産をブロックチェーンベースの管理プラットフォームに投資すると発表しました※2

次の段階では、各業界のリーダー的企業がこれらの機能を利用して、ビジネスの立ち上げ、取引先企業の検証可能なESGデータ資産を評価、監視することが可能となるでしょう。

※1J.P. Morgan Blockchain Center of Excellence
※2HSBC swaps paper records for blockchain to track $20 billion worth of assets

それぞれの事例への適合

DLTとブロックチェーンの利点は、ESG基準に関するイノベーションを開放するために、銀行、保険会社およびアセットマネジメント会社が必要としている、デジタル化され、更に検証済みのトークン化されたデータ共有プラットフォームを有効にする幅広い新しい技術と組み合わせることができるところです。

しかし、単に数あるすぐに入手可能な最新のブロックチェーンソリューションを購入すればいいわけではありません。実際に、経済コミュニティのDLTとブロックチェーンを作り出すために数多くの企業と協力した私たちの経験から、確実に有効なユースケースとなる上では、重要なカスタマイズおよび戦略的思考が必要であることが言えます。

トークン化され、カーボンオフセットとして取引されているボルネオの熱帯雨林にESGデータのDLTを構築する取り組みは、例えば、メキシコの開発現場が環境規制に従っていることを確認するために構築されたものとは全く異なります。現地の規制、言語の違いおよび機能を考慮したソリューションとするためには、何らかの調整が必要です。

新たな機会

幸い、KPMGメンバーファームを含む多くの企業が、金融サービス企業が新たな分野に進出するために必要なESGデータ共有プラットフォームを迅速かつ容易に構築できうるように、ローカライズされた多様なユースケースの開発に取り組んでいます。

新型コロナウイルスによる、健康被害と経済状況に直面し、銀行、保険会社、アセットマネジメント会社、そして忘れてはならない監督機関が今あるESGデータのギャップを克服するために、DLTとブロックチェーン対応のプラットフォームの活用法を探り、さらにやるべきことがあると強く信じています。

私たちは、企業が「できる術」を探り続けることを願っています。同時に、成長するESG市場においてある程度の信頼と一貫性を生み出すために、これらの技術をどのように活用できるかを見極めるため、国際的な基準設定機関と政府が協力するよう働きかけていきます。

DLTを利用してESGデータを管理するために知っておくべき5つのこと

  1. DLTは信頼を生み出す
    サプライチェーンのすべての人が、取引先企業の検証済みのESGデータをリアルタイムで確認できるようになります。
  2. 動機を理解する
    信頼の構築は、全ての関係者が協力するための動機の理解に大きく左右されます。
  3. ユースケースに焦点を当てる
    どんなソリューションでも、最初にテクノロジーが解決できる課題および信頼がどこにあるかを考慮することが必要です。
  4. カスタマイズする準備をする
    時間をかけてその土地特有の、例えば言語のような、ニュアンスと規制要件を理解し、組み込んでください。
  5. 付加価値のあるアプリケーションを検討する
    DLTは、ESG製品およびサービス開発においてイノベーションを切り拓くものと考えます。

本資料は、2020年5月26日にKPMGインターナショナルが発表した「Creating trust in ESG data in real-time」を日本語に翻訳したものです。本資料のその内容および解釈は英語の原文を優先します。

執筆者

KPMGオーストラリア Laszlo Peter
KPMG香港 James O’Callaghan
KPMGジャパン Tim Denley (KPMG Ignition Tokyo チーフ・ソリューションズ・オフィサー)

※記事中の所属・役職などは、記事公開当時のものです。

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