eスポーツが教育に果たす役割 - エンジニア育成等の観点からの考察

STEM教育やビジネス講座の開設など米国のeスポーツ教育を紹介し、日本のプログラミング教育の現況や今後の可能性について考察する。

STEM教育やビジネス講座の開設など米国のeスポーツ教育を紹介し、日本のプログラミング教育の現況や今後の可能性について考察する。

世界でeスポーツを教育現場に導入する動きが活発になっている。最も進んでいる米国では、約500の大学がeスポーツ奨励プログラムを提供している。リアルスポーツと同様、奨学金制度が確立されており、中には大学内にeスポーツ専用の練習施設やアリーナを併設した学校もある。この動きは高校にも広がっており、優秀なeスポーツプレーヤーは学業支援目的の奨学金を獲得できる。
その背景として、eスポーツは理数系の能力を多角的に鍛えるSTEM(科学・技術・工学・数学)教育と強い関係があり、エンジニア育成につながると、多くの教育機関が考えていることが挙げられる。実際、STEM学科を専攻している大学生の割合を見ると、人気対戦ゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」のトップ大学生プレーヤーは60%を超えており、全米平均の36%に比べてかなり高い。
さらに一部の米大学ではeスポーツビジネスについて教え始めている。その1つがエマーソン大学(ボストン)で、eスポーツビジネスの人材を育成する講座を設けている。チームのマーケティング計画の作成、イベントを想定した動画配信の実践などを通じて各事業者の役割を学んでいる。

日本では専門学校がプロプレーヤー養成を目的とした教育を始めているものの、米国のように奨励プログラムを提供する高校や大学はまだない。ただ、高校でeスポーツ部の設立が相次いでおり、課外活動ではあるが、教育に取り入れる試みが始まっている。
小学生向けにeスポーツ教室を提供する会社も登場している。eSPアカデミー(東京・渋谷)では、仮想世界でブロックを積み重ねる箱庭のようなゲーム「マインクラフト」を活用。生徒たちに「城を作る」などの目標を設定させ、それを達成するには何が必要かを考えながらプレーすることで、考える力などを養っているという。マインクラフトは家庭用ゲーム機でもプレーできるが、同教室ではあえてパソコンを利用しており、パソコンへの抵抗感を減らすことも狙いの1つとしている。

2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化されるが、日本の若者を取り巻くIT(情報技術)環境はお寒い状況だ。経済協力開発機構(OECD)の国際学力調査「PISA2018」によると日本の15歳の自宅でのノート型パソコン利用率は35%で、米国の73%など先進国だけでなく、タイの45%や韓国の63%などアジア各国と比べてもかなり低い。デスクトップ型も同様だ。日本の10代の若者はスマートフォンを使用するものの、パソコンはそんなに身近ではないと言えるだろう。
eスポーツが教育に果たす役割については様々な声があるが、少なくともパソコンへの興味を喚起する方法としては有効だろう。eスポーツを教育の場でどのように活用するか具体的に考える時期に来ているといえる。

eスポーツのトップ大学生プレーヤーの専攻学科

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日経産業新聞 2020年2月28日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング株式会社
マネジャー 岩田 理史

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