新型コロナウイルス感染症問題の難関を克服する中国の支援政策

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題の防止・抑制期間における税金にかかわる一連の租税優遇および費用減免政策、個人所得税および社会保険関連の政策について解説します。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題の防止・抑制期間における税金にかかわる一連の租税優遇および費用減免政策、個人所得税および社会保険関連の政策について解説します。

2020年年初、新型コロナウイルスへの感染が中国全土で急速に拡大して以来、中国の社会全体は一丸となって協力し合い、この感染問題と戦ってきました※1。感染の予防・抑制および企業の出勤再開への利便性を図り、新型コロナウイルス感染症の拡大による悪影響をできる限り軽減することを目指し、中国各レベルの政府機関は、中央政府の一貫したリーダーシップの下、1月末から2月初旬、この特殊な時期に対応する一連の特別政策を打ち出しました。

本稿では、新型コロナウイルス感染症問題の防止・抑制期間における税金にかかわる一連の租税優遇および費用減免政策、人にかかわる個人所得税および社会保険関連の政策について解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

※1“感染”の表記は新型コロナウイルスへの感染を指す

ポイント

  • 新型コロナウイルス感染症問題の防止・抑制期間において、企業は税務申告作業などの延期に対応すると同時に、財政・税務措置、税金(社会保険)の納付延期・減免政策などを包括的に把握し、優遇政策の申請、納付延期申請や還付申請の要否を検討する必要がある。
  • 一連の優遇政策では感染防止・抑制に関連する経済活動に対し、免税措置を適用することができるとしている。企業は優遇政策を適用できる経済活動の範囲および既存の優遇政策との違いを正確に理解し、優遇を最大限に適用するために証明となる資料を準備する必要がある。
  • 個人に関しては、個人所得税の観点から非課税項目および控除項目が規定され、社会保険の観点からは社会保険料の納付猶予、社会保険費用の減免などが優遇政策として公布された。企業は現地政府と人的資源および社会保障部門などが公布する関連規定および実施細則を積極的に把握し、優遇政策を享受する。

I.背景

中国政府は、新型コロナウイルス感染症の防止・抑制業務をより一層強化するとともに、企業の発展を支援するために、2月初旬、財務部、国家税務総局および国家発展改革委員会より以下の4つの公告を公布しました。2020年1月1日から感染防止・抑制に係る租税優遇および費用減免政策の実施を明らかにしました。

  • 財政部公告2020年8号(以下「8号公告」という):「新型コロナウイルス感染症の防止・抑制へのサポートに係る課税政策に関する公告」
  • 財政部公告2020年9号、(以下「9号公告」という):「新型コロナウイルス感染症の防止・抑制へのサポートに係る寄付金の課税政策に関する公告」
  • 財政部公告2020年10号、(以下「10号公告」という):「新型コロナウイルス感染症の防止・抑制へのサポートに係る個人所得税政策に関する公告」
  • 財政部公告2020年11号、(以下「11号公告」という):「新型コロナウイルス感染症の防止・抑制期間における一部の行政事業性費用および政府性基金の免除に関する公告」

また、2020年1月30日付けで「新型コロナウイルス感染症問題の防止・抑制期間における社会保険取扱業務の着実な実施に関する人的資源社会保障部弁公庁の通達」(人社庁明電[2020]7号、以下「人社7号」という)を公布し、各地が国民生活と密接にかかわる社会保険取扱業務を着実に実施するよう要請しました。中国各地の省・市政府と人的資源および社会保障庁(局)も当該政策に応じて、権益の確保および感染問題の防止・抑制を社会保険業務の最重要課題として据えました。
さらに、国務院常務委員会は2月18日の会議で、感染問題による企業への影響を軽減するために企業の社会保険費用を段階的に減免することを決定しました。
新型コロナウイルス感染症問題の難関を克服するため、上記の数々の優遇政策は、多くの企業や納税者にとっては朗報だと言えます。以下のセクションで優遇政策の具体的な内容を紹介させていただきます。

II.税金にかかわる優遇政策

1.企業にかかわる優遇政策のまとめ

(1)感染防止・抑制に重要な保障物資の生産、輸送

1.感染防止・抑制に重要な保障物資の生産

企業が生産能力拡大のために新規購入した関連設備に対して、当期の原価費用に一括計上して損金算入することを認める。

企業が月ごとに主管税務機関に2019年12月月末より増加した増値税増加留保税額の全額還付を申請することができる。

感染防止・抑制に重要な保障物資生産企業リストは、省レベル以上の発展改革委員会および工業情報化部が決定する。

2.感染防止・抑制に重要な保障物資の輸送

納税者が取得した関連収益に関する増値税を免除する。

感染防止・抑制に重要な保障物資の詳細な範囲は、国家発展改革委員会、工業情報化部が決定する。

(2)企業生産・運営の再開

1.感染問題に起因し重大な影響を受ける「苦難業界」

苦難業界企業が2020年度に発生した欠損に対して、欠損補填の最大年数を5年から8年に延長する。

苦難業界企業は、交通運輸、飲食、宿泊、旅行(旅行会社、観光地管理者を指す)の4分野である。

苦難業界企業の2020年度の主要業務収益は、収益総額(非課税の収益と投資による収益を除く)の50%以上でなければならない。

2.公共交通・運輸サービス、生活サービスおよび住民に生活必需品を提供するための集荷・配達サービス

納税者が取得した関連収益に関する増値税を免除する。

公共交通・運輸サービス、生活サービスおよび集荷・配達サービスの詳細な範囲は財税〔2016〕36号※2に準じる。

(3)感染防止物資の寄付

1.公益性社会組織または県レベル以上の人民政府およびその部署などの国家機関を通じた寄付

企業および個人が寄付する現金や物品に対して、課税所得を計算する際に全額控除を認める。

2.感染の防止治療の役割を果たす病院への直接寄贈

企業および個人が寄贈する物品に対して、課税所得を計算する際に全額控除を認める。寄贈者は感染の防止治療の役割を果たす病院が発行する寄贈受領書をもって控除を行うことができる。

3.内製、委託加工または購入した貨物の寄付

企業および個人事業主が無償で自製、委託加工または購入した貨物を寄付した場合、増値税、消費税、都市維持建設税、教育費付加、地方教育費付加を免除する。

(4)感染防止用の医療機器および医薬品に関する登録費用

1.医療機器製品および医薬品の登録手数料の免除

医療機器の緊急審査手続過程に入る防止・抑制製品に対して、医療機器製品の登録手数料を免除する。

医薬品の特別審査手続過程に入る治療・予防に関する医薬品に対して、医薬品の登録手数料を免除する。

(5)航空会社の運営

航空会社が納付する民間航空発展基金を免除する。

※2財税2016年36号 「国家税務総局の増値税改革の全面展開に関する通知」、不動産業および建設業、金融業、生活サービス業などに対して全面的に増値税改革を実施することが規定されている

2.個人にかかわる優遇政策のまとめ

感染防止治療、防止・抑制に係る補助金、奨励金または現物の支給に関して以下の優遇政策が適用されます。

  1. 感染防止治療業務に関与した医療従事者および感染防止業務担当者は、各レベル政府部門が規定した基準に基づき取得した一時的な業務補助金および奨励金に対する個人所得税が免除される。
  2. 感染防止・抑制に関与した人員は、省レベルおよび省レベル以上の人民政府が規定した一時的な業務補助金および奨励金に対する個人所得税は免除される。
  3. 企業から個人へのウイルス感染予防用の医薬品、医療用品および防護用品が支給される場合、企業が個人に支給する現物(現金を含まない)については、個人の賃金・給与所得に含めず、個人所得税が免除される。

III.社会保険にかかわる優遇政策

1.社会保険にかかわる優遇政策のまとめ

社会保険関連政策は、感染問題の防止・抑制業務において社会的に注目される社会保険業務にかかわる措置、特に社会保険料の納付猶予、企業の社会保険費用の減免などを明確にしました。多くの地方政府または人的資源および社会保障関係部門も関連政策を公布し、企業の負担軽減を図りました。人社7号は、国家の政策として積極的な指導の役割を果たし、感染問題収束後3ヵ月以内に社会保険料を納付することができるとし、保険加入者の個人の権益に影響を与えないことを明確にしました。また、2月18日の国務院常務委員会の会議では、養老保険、失業保険、労災保険の企業納付分を段階的に減免することを下記のとおりに決定しました。

湖北省に対して:

  • 2~6月の期間においてすべての社会保険加入企業の納付分を免除する

湖北省以外の地域に対して:

  • 2~6月の期間において中小零細企業の納付分を免除する
  • 2~4月の期間において大企業の納付分を半免する
     

2.各地の支援政策

多くの地方政府も各地の状況に応じて現地企業に適した支援政策を公布しました。以下にて主な地方支援政策の一部をご紹介します。

地方支援政策
(1)社会保険基数調整の延期
(2)社会保険納付比率の調整
(3)社会保険料納付猶予期間の延長
(4)社会保険料の還付

 

(1)社会保険基数調整の延期

一部の省市は社会保険基数の調整を延期するか、または直接2020年の社会保険納付基数を調整しました。これらの措置は企業の社会保険納付コストの引き下げに直結します。具体的には下記のとおりです。

省/市 社会保険基数調整
上海市 2019年の従業員社会保険納付年度を2020年4月1日から2020年7月1日に順延する
四川省
2020年四川省の企業従業員基本養老保険納付基数の下限を調整しない

 

(2)社会保険納付比率の調整

社会保険納付比率の引き下げは企業の雇用コストを直接低減できる措置です。国務院常務委員会の会議で段階的な減免政策が確定されることに先立ち、一部の地方政府は既に関連規定を公布しました。具体的には下記のとおりです。

省/市 社会保険納付比率の調整
上海市 2020年の従業員医療保険料の企業納付比率を一時的に0.5%引き下げる
広州市
・2021年4月30日までの労災保険料の納付比率を50%引き下げる
・2020年の失業保険の変動比率を調整する。元の納付係数が0.6である場合、0.4にまで引き下げ、元の納付係数が0.8である場合、0.6にまで引き下げる
四川省
・労災保険基金累計残高の納付可能月数が18ヵ月(18ヵ月を含む)~23ヵ月の統括地域および納付可能月数が24ヵ月(24ヵ月を含む)以上の統括地域に対し、2018年の比率の段階的な引き下げを実施する。以前の実行比率に基づきそれぞれ20%、50%引き下げる。労災保険変動比率の政策に従い引き上げる予定の企業に対する調整を先送りする
・失業保険の納付比率を1%の基準で実施する。納付比率の引き下げ政策は2020年4月30日まで施行される
・養老保険の納付比率を19%から制度的に16%に引き下げる


(3)社会保険料納付猶予期間の延長

感染問題による影響を受け、生産経営が困難に陥ったため、社会保険料を納付できない企業を対象に、最大6ヵ月の猶予期間延長を承認し、かつ猶予期間における滞納金を免除します。また、感染問題による影響を受け、連続して3ヵ月以上従業員に最低賃金を支払えない企業、あるいは3ヵ月以上正常な生産経営をできずに、従業員に生活費のみを支給する企業は、社会保険料納付猶予に関する規定に基づき、1年以下の納付猶予期間を申請することができます。当該社会保険料納付猶予期間の延長が適用される省・市は以下のとおりです。

納付猶予期間 適用省市
最大6ヵ月まで 南京市、蘇州市、厦門市、成都市、青島市
最大1年まで 青島市(通常、医療保険納付の延長期間は6ヵ月を上回ってはならない)

 

(4)社会保険料納の還付

深セン市、湖南省長沙市、陝西省西安市など多くの市では失業保険料還付条件の緩和に関する政策を公布し、より多くの企業が失業保険料の還付を享受し、企業の負担を軽減します。浙江省各地では感染問題による影響を受けた社会保険加入企業を対象に、企業の被害状況に応じて1~3ヵ月間の社会保険料を還付します。

IV.企業の留意点

感染防止・抑制に重要な保障物資の生産企業に対する増加留保税額の還付政策は、財政部、税務総局、税関総署公告2019年39号(以下「39号公告」という)※3に比べて、企業の増加留保税額の6ヵ月間連続プラス、かつ6ヵ月目の増加留保税額が50万人民元以上、60%の増加留保税額の還付可能などを求めていません。また、感染防止・抑制に重要な保障物資を生産する企業は、各月ごとに増値税増加留保税額の全額還付を申請することができるとしています。つきましては、企業は、近日基本生産資材の大量購入で生じた仕入税額を、8号公告の規定に基づき、増加留保税額の適時還付を申請することができ、キャッシュフローを改善することができると言えます。企業は8号公告の政策内容は以前に公布された留保税額還付政策(39号公告)と異なるポイントに留意し、実務上いかに従来の留保税額還付政策と整合性を保つかが、企業と税務機関が共に考慮すべき留意点となります。また、企業が感染防止・抑制に重要な保障物資を輸送することで取得した収益に対して増値税を免除することを規定していますが、免税政策は感染防止・抑制に重要な保障物資の輸送による収益のみに適用されるため、企業は輸送した物資が中国政府が規定した感染防止・抑制に重要な保障物資であり、かつ取得した収益は上述の物資に関連していることを証明できるよう資料を保存することをおすすめします。
企業が個人に支給する新型コロナウイルス感染予防用の医薬品、医療用品および防護用品などの現物は、賃金・給与所得に計上せずに、個人所得税を免除することを明確化しています。しかし、企業所得税の観点から、防護用品を労働保護用品とみなして、関連原価費用の全額損金算入を行うか、あるいは従業員福利費として、賃金給与総額の14%まで損金算入を行うかは明確化されていません。また関連して、増値税仕入税額の処理においても、防護用品を労働保護用品として仕入れて、仕入税額控除を行うか、あるいは個人・集団消費として仕入税額のコストへの振替を行うかについて実務上どうすべきか地域税務局と確認されることおすすめします。
企業として、新型コロナウイルス感染症問題の防止・抑制期間における数々の優遇政策に対する理解を深め、優遇政策を最大限に享受し、経済ダメージの軽減を図ることをおすすめいたします。

※3財政部、税務総局、税関総署公告2019年第39号「増値税改革の深化にかかる関連政策に関する公告」、増値税期末留保税額還付を申請可能な条件を規定している

執筆者

KPMG中国 上海事務所
税務部
パートナー 平澤 尚子

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