IFRS適用企業に対するCOVID-19の影響 - 借手は負債の条件変更を検討しているか?

IFRS適用企業における、COVID-19が負債の条件変更に及ぼす影響の解説記事です。

IFRS適用企業における、COVID-19が負債の条件変更に及ぼす影響の解説記事です。

論点は何か?

COVID-19の感染拡大による経済の混乱は、多くの借手に財政的負担を与えています。そのため、借手は、財務制限条項の緩和の要求、利息や元本の返済期限の猶予、または金利引き下げ等、現在の借入条件に対する譲歩を貸手に求めるかもしれません。政府もまた、銀行が特定のタイプの顧客に譲歩を提供することを奨励するかもしれません。借入条件が再交渉された場合、借手はこれらの取り決めを慎重に分析して適切な会計処理を決定する必要があります。

借手が負債の条件に関する譲歩を受けた場合は、会計処理が変更される可能性があります。

詳細説明

条件変更

金融負債の契約条件が大幅に変更されている場合は、当初の金融負債の消滅と新しい金融負債の認識として会計処理されます。新しい金融負債は公正価値で認識され、譲渡された現金以外の対価を含む、消滅した負債の帳簿価額との差額は、損益として認識されます。発生した費用や手数料も通常、損益に含まれます。
[IFRS 9.3.3.2–3.3.3, 5.1.1, B3.3.6]

金融負債の条件が大幅に変更されていない場合、負債の償却原価は、見積将来キャッシュフローを当該金融商品の当初の実効金利で割り引いた現在価値に再計算されます。その結果生じる利得と損失は損益に認識されます。発生した費用または手数料は、条件変更された金融負債の帳簿価額の修正として認識され、当該負債の残存期間にわたって償却されます。変動利付金融負債の実効金利は、市場金利の変動を反映したキャッシュフローに定期的に見直されることにより改定されます。
[IFRS 9.B3.3.6, B5.4.6, Insights into IFRS第16版 7.7.350]

条件が大幅に変更されたか否かを判断するために、借手は定量的評価(例えば、10%テスト※1)を実施します。新たな条件によるキャッシュフローの現在価値と、当初の金融負債の残りのキャッシュフローの現在価値との差が10%未満の場合、借手は、定量的評価では捕捉できなかった契約条件の実質の大幅な変更を特定するために、定性的評価を実施する必要があります。この定性的評価を行うためには、事実と状況に基づき、高度な判断が必要となる場合があります。
[IFRS 9.B3.3.6, Insights into IFRS第16版 7.6.420.10–20]

※1:新しい条件の下でのキャッシュフローの正味現在価値(受取手数料を控除し、支払手数料を含んだ金額を、当初の実効金利で割り引く)が条件変更前の残りのキャッシュフローの現在価値と比べて少なくとも10%異なる場合、条件が「大幅に変更された」とみなされる。

資本性金融商品による負債の消滅

COVID-19による流動性への影響により、借手は、自身の資本性金融商品を利用して負債を決済する(たとえば、デッド・エクイティ・スワップを行う)可能性があります。デッド・エクイティ・スワップにおいて金融負債の全部または一部を消滅させるために資本性金融商品を貸手に対して発行する場合、当該資本性金融商品は支払対価となります。
[IFRIC 19.5]

支払対価である資本性金融商品は公正価値で測定されます。公正価値が信頼性をもって測定できない場合には、資本性金融商品は、消滅した金融負債の公正価値を反映するように測定しなければなりません。要求払いの要素を含む消滅した金融負債の公正価値を測定する際には、IFRS 第13号の第47項※2は適用されません。
[IFRIC 19.6–7]

金融負債の帳簿価額と資本性金融商品の公正価値との差額は、損益として認識されます。
[IFRIC 19.9]

資本性金融商品の発行により、金融負債の一部だけが消滅する場合には、借手は、支払対価の一部が残存する負債の条件変更に関連するものかどうかを判定しなければなりません。支払対価の一部が負債の残存部分の条件変更に関連している場合には、支払対価を、消滅した負債の部分と残存する負債の部分とに配分します。残存する負債の部分に配分された支払対価は条件が大幅に変更されたかどうかの評価において考慮されます。この配分を行う際には、取引に関するすべての関連性のある事実及び状況を考慮する必要があります。
[IFRIC 19.8, 10, Insights into IFRS第16版 7.6.450.40–50]

※2 要求払いの要素を含んだ金融負債(例えば、要求払預金)の公正価値は、要求払金額を支払が求められる可能性のある最初の日付から割り引いた金額を下回らない。
 

政府からの支援

政府援助をどのように会計処理すべきかについての詳細なガイダンスについては、以下の関連する解説記事を参照してください。

経営者が今すべきこと

経営者は以下の点を検討する必要があります。

  • 金融負債の契約条件に変更があるかどうか。変更がある場合には、それらの変更が大幅なものであるかどうか。
  • 金融負債の全部または一部を決済するために資本性金融商品が発行される場合、その公正価値は信頼性をもって測定できるかどうか。
  • 金融負債の一部を決済するために資本性金融商品が発行される場合、支払対価の一部が残存する負債の条件変更に関連するものかどうか。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部

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