IFRS適用企業に対するCOVID-19の影響 - 予想信用損失の測定に用いられる経済予測はどのように更新されたか

IFRS適用企業における、COVID-19が予想信用損失(ECL)の測定に及ぼす影響の解説記事です。

IFRS適用企業における、COVID-19が予想信用損失(ECL)の測定に及ぼす影響の解説記事です。

論点は何か?

ECLの測定

IFRS第9号「金融商品」では、予想信用損失(ECL)は、報告日において過大なコストや労力をかけずに入手可能な合理的かつ裏付け可能な情報を用いて、偏りのない確率加重した金額で測定することを要求しています。これには、過去の事象、現在の状況、および将来の経済状況の予測に関する情報が含まれます。[IFRS 9.5.5.17]

ECLを評価する際には、企業は一定範囲の生じ得る結果とそれぞれの確率を検討し、合理的で裏付け可能な将来予測情報を構成するものを決定するために、判断を用いる必要があります。[IFRS 9.B5.5.42]

企業は、このECLの評価において、以下の特徴を有する新たに発生した問題について、特に困難であると感じるかもしれません。

  • これまで企業の計画・予測プロセスに含まれていなかったもの
  • 将来の経済的影響を決定することが特に困難なもの

しかし、企業は、その影響をモデル化することが困難であるから、または通常よりも広い範囲の生じ得る結果を伴うことになるからという理由だけで、その問題に関する合理的で裏付け可能な情報が入手できないと主張することはできません。[Insights 7.8.238]

企業にとっての課題は、報告日に過大なコストや労力をかけずに入手可能なCOVID-19の経済的影響に関する将来予測情報を考慮してECLを測定することです。

ECLの測定には、報告日に過大なコストや労力をかけずに入手可能な将来予測の情報を考慮する必要があります。これは、COVID-19の経済的影響については特に困難かもしれません。

詳細説明

COVID-19の感染拡大は、2019年12月31日時点と比較して、すでに多くの管轄区域に深刻な経済的影響を及ぼしています。この経済危機はさらに深刻化し、他の管轄区域にも波及する可能性があります。多くの政府、中央銀行、エコノミストは、起こり得る影響を把握するために、経済予測の見直しを行っています。しかし、経済見通しは不確実性が高く、すぐに変化する可能性があります。

企業は、各報告日に、その時点で入手可能な合理的で裏付け可能な情報を取り入れて、ECLの測定に使用する経済予測を更新することが求められています。必要とされる労力と精緻さは、企業のエクスポージャーに応じて異なります。ECLは通常、銀行やその他の金融機関にとって重要であり、これらの企業は最も大きな課題に直面する可能性が高く、状況の変化を反映するためにECLの更新に最も多くのリソースを投入する必要があります。[IFRS 9.5.5.5.17]

ECLを測定する際には、以下の要因が特に重要であると考えられます。

  • 潜在的な将来の経済シナリオに関する不確実性の増大と、その信用損失への影響により、企業はECLを測定する際に、追加の経済シナリオを明示的に考慮することが必要となる可能性があります。[IFRS 9.B5.5.42]
  • 既存のECLモデルでは、過去の実績を利用して経済状況の変化と顧客の行動との間の関連性、並びに損失率、デフォルト確率、デフォルト時損失率などのECLパラメータを算出しています。しかし、このような過去の関係が、COVID-19の影響下において当てはまる可能性は低いです。したがって、専門家の信用判断に基づいたモデル結果の調整が、報告日に入手可能な情報を適切に反映させるために必要となる可能性があります。
  • 特定の種類の顧客、産業、地域は、COVID-19の経済的影響により特に深刻な影響を受ける可能性があります。これらの顧客、産業、地域へのエクスポージャーを有する企業は、このような影響が自社のECLの測定に適切に反映されているかどうかを検討する必要があります。
  • 政府や中央銀行は、銀行や借手に対するCOVID-19の悪影響を緩和するための措置を開始しています。企業は、ECLを見積る際にこれらを考慮する必要があるかもしれません。
  • 多くの借手は、経済の難局を乗り切るための追加的な流動性を得るために、融資枠からの引き出しを行ったり、現金を確保したりしています。これは、ローン・コミットメントや期限前返済または延長可能なローンのエクスポージャーを見積もる際に関連します。
  • ECLの測定に使用される予想キャッシュフローは、企業が今後講じる対策(条件変更、条件緩和、限度額の拡大など)によっても影響を受ける可能性があります。[IFRS 9.5.5.12]
  • 加えて、クレジットカードの限度額の引き上げは、IFRS第9号第5.5.20項に基づいて評価されるエクスポージャーの期間に影響を与える可能性があります。

開示

企業は、金融商品から生じるリスクの性質と程度、およびそれらのリスクをどのように管理しているかについて開示することが求められています。したがって、企業は、COVID-19が金融商品から生じるリスクに与える重要な影響と、それらのリスクをどのように管理しているかを説明する必要があります。企業は、自社の事業に関連し、かつ、これらの目的を達成するために必要な具体的な開示を決定するために、判断を用いる必要があります。[IFRS 7.31]

具体的な開示の例としては、以下のようなものがあります。

  • 企業の信用リスク管理の実務、およびそれがECLの認識と測定にどのように関係しているかに関する情報。企業は、COVID-19に対応してリスク管理の実務を変更している可能性があります。例えば、債務者に債務救済措置を提供したり、政府や規制当局が発表した特定のガイダンスに従っているような場合です。[IFRS 7.35F]
  • ECLを測定するために使用した方法、仮定、情報。例えば、企業は、ECLの測定に最新の将来予測情報をどのように組み入れたかを説明する必要があるかもしれません。特に、ECLモデルは現在の経済危機を想定して設計されたものではないという課題にどのように対処したか、また、これらのモデルに対するオーバーレイや調整をどのように計算したか等です。
  • ECLから生じる金額の評価を可能にする定量的情報及び定性的情報。過去に開示されたいくつかの分析は、COVID-19から生じる影響を明確に伝えるために調整または補足が必要となるかもしれません。[IFRS 7.35H-L]
  • 企業が報告日において行った将来に関する仮定及びその他の見積りの不確実性の主要な発生要因のうち、翌事業年度中に重要な調整をもたらす重要なリスクを有するものに関する情報。[IAS 1.125]

経営者が今すべきこと

ECLを測定する際に、経営者は以下について検討する必要があります。

  • 追加の経済シナリオが必要かどうか
  • 専門家の信用判断に基づき、モデル結果への調整が必要かどうか
  • COVID-19による経済的影響を特に受ける顧客または発行体及び地域を適切に捉えているかどうか
  • 融資枠からの引き出し拡大や現金の保有などの顧客行動の変化
  • 政府や規制当局による債務者への支援の影響
  • 会社が今後講じる対策(例:条件変更、条件緩和、限度額の拡大)が予想キャッシュフローに与える影響

国際会計基準審議会は、COVID-19に関するIFRS第9号の適用についてのガイダンスを公表しています。

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執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部

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