IFRS適用企業に対するCOVID-19の影響 - 従業員給付または事業主の義務に変更が生じたか?

IFRS適用企業における、COVID-19が従業員給付または事業主の義務に及ぼす影響の解説記事です。

IFRS適用企業における、COVID-19が従業員給付または事業主の義務に及ぼす影響の解説記事です。

論点は何か?

COVID-19コロナウイルスによる経済状況の著しい悪化と不確実性の高まりに対応するため、企業は(従業員や役員等の)報酬の制度・方針を変更、または新たに導入する可能性があります。

IFRSでのこれらの変更による会計上の影響は、従業員の解雇に関する計画を含め、慎重に検討する必要があります。

これらの事象はまた、企業に以下の影響を与える可能性があります。

  • 従業員給付の測定:例えば、確定給付制度債務の数理計算上の評価の更新が必要になるかもしれません。
  • 株式に基づく報酬の費用認識:例えば、企業は当該費用を認識するために使用した見積りを修正し、条件変更の影響を検討する必要があるかもしれません。

市場のボラティリティや報酬の制度・方針の変更は、企業がどのように従業員給付の見積りや測定を行い、株式に基づく報酬の費用を認識するかに影響を与える可能性があります。

詳細説明

報酬の制度・方針の変更

会社によっては、傷病休暇や年次休暇に加えて、従業員に有給休暇を提供するようになることが考えられます。新たな有給休暇の権利が過去の勤務から生じたものではなく、また、累積しない場合、企業が当該有給休暇に対して負債を認識することは考えにくいでしょう。その代わり、休暇が発生した時点で費用を計上することになります。企業は、これらの事象の結果として、従業員に対して法的又は推定的債務を負うことになるかどうか、より広範囲に検討する必要があるでしょう。[IAS 19.13, Insights into IFRS第16版 4.4.1250]

企業が、従業員の解雇を含むリストラ計画を実施した場合、解雇給付に係る費用及びそれに対応する負債を、次のいずれか早い時に認識します。

  • 企業が、IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」に基づき、解雇給付の支払いを伴うリストラクチャリング引当金を認識した時:
  • 企業が、当該給付の申し出を撤回できなくなった時。[IAS 19.165, Insights into IFRS第16版 4.4.1460]

企業は、リストラクチャリングについて十分な詳細が示された正式な計画があり、かつ、企業が計画を実施するであろうという妥当な期待を、計画の影響を受ける人々に対し惹起した場合、すなわち、計画の実施を開始したか、または計画の影響を受ける人々に主要な特徴を公表した場合に、リストラクチャリング引当金を認識します。[IAS 37.72, Insights into IFRS第16版 3.12.230]

数理計算上の仮定を含む見積りの変更

企業は、従業員給付の測定に使用される数理計算上の仮定を含め、見積りに対する潜在的な影響を検討する必要があるかもしれません。

強制的な検疫やロックダウンの期間中、従業員は、例えば傷病休暇や年次休暇の権利など、既存の従業員の権利を使用しなければならない可能性があります。したがって、企業は従業員給付の測定への影響を検討する必要があるかもしれません。例えば、従業員がこれらの権利を使用する可能性や時期の見積りを見直す必要があるかもしれません。

また、従業員給付債務の現在価値を算定するために使用される割引率など、上記の給付を測定するために使用される特定の人口統計上の仮定や財務上の仮定にも影響が生じる可能性があります。

期中財務報告書を作成している企業は、確定給付負債(資産)の純額を再測定する必要があるかどうかを検討する必要があります。IAS第19号「従業員給付」では、再測定(から生じる利得または損失)は、再測定を行う期間に認識されます。そして、期中報告日(四半期末日)における調整が重要であると考えられる場合には、(再測定の利得または損失を)その日に計上する必要があります。制度改訂、縮小又は清算が認識された場合には、制度資産及び債務の測定の更新が必要とされます。加えて、著しい市場変動は、数理計算上の評価の更新が必要になる要因となる可能性があります。[IAS 34.IE.B9, Insights into IFRS第16版 4.4.360, 5.9.150]

実際には、多くの企業は報告日の数ヶ月前に数理計算上の評価を入手しています。これは、報告日までのその後の重要な事象を考慮して評価が調整されている場合には許容されます。したがって、企業は、数理計算上の評価結果の報告書を作成する時期を検討し、評価から報告日までの期間の重要な事象を反映しているかどうかを検討する必要があります。[Insights into IFRS第16版 4.4.350]

株式に基づく報酬

権利確定条件が株式市場条件以外の業績条件(例えば一株当たり当期純利益目標)の達成に依存する株式に基づく報酬を有する企業は、権利確定が見込まれる金融商品の数の見積りを修正する必要があるかもしれず、その場合、残りの権利確定期間にわたって損益計算書の費用に影響を与えることになります。その一方で、株主総利回り(TSR)などの株式市場条件や権利確定条件以外の条件の達成予想、および付与日時点の公正価値は修正されません。[Insights into IFRS第16版 4.5.500]

株式に基づく報酬取引に係る条件変更は、従業員にとって有利なものか否かを評価することで、会計処理の要否を検討する必要があるでしょう。例えば、より容易に株式市場条件を達成できるような条件変更がされた場合、従業員にとって報酬の価値を増加させる有利な変更となる可能性があります。この場合、公正価値の増加分は、変更後の権利確定期間にわたって認識されることになります。[Insights into IFRS第16版 4.5.1190]

経営者が今すべきこと

  • 新しい報酬の制度・方針など、新しい従業員給付の取決めについて適切な会計処理を検討します。
  • 解雇給付のための費用とそれに対応する負債を認識する時期を評価します
  • 数理計算上の仮定を含め、従業員給付の測定に使用される見積りを必要に応じて更新します。
  • 期中財務諸表を作成する際には、数理計算上の評価結果の報告書の更新の必要性と、制度の再測定を認識すべきかどうかを検討します。
  • 報告日前に取得した数理計算上の評価結果の報告書について、評価日から報告日までの期間に発生した重要な事象をどのように反映させるかを検討します。
  • 株式に基づく報酬に係る取決めにおいて、株式市場条件以外の業績条件を達成した場合に権利確定するであろう報酬の数の見積りを更新します。
  • 株式に基づく報酬に係る条件変更が有利か否かを評価します。
     

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部

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