IFRS適用企業に対するCOVID-19の影響 - 課税所得によって繰延税金資産を回収できるか?
IFRS適用企業における、COVID-19が繰延税金資産の回収可能性の検討に及ぼす影響の解説記事です。
IFRS適用企業における、COVID-19が繰延税金資産の回収可能性の検討に及ぼす影響の解説記事です。
ハイライト
論点は何か?
COVID-19コロナウイルスの世界的な感染拡大が続く中、多くの企業は、事業に悪影響を及ぼす可能性のある未曾有の課題に直面しています。これらの企業を支援するために、多くの政府が具体的な対策を導入しています。現在の課題及び政府の対策が、企業の将来の課税所得の予測に影響を与える可能性があります。
企業は、IFRSにおける繰延税金資産の認識において、将来の課税所得の予測及び発生可能性の変更による影響を検討する必要があります。
COVID-19は、繰延税金資産の回収可能性を評価するために使用される将来の課税所得の予測に影響を与える可能性があります。
詳細説明
IAS第12号「法人所得税」では、将来の課税所得が利用できる可能性が高い範囲内で、将来減算一時差異や税務上の繰越欠損金及び繰越税額控除に対して、繰延税金資産が認識されます。[IAS 12.24, 34]
繰延税金資産の回収可能性を評価する際に使用される将来の課税所得の金額は、企業の確定申告書の最終行ではありません。将来の課税所得が利用可能かどうかを判断するために、企業はまず適格な将来加算一時差異の利用可能性を検討し、次にその他の将来の課税所得及びタックス・プランニングの機会の発生可能性を考慮します。つまり、企業が損失を出している場合でも、認識テストの要件を満たすのに十分適格な将来加算一時差異がある場合には、繰延税金資産を認識することができます。[IAS 12.28–29]
現在の状況では、企業の将来の課税所得の予測は以下のような影響を受ける可能性があります。
- 予想キャッシュ・フローの変化。例えば、生産や販売価格の減少、及びそれに対するコストの増加など。
- 企業の税務戦略の変更。
- COVID-19に対する政府の対策の一環として導入された、法人所得税法に対して実質的に制定された変更。例えば、特定の種類の所得に対する減税、追加の税額控除、軽減税率、繰越欠損金の使用期間の延長など。
- 子会社の利益を送還または分配する企業計画の変更で、繰延税金負債(すなわち、追加の将来加算一時差異)を認識する結果となる可能性があるもの。
これらの変更の中には、将来の課税所得を減少させるものもあれば、一方で潜在的に増加させるものもあります。加えて、これらの変更の中には、COVID-19に対する政府の対策など、一時差異の解消の時期に影響を与えるものもあります。
繰延税金資産の認識テストのために将来の課税所得の予測を作成する際には、企業は報告日時点での予想を反映し、非金融資産の減損(別記事あり)など、他の回収可能性の評価に使用されるものと整合的な仮定を使用する必要があります。
認識規準を満たしている場合には、企業は、報告日に制定または実質的に制定された税率に基づき、原資産が回収される期に適用されると予想される税率を用いて、繰延税金資産を認識及び測定します(繰延税金負債や当期税金と同様)。[IAS 12.47, 51]
経営者が今すべきこと
- 政府の行動を注視し、法人所得税の軽減措置が利用可能かどうかを検討します。
- 法人所得税法に、実質的に制定された変更があるかどうかを判断します。当該変更がある場合には、繰延税金資産の認識と測定に影響を与える可能性があります。
- 繰延税金負債を認識する要因となる可能性があるため、子会社の利益を送還または分配する意図があるかどうかを確認します。
- 現在の経済状況が、企業の税務戦略及び計画にどのような影響を与える可能性があるかを検討します。
- 法人所得税の処理に不確実性があるかどうかを検討します。
- 将来加算一時差異の解消及びその他の将来の課税所得の予測を更新し、その仮定が他の回収可能性の評価に使用されたものと整合していることを確認します。
- 繰延税金資産の認識と測定において行われた判断と見積りについて、明確で透明性のある開示を提供します。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部