調達リスクを可視化してサプライチェーンリスクを回避する

「レジリエンスを高める」第12回 - 災害時にも滞らないサプライチェーン確保のために必要な調達リスクの可視化について、具体例を挙げて解説する。

災害時にも滞らないサプライチェーン確保のために必要な調達リスクの可視化について、具体例を挙げて解説する。

本稿では、調達を「外部組織からのモノの購入」と定義し、調達リスク管理の要諦を解説する。

大規模自然災害が発生する度に製造企業などのサプライチェーンの脆弱性が指摘され、多くの企業はレジリエンス(逆境から回復する力)の強化に向けたサプライチェーンリスク管理に創意工夫を重ねてきた。一方で、外部組織への依存度が高く管理上の難しさもある「調達」の維持および迅速な復旧は、依然として多くの企業を悩ませる問題である。

調達リスク管理の第一歩は、リスクの可視化・評価であるが、必ずしも多くの企業が調達リスクの可視化・評価に成功している訳ではない。
失敗の原因としては、「全ての調達先に対して、生産拠点と地政学的リスク・物流・商流(商品の流通において、物流に対する受注・発注・出荷・在庫保管・販売管理など取引関係の流れ)・IT(情報技術)・事業継続計画(BCP)整備状況などの情報を網羅的に可視化することを試みた結果、あまりに工数が膨大となり、頓挫してしまった」という声を多く耳にする。いうまでもなく、調達は複数企業からなる多層構造を構成していることが多い。このため、その全容を把握することは至難の業だ。

そこで重要な考え方は、「調達の全要素を可視化しようとするのではなく、調達継続を阻害するリスクを可視化する」という割り切りである。調達リスクを可視化した結果に基づき、調達品の特性や仕入れ先情報等の観点で評価を実施する。その結果、「1社購買」「特殊仕様」などの理由で調達リスクが高いと判断された部分に対して優先的に対策を講じる。
調達リスクの対策事例として、代替による調達容易性を目的とした「調達品の標準化・共通化」がある。これは本質的対策である一方で、仕様・設計変更に関する仕入れ先の協力が不可欠であり、対策完了まで時間がかかる。そのため、短期的には「在庫積み増し」「2社購買化」「サプライヤー側での2拠点生産化」などでリスクを低減するのも有効な手段だ。また、調達先との緊急連絡体制について、合同訓練や緊急時手順読み合わせなどを通じて有事対応の実効性や有効性を定期的に相互確認する仕組みも重要である。

調達リスク管理のプロセス

プロセス ポイント
調達リスクの可視化 優先製品に関連する調達先に対し、リスク評価に必要な情報を可視化
評価 可視化された情報に基づき、仕入れ先および調達品に対する調達リスクを評価
対策 リスクの大きさに応じて適切な調達リスクの低減策を実施

 

日経産業新聞 2017年11月22日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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