有事の情報発信が持つ意味とは
有事に伝達・開示する情報についての留意点を、社外・社内別に、情報発信後の影響にも触れながら解説する。
有事に伝達・開示する情報についての留意点を、社外・社内別に、情報発信後の影響にも触れながら解説する。
経営者が有事に果たす役割として「情報発信」が重要であることは言うまでもない。だが、情報発信は、「社外向け」と「社内向け」に分けて考えるべきである。
「社外向け」の情報発信では、企業は一般社会に依存しており、また一般社会も企業の活動による影響を受けていることを認識する必要がある。企業がどのような緊急時体制を準備し、どのような危機対応を実施するのかを可能な範囲で一般社会に情報を開示しながら、一般社会とともに危機対応体制を構築する姿勢が求められる。
どのような情報を伝達・開示するかは、ステークホルダー(利害関係者)がどのような情報を欲しているかが第一の観点となることは当然である。だが昨今は、IT(情報技術)の発展で一般大衆による情報発信や情報収集がしやすくなってきている。そのような状況下で、ステークホルダーにばかり目を向けて一般大衆への情報伝達・開示を怠ってしまうと、その一般大衆によって作られる世論を敵に回してしまう可能性も考えられる。したがって、情報の伝達・開示に当たっては、ステークホルダーだけでなく、世論を十分に意識することが重要である。
一方、「社内向け」の情報発信では、対象を自社の社員のみならず、その家族まで含めることが重要である。被災時は社内でも対策本部の一部の社員だけが情報を把握し、一般社員まで伝わらずに情報が錯綜し、混乱状態になるケースがある。社内に公式な情報を発信していくことで、社員や家族らに安心感を与え、落ち着いた対応を促すことができる。
具体的には、「経営トップからの災害などに対する会社としての対応姿勢・方針の伝達」「会社の被災状況と復旧対応方針」「被災した社員への会社からの支援内容」などが挙げられる。このような情報や会社としての対応方針は事前に事業継続計画(BCP)文書やマニュアルなどで定めておき、被災時には状況に応じて発信していくことが望ましい。
双方に共通して有効なことは、可能な限り事前に準備しておくことである。これはBCPの基本的方法論の1つである「タイムシフト」という業務負担を前倒しにして被災時のリソースを確保する考え方である。「どのような情報をいつ、誰に、どのような方法で伝えるのか」を想定し、平時から準備しておくことが求められる。
情報発信内容の例
社外向け |
社内向け |
|
|
日経産業新聞 2017年11月17日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 土谷 豪