メキシコ2020年税制改正の重要な論点整理及びその対策について
2020年のメキシコ税制改正において、日系企業が留意すべき重要な点を解説します。
2020年のメキシコ税制改正において、日系企業が留意すべき重要な点を解説します。
当該個別論点について我々納税者側が取れる対策の一つとして、「税務当局へのAMPARO※」が可能なもの、現在のところAMPARO適用が難しいものとそれぞれ分けて記載しています。
※ AMPAROとは税制改正がなされたとき、メキシコ憲法の平等性、均衡性に照らし、納税者の権利が侵害されると判断した場合、その改正を違憲と判断し、納税者側から憲法違反の訴訟手続きを裁判所に対して行えるもの。特徴として仮に勝訴となった場合、違憲の訴え(すなわちAMPARO訴訟)を起こした納税者のみがその効力を与えられる。
1. AMPARO(納税者訴訟)手続きが可能な改正事項の概要
2020年の税制改正の内容に対する企業側防衛手段として、税務当局に対して行う納税者訴訟(AMPARO)を検討する場合、その適用可能な改正項目の概要に関して以下簡単に説明いたします。
AMPAROを申請される場合、AMPAROは申請ができるタイミングが法令にて限定されております。具体的には、(1)法令が施行されたタイミングから30営業日(この点では2月17日が期限となっているためこのNewsletterの時点ではすでに適用不可)、あるいは(2)最初の適用日から15営業日のいずれかのタイミングで適用可能のため、この(2)にのっとり今からでも適用が可能となっております。
もちろんAMPAROを適用されない企業のケースでも、内部において当該インパクトの試算や、相手先グループ会社への確認、必要に応じた文書化等の準備、検討などが重要な対策となります。
支払利息の損金算入制限
2020年以降、支払利息(受取利息を差し引いたネット後額)は、調整後課税所得の30%が損金算入の上限となります。当年に損金処理しきれなかった支払利息は、翌年以降9年先まで、繰越して使用することが可能とされています。この「調整後所得に対する30%」の計算は、個々の納税者別に適用されますが、グループレベルで適用されるとするオプションが規定されており、メキシコ国内に多くのグループ会社がある企業グループにとってさらに重要度が増す改正論点といえます。
調整後課税所得は、課税所得に未払利息や減価償却等を加えたものとなり、言い換えれば「税務上のEBITDA」とも言えるものです。当該調整後課税所得がマイナスとなる場合、その期の支払利息は損金処理することができなくなり、翌期以降の調整後課税所得にあてて使用することになる点留意が必要です。
海外関連当事者に対する支払の損金不算入について
BEPSの行動計画をふまえて行われた改正項目であり、2020年よりメキシコ企業より海外の関連当事者への支払が行われる場合、その相手国が今回の改正で新たに定義された「優遇税制国(略称REFIPRES、スペイン語の頭文字より)」とみなされる国に在している場合、当該支払がメキシコ側で損金否認される可能性がでてまいります。
具体的にはメキシコから支払を行う海外関連者の所在する国の法人税率が22.5%未満である場合、メキシコにおいてその支払先の相手企業はREFIPRESに在しているとみなされることとなります。
過去の税法上の取り扱いとしましては、これらの支払が第3者価額にて行われる場合には損金計上できる旨の規定がありました。
たとえば適用対象の可能性がある取引の一例として、我々の隣国であるUSAにおけるFDII(Foreign-Derived Intangible Income)(当該実効税率は13.125%)の適用が挙げられています。US会社がFDII税制を適用する場合、その対象取引として例えばUSA会社のメキシコへの販売取引(例えばメキシコへのUSからの商品販売、サービス提供等)から発生するUS側からみた外国源泉所得に対して所得控除を追加で取ることができ、その結果、USでの当該取引の実効税率が13.125%まで下がり(US会社にとってはBenefitがある)メキシコにおける改正の22.5%未満に該当することになり、当該取引の支払がメキシコ側で否認されてしまう可能性が考えられます。 このFDIIの論点は、米国グループ会社から我々メキシコ子会社を間に挟んだメキシコ国内の顧客への売買、サービス提供も対象とできる可能性があるため今回の留意事項での一例として挙げさせていただいております。
さらに低税率国である香港やシンガポールのグループ会社への支払取引があるケースでも当該新税制の適用についての検討策を講じる必要がございます。
サービス会社への支払に対するIVA6%源泉税徴収義務
委託者(サービスの受益者)にスタッフを派遣しサービスを提供する会社(サービスの提供者)から受け取る請求に対して新たに規定された制度で、委託者側(サービスの受益者側)は当該サービスの対価に対する16%VATのうち、6%ポーションを源泉して当局に納税することとなりました(当然サービス提供会社に対しては差分の10%ポーションのVATのみを支払うことになります)。
委託者(サービスの受益者)の施設にスタッフを派遣しサービスを提供する会社(サービスの提供者)から受け取る請求に対して新たに規定された制度で、委託者側(サービスの受益者側)は当該サービスの対価に対する16%VATのうち、6%ポーションを源泉して当局に納税することとなりました(当然サービス提供会社に対しては差分の10%ポーションのVATのみを支払うことになります)。
このVAT源泉は、法案時には単純にアウトソーシングと呼ばれる人的サービスの提供を対象として規定されていたものの、実際に施行された法令において、それ以外のサービス事業者に対しても適用される可能性がでてきたため、該当可能性のあるすべてのサービス業者との契約、取引を今一度網羅的にご確認することが望ましいと考えます。 当該サービスに対する受益者側のVAT源泉徴収義務を順守することは、所得税法上損金経理するための要件となっている点にもご留意ください。
最後に北部国境地域税務インセンティブを享受している納税者のケースでは(該当する企業はほとんどないと思いますが)VAT税率が16%ではなく8%に減額されているため、今回の改正の対象となる源泉税率は6%ではなく3%となります。
2. 現在のところAMPARO適用は不可であるその他の改正事項の概要
以下の重要な改正内容が我々にとってAMPARO適用が現時点不可である理由は、SATからの具体的な調査等があるまでの間、納税者の税務ポジションにとって影響がないためです。その意味で我々会社内での個々の論点に対する事前検討や万が一当局から調査が入った際のポジションの文書化等が現時点で重要といえます。
メキシコPE(Permanent Establishment=恒久的施設)の定義変更
非居住者がメキシコにおいてビジネス活動を行う場合のPEの定義が新たに拡大されることとなりました。 これもBEPSプロジェクトの行動計画をふまえた改正となっております。特にUSや日本の会社が直接メキシコ顧客と取引を行っているケースで、メキシコ子会社やその他第三者の代理人をメキシコ側で使用している場合、今一度その影響度を確認することをお勧めいたします。
改正前のメキシコ所得税法上における代理人PEの定義は、メキシコの代理人(個人・法人)が、メキシコ国内にて非居住者の代わりに権限を行使したり、契約に代理で署名したりする場合、その非居住者はこの代理人を通してメキシコにおいてPEがあるとみなす規定がありました。
この定義が今回の改正において、メキシコの代理人が、非居住者の「契約締結に繋がる主要な役割をメキシコ国内において果たしている場合」、その非居住者はメキシコにおいてPEを持つと定義が変更されています。
さらに、非居住者とメキシコ代理人の関係が関連者の場合かつメキシコ側関連者が非居住者の関連者のために専ら代理人業務を行う場合、PEに該当しない「独立代理人」とみなさない、とも新たに規定しています。
PEの例外とされる準備的、補助的活動について、いかなる活動も準備的、もしくは補助的でない場合、PE認定されるという定義も追加されています。
上記改正を踏まえた場合、2020年以降において非居住者が代理人を通して、メキシコにおいて販売活動や販促活動を行い利益を享受している場合、メキシコ当局によりPE認定を受ける可能性がでてまいります。非居住者のための販売および販促活動もしくはこれらに類似する業務に従事する従業員がメキシコ企業の従業員であり、かつ非メキシコ企業がその活動の全部または一部の受益者である場合に、特にその影響度についてはより留意が必要となります。
濫用防止規制(ビジネス上の正当な理由付け)
当局の調査において、企業のある取引が、ビジネス上の合理性はないが、税務メリットを享受できるものとみなされた場合、税務当局からその取引は架空取引として見做される規定が加わりました。
このような法的な不確実性を生じさせる可能性のある改正内容は、税務当局による判断基準によって、「ビジネス上の理由」がなく、一方で税務上のメリットを生じさせるとみなされてしまう危険性を当然のように伴うことになります。規定によると、当該取引によって生じる現在または将来の経済的便益が税務上の便益を下回る場合、ビジネス上の理由はないとされています。
税務当局は、納税者に対し個別に税務調査を行ったうえで、その取引にビジネス上の合理性がないと判断した場合、その旨が納税者に通知されることになります。
例えばメキシコグループ会社間での合併に際し、一方の会社が持つ欠損金を活用するため、存続会社を当該会社にする、などが考えられます。
重要な点は税務メリットをとる取引が発生するケースにおいて、その取引のビジネス上のメリット、なぜ事業上その取引を行う必要があるかについては実行前に検討し、文書化しておくことが将来の税務調査リスクを軽減するために必要でしょう。
電子スタンプの使用権限停止
税務当局には、企業の電子スタンプの使用権限を停止させ、事業継続を止めることができるという点に改めて留意しなければなりません。万が一そのようなケースに陥った場合、速やかに当局に対して説明を行いその理解が得られれば翌日には(電子スタンプを止めた理由が明確に当局側で処理されるまでの間一時的ではあるが)再度利用が可能となります。
このようなリスクに対応するためにも今一度内部の報告体制、仮にそのような事態が起こってしまった際の当局へのアクションに関するフローについて再度見直し、必要な文書化をすることが肝要といえます。
当局への報告義務がある一定の取引
連邦税法典において「報告対象となる一連の活動の開示」されました。すなわち税務アドバイザーが当該取引に対してのアドバイスを納税者に提供した場合、その事実を税務当局に情報を開示する義務を持ちます。これらの報告制度は、他国でも導入されているようですが、それらはより国際的な取引に焦点を当てており、メキシコの今回の改正のような国内取引は対象とされていません。
会社の取るべき対策としましては、当該規定にて明記された取引に該当するものがあるかどうかについてチェックリストを作成し、一定期間ごとで振り返ることで、当該アドバイスを提供した専門家とのすり合わせ等情報を共有することが肝要となります。
ユニバーサル・コンペンセレーション (税金相殺処理)
本規定自体は2019年度よりメキシコにおいて施行されておりいるため、すでに皆様におなじみとなった改正点となります。すでにAMPAROを適用した企業も多数あったと聞いていますが今一度重要な論点でありここで記載させてください。
ご存知の通り、税金(ISRやVAT等)の過払いは還付もしくは他の税金との相殺という行為が過去認められていたものの、当該変更により相殺行為は、同種類の税目に対してのみ可能であるという制限がなされました。この制限規定は、2019年の税制改正において時限立法的に施行されたもので、今回2020年の改正によって連邦税法典に新たに組み込まれることとなりました。
VATのクレジット残高を継続的に保有することとなるマキラドーラ企業やIMMEX等の輸出製造業は、還付申請プロセスを通じてのみ、当該クレジット残高を回収することができます。
本税制改正の参考資料は2020年税制改正の概要(PDF:393kb)をご覧ください。
執筆者
KPMGメキシコ
メキシコシティ事務所
ディレクター 東野 泰典