日本企業の統合報告に関する調査2019

KPMGジャパン統合報告センター・オブ・エクセレンスでは、2014年から日本企業の統合報告書における開示動向を継続して調査しています。今回の調査では、統合報告書についての調査・分析に加え、有価証券報告書の記述情報についても調査を実施し、統合報告書における開示状況との比較を行いました。

統合報告書の調査・分析に加え、有価証券報告書の記述情報についても調査を実施し、統合報告書における開示状況との比較を行いました。

統合報告書に関する調査の概要

KPMGジャパン統合報告センター・オブ・エクセレンス(CoE)では、企業の自発的な取組みである統合報告書の発行を、企業と投資家との対話促進を通じて価値向上に貢献する取組みだと考えています。日本企業の競争力向上につなげるためにも、その成果や課題の一端を明らかにすることが必要であると考え、2014年から日本企業の統合報告書における開示動向を継続して調査してきました。

2018年に金融庁金融審議会から公表された「ディスクロージャーワーキング・グループ報告 - 資本市場における好循環の実現に向けて - 」の提言を受けた取組みの一環として、2019年に企業内容等の開示に関する内閣府令が改正され、金融庁からは「記述情報に関する開示の原則」が公表されるなど、有価証券報告書における情報開示の拡充が一層進むこととなりました。

そこで、今回の調査では、統合報告書についての継続的な調査・分析に加え、有価証券報告書の記述情報についても調査を実施し、統合報告書における開示状況との比較を行いました。

7つの領域における調査結果の主なポイント

1.マテリアリティ
統合報告におけるマテリアリティとは、ビジネスモデルとその成果に大きな影響を与え得る事象の「重要度」という意味合いであり、経営のさまざまな意思決定に資するよう、取締役会がその「度合い」を評価すべきものです。統合報告書でマテリアリティに言及する企業は77%あるものの、ビジネスモデルの持続性の観点から論じている企業は35%にとどまります。また、マテリアリティ評価プロセスにおける取締役会の主体的な関与について説明している企業も一握りです。金融庁が公表した「記述情報の開示に関する原則」では、有価証券報告書においても、投資家の投資判断にとって重要か否かという視点でマテリアリティという評価軸を持つことが求められています。

2.リスクと機会
マテリアルな事象に関して認識したリスクをどう管理し、機会からどう価値を創出するのか。それらを、個々のリスクと機会ごとに検討した結果が戦略へと展開されます。リスクと機会について統合報告書で説明している企業は78%である一方、マテリアリティ評価の結果と関連付けた説明のある企業は22%です。リスクと機会の具体的な内容(発生可能性、発生までの時間軸、顕在化した場合の影響)について述べている企業も少数にとどまっています。統合報告書よりも有価証券報告書の方が、リスクと機会の情報量だけで見ると充実していますが、今後は、読み手にとって有用かという観点からの内容の検討が望まれます。

3.戦略と資源配分
戦略とは、マテリアルな事象から導出したリスクと機会を踏まえて、中長期的に価値を創造し続けるために企業が目指す姿への道筋です。戦略に対する理解を得るために、財務の定量目標を掲げる企業は86%に上るものの、非財務の定量目標を掲げる企業は26%にとどまります。有価証券報告書においても、経営戦略全体を理解する上で、指標の開示は重要であるとされており、戦略の説明と併せて、その進捗や達成状況をどのように判断しているかを示すことが求められています。また、そういった指標には、財務のほか、非財務指標も含まれるとされています。

4.資本コストと財務戦略
財務戦略は、財務資本を最適なバランスで循環させ、価値創造ストーリーの実現に必要な将来キャッシュフローを獲得するためのものです。特に、資本コストの認識は、不可欠な要素の1つです。財務戦略をモニタリングする指標(収益力・資本効率等)と目標値、およびその設定根拠の説明は、経営戦略の遂行を財務資本の側面から裏付けるものとなります。69%の企業が何らかの財務戦略上の目標を公表していますが、その根拠を資本コストと関連付けて説明している報告書は全体の29%と少数です。統合報告書の中では、「CFOメッセージ」として語られることが多くなってきた財務戦略について、有価証券報告書においても、定量情報に加え、背景の理解に資する説明があれば有益でしょう。

5.業績
戦略目標の達成や進捗状況としての業績だけでなく、目標に対する今後の見通しの説明が、統合報告では求められています。現在の業績と中長期目標との関連性を踏まえた進捗の説明は、目指す価値創造の実現可能性に信頼感を与えます。また、業績悪化の局面であっても「一時的な停滞であり好転が期待できる」等の示唆を読み手に与えることもできます。多くの企業が業績の変動理由を付記していますが、中長期の戦略目標の達成に至る過程として、現在の業績を説明できている企業は48%でした。有価証券報告書においては、財務パフォーマンスに影響を与える非財務指標を特定し、その変動を踏まえて経営成績の分析を示していくことが、説得力の付加に繋がるでしょう。

6.見通し
戦略遂行の途上で直面するとみられる大きな課題や不確実性についての想定、そして、価値創造ストーリーに与える潜在的影響の見通しの説明が、統合報告には期待されています。事業環境の見通しを説明する企業は74%に上りました。しかし、マテリアリティ評価の前提に置かれているはずの事業環境の見通しを、マテリアルな事象と関連付けて説明している企業は20%にとどまります。また、時間軸とともに示している企業はまだ少数です。有価証券報告書においても、マテリ
アリティ評価や戦略策定の前提となっている事業環境の見通しを提示できれば、企業が見据える将来について、読み手の理解促進が期待できるでしょう。

7.ガバナンス
ガバナンスには、短中長期にわたる価値向上を支える体制と仕組みの構築、そして実効性のある運用が求められており、統合報告では、その説明がなされるべきです。CEOの資質は大切な要素の1つでありながら、説明のある企業はまだ10%です。企業が実現を目指す目標には、短期で取り組むものだけでなく、中長期で見据えるものも多くあるはずです。その前提を踏まえ、将来の価値創造を担う責任者たるCEOに求める資質について、考え方を示すべきでしょう。ガバナンス改革の浸透は進んでいるとはいえ、「ボイラープレート」と呼ばれる画一的な記載もまだ見られます。有価証券報告書においても、ガバナンス体制と戦略目標を関連付け、自社の事業特性等を踏まえた説明が求められます。

Recommendations KPMGの提言

非財務的要素が企業の市場価値の80%以上を構成する今、企業価値に直結する「非」財務とされている情報を、有価証券報告書に記載するための制度的な改正が現実のものとなりました。企業は「1つのからだ」ですから、統合報告書と有価証券報告書は、表現方法等に相違こそあれ、根底には同じストーリーが貫かれ、語られるべきものです。このような統合的思考の成果としての報告こそが、投資家の対話に資するものとなるでしょう。今回の調査の結果から考察し、対話に資するよりよい企業報告を目指すため、以下の3点を提言として掲げました。

  1. ストーリーで伝える
  2. 財務インパクトの大きい非財務情報を伝える
  3. どのような媒体でも、根底にあるストーリーは共有する

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