デジタル空間に入り込んで遊ぶ。5Gがもたらす画期的なゲームの進化 #読む5G

デジタル空間に入り込んで遊ぶ。5Gがもたらす画期的なゲームの進化 #読む5G

長らくビデオゲーム産業に携わり、複数のビデオゲームプラットフォームの開発から事業を立ち上げ、事業経営にもかかわってきたことから、エンターテインメント産業、特にインタラクティブなエンターテインメント産業の動向はとても気になっています。

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今から30年以上前、コンピュータグラフィックスの黎明期に、米国の大学や学術会議で触れた技術は、プリミティブなレベルを脱していませんでしたが、その後の技術革新によって、いまや驚くべきレベルに到達しています。

1970年代、ビデオゲームが発明された当初は、電子回路でゲームが構成されていて、ゲームソフトウェアがいまのようにハードウェアと分離された状態にはなっていませんでした。ハードとソフトが分離されたのはしばらく後のことです。

その後、テープメディアをデータレコーダーで読み込んで、ゲームプログラムをコンピュータにローディングする時代から、カートリッジやCD-ROMのような子どもでも使いやすいパッケージングの時代となっていきました。

CD-ROMはその後、DVDやBlu-rayといった大容量パッケージメディアへと進化し、それとともに、ゲームコンテンツは写実的でフィルム映画のようにリアルな表現を獲得し、今日の姿に至っています。

ワイヤードからワイヤレスへ

上述のように、パッケージメディアの大容量化が、ゲームコンテンツのメインストリームの1つの進化軸です。2つ目の進化軸は、ADSLや光回線などブロードバンドネットワークの普及によって、パッケージメディアで提供されていたゲームコンテンツがネットワーク配信へシフトしてきた動きです。

この進化は、低遅延のネットワークによって、サーバとゲームコンソール(家庭用ゲーム機)やPCを繋ぐことで、MMORPG(Massive Multi-player Online Role Playing Game)を実現し、世界中のゲームプレイヤーと、共通の仮想世界を同時に体験できるようになりました。

ネットワーク環境が、ワイヤードからワイヤレスに変わり、携帯電話やスマートフォンなどの登場でモバイルゲームが活況となり、新たなコンテンツジャンルが登場しました。そして、モバイルゲームは、遊び場所を問わない自由なプレイスタイルの提供へと進化してゆきます。

また、ゲームコンテンツの進化にとどまらず、ビジネスモデルやコンテンツ提供モデルについてもさらなる挑戦が行われました。例えば、無料でゲームを始めることができ、アイテムや追加ステージを購入する課金方式など、新たなモデルが提案されています。

さらに、スマートフォンと4Gを組み合わせることによって、スマートフォンに搭載されているGPS機能を活用し、現実世界の地理的空間内で楽しむゲームも世界的な人気を博すなど、ゲーム内の仮想世界と現実世界を繋げてしまうようなものも生まれています。

映像表現においても、世代ごとに性能を飛躍的に向上していくCPUやGPUの計算性能やグラフィックス表現を背景に、80年代や90年代には想像することも難しかった驚くべきものへと進化をとげています。かつてはあっと驚いた映像表現も、いまのゲームコンテンツの表現力の前では雲泥万里、まったく違う次元になっています。

また、以前は「夢」のように思われていた技術、例えばレイトレーシング(自然な光を表現する手法)がリアルタイムで実行可能な領域になるなど、進化は続いています。

このような映像表現の進化は、エンターテインメントへの応用だけに限定されず、放送局においては、「デジタルアナウンサー」としてアナウンサーの「デジタルツイン」(リアルな空間の情報や環境をデジタルの空間に再現する)としての活用が提案され始めています。

深層学習技術の進化に伴い、音声合成性能も飛躍的に向上したことから、人間による発話なのか、コンピュータによる合成音声なのかを判別するのが難しいレベルまで到達しています。こうした技術の進化は悪用されることもあり、合成音声を使用した詐欺行為も報告されているようです。

私たちが観ている映画においても、多くの背景や建物がコンピュータグラフィックスによって人工的につくられており、バーチャルな風景と現実の俳優の演技を重ね合わせたものも多くなっています。結果、実写と合成の判別が難しくなっており、今日ではほぼ判別は不可能という状況です。

たとえ合成映像が多く活用されている映画を観ても、それが映画の内容を毀損しているとは思われず、ごく自然に鑑賞することができる時代になっています。コンピュータグラフィックスが、まだあまり使われていない頃は、不完全な表現から違和感を取り除くために、あえてコンピュータグラフィックスっぽく見せる必要があったのが不思議なくらいです。

現在のゲームの弱点を大きく補う

さて、「超低遅延」「広帯域」「多端末接続」を可能にする5Gネットワークが、いよいよ私たちのもとにやってきます。5Gは、これまで多くのエンターテインメントが基盤としてきたネットワーク環境を大きく進化させ、ゲームをはじめ、さまざまなエンターテインメントコンテンツに不連続な進化を促すと見ています。

最近では、サーバ側でゲームコンテンツをレンダリング(描画)して、描画した結果をインターネット越しにストリーミングデータとして配信し、クライアント機器(スマホ、PC、ゲーム機)側で再生できる、「クラウドゲーミング」が可能になりました。

これによって、ゲームコンテンツをパッケージで供給したり、ダウンロードで配信したりすることなく、即時にゲームプレイが可能となっています。このクラウドゲーミングは、サーバとクライアント機器の間のデータ転送遅延がゲームプレイの快適さに関係するため、5Gの「超低遅延」性能はこういったクラウドゲーミングの快適性向上に資するネットワークインフラだと考えられます。

5Gの「広帯域」を活かすと、複数の映像ストリームやデータストリームを、同時並行で送受信できるようになります。つまり、視聴ストリームをユーザが自在に切り替えることで、ユーザがコンテンツの視聴スタイルを選ぶことができるマルチアングルコンテンツの配信が、これまで以上に容易になると考えられます。これによって、スポーツトレーニングや映像系教育教材などの新たなプラットフォームやアプリケーションの出現も予想できます。

また、5Gが可能にする「多端末接続」は、現在のゲームの弱点を大きく補ってくれる可能性があります。4G世代と比較すると、多くの端末を接続できることから、「超低遅延」と相まって、スタジアムのような1カ所に多くのゲームプレイヤーを集合させた状態で、レーシングゲームやスポーツゲームのようなレイテンシークリティカルな(遅延があると成立しない)ゲームコンテンツを新たに楽しむことができるようになります。すでにeスポーツとして、こういったコンテンツの世界大会なども開かれていることから、5Gの活用により、さらに大きな発展が見込める領域だと思います。

さらには、「多端末接続」を多くのユーザ接続に使うのではなく、1ユーザの動作や挙動のキャプチャーに使うことで、これまでのゲーム機やスマートフォンでのゲームプレイのような限定的なコントローラ入力とは比較にならない、動作を多数の入力センサーIoTを通して、瞬時にゲーム空間に入力することが可能となってきます。

あたかもユーザが「デジタルツイン」としてゲーム空間に入り込んで、ゲーム世界で遊ぶようなバーチャルリアリティを実現できることになっていくでしょう。


※この記事は、「2020年3月26日掲載 Forbes JAPAN Online」に掲載されたものです。この記事の掲載については、Forbes Japanの許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

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