AIはRFRへの移行に最もスマートなソリューションを提供
長い伝統のあるロンドン銀行間取引金利(LIBOR)を別のリスクフリーレート(RFR)に置き換えようと、時間との戦いを展開しています。
長い伝統のあるロンドン銀行間取引金利(LIBOR)を別のリスクフリーレート(RFR)に置き換えようと、時間との戦いを展開しています。
ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の廃止は、現在のグローバルな金融機関が行う多様な業務に相当な影響とリスクをもたらすでしょう。370兆米ドル以上の契約が、LIBORおよび欧州銀行間取引金利(EURIBOR)や東京銀行間取引金利(TIBOR)などの間もなく廃止される可能性のあるその他の指標を参照していると言われています。過去に起こった金利関連のスキャンダルを避けるため、専門家の判断への依存を最小化することやリスクフリー金利をより反映させることなど、RFRは上記の金利の弱点を克服するよう設計されてきました。
LIBORは現在、ローン、モーゲージ、リース料債権の証券化商品、デリバティブ、その他の広範な金融商品と複数法域にまたがるバリュエーションのよりどころです。各国規制当局は、現在LIBORの裏付けとなっている構成概念は永続不可能であり、グローバルな金融安定性の脅威であることを明確にしました。金融行為規制機構(FCA)は、もはや銀行にLIBORインディケーションの呈示を強制しないというところまで進んでいます。この伝統ある金利への対応が変わったため、代替指標の導入を2021年末までとする期限が設定されました。金融セクターのプレイヤーは、不透明な環境において舵取りを続け、この移行が自社の商品、インフラ、サービス、顧客、評判に影響を及ぼす可能性に対処することの難しさに直面しています。
特に大手金融機関は、数十万件 -- 数百万件とまではいかなくても -- の契約を精査し、LIBORを参照する契約と問題のある法的文言を突き止め、時間内にソリューションを策定するという気の遠くなるような課題に直面しています。銀行がいかにうまく移行するかということ以上に、これらの変化をいかに効果的に市場に伝えるかということが重要と考えられます。最終的に私たちが確信しているのは、金融機関はこの課題を1.戦略、2.法的要件、3.オペレーションの準備態勢、4.クライアントへの伝達、という4つのレンズを通して見るべきだということです。
「重労働」はAIに
この問題の影響力の大きさを考えると、自動化が現実的解決法であることは明らかであり、手動操作では望むべくもないレベルの速度と正確さにより、膨大な時間とコストの節減が期待できます。結局のところLIBORからの移行は、顧客によりよい商品とサービスを提供するために、データとマシンラーニングの利用を根本的に再検討することを迫ります。私たちはお客様に対し、現行のLIBORの課題を「千載一遇の」チャンスとみなすよう助言しています。銀行のフロント・トゥ・バックのインフラおよびプロセスを変革する革新的なデジタルソリューションへ大きく踏み出すための、触媒とみなすのです。
多くの金融機関が規制当局の方針がより明白になるまで「様子見」を決め込んでいますが、移行の期限が迫る中、金融セクターのスマートなプレイヤーの中から、人工知能(AI)ソリューションへの戦略的移行を開始する企業が増えているというのはよい知らせです。
こうしたプレイヤーは、組織全体のガバナンス、契約識別、戦略策定、変更に必要な全システム、全インフラ、全機能を包括するようなLIBORからの移行計画を構築しています。私たちは、自然言語処理、機械学習、その他のAI能力を含め、認知テクノロジーの使用が成功への鍵となると考えます。
AIによる契約管理とワークフローを組み合わせ、規則に基づく反復的プロセスを自動化することで、金融機関は移行の課題への正確で信頼できるソリューションを素早く引き出すことができます。一方で、このプロセスと関連する監査証跡は、将来組織がミスコンダクトや改ざんの申立てに直面したときに役立つでしょう。
AIに向かう企業は、RFRへの移行に成功するだけではなく、文書化をより一貫性のあるものにし、迅速な変更(修正)を可能にし、文書化と情報システムの真の意味での調和を確保することで、同時に文書化プロセスを合理化する能力を手にすることができます。これは競争力を維持し、大幅なコスト削減を実現し、正確さを高め、迅速に導入し、コンプライアンスとリスク管理を改善するチャンスを提供するでしょう。
緊急課題へのスマートなソリューション
KPMGでは、市場をリードする2つの資産をまとめて自動契約分析と修正にかけ、LIBORの課題を即時解決しながらも、変革的デジタルテクノロジーを通じて将来の大きな事業利益のためのチャンスを創出しました。
- KPMGのグローバルAIプラットフォームであるイグナイト(Ignite)により、KPMGのプロフェッショナルはマシンラーニングと自然言語処理を活用し、企業が膨大な数の契約と非構造化データを迅速に処理・解釈するのを支援できます。AIは人間の認知と能力の幅を劇的に拡大するので、企業はAIがLIBORの課題を解決する見込みがあることを理解できます。AIが開発すべきツールに関するインサイトを提供しつつ、そのインサイトに基づいて持続可能なプロセスをいかに戦略的に導入するかについて、結果重視のアプローチを提供します。イグナイトは最高クラスの構成要素と人々とテクノロジーを結びつけるエコシステムとして機能するように設計されています。
- アピアン(Appian)は、効果の高いビジネスアプリケーションの創出を加速する、ローコードのアプリケーション開発プラットフォームです。アイデアからアプリケーション完成までを迅速に行えるようにし、文書の共有、ビジネス規則のカスタマイズ、リアルタイムでの報告、強力なプロセス管理を可能にします。ローコードなので、幅広いデバイスで作動するアプリの開発が容易になります。
KPMGが所有権を持つイグナイト・プラットフォームは、すでにいくつかの組織でご利用いただき、LIBORベースの契約に関連する情報と具体的質問への答えを迅速かつ信頼できる形で抽出しており、同時にRFRへの移行を成功させる正しい道筋を明らかにしています。イグナイトのソリューションは、カスタマーレビューと承認のために、選択したAIベースの移行に基づき修正した契約も生成します。
すでにご指摘したとおり、LIBORの課題に対する解決法としての自動化は、契約と必要な変更の特定を超えた継続的な事業利益と優位性を約束します。ゆくゆくは、スマートなLIBORソリューションによるデジタル力の解放により、金融機関はリスク管理、コンプライアンス、オペレーションのレジリエンス、その他の重要領域において、AIの適用可能性を手に入れることができます。たとえば、より多くのデータが利用可能になれば、金融セクターのお客様のための新商品・新サービス創出を促す能力が加わることになるでしょう。
将来を見据えたスマートな銀行は、すでにこうした現実を幅広に認識し、自行のLIBORからの移行を単独で展開することのないようにしています。たとえば一部の銀行は、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)が策定した「トレーディング勘定の抜本的見直し(FRTB)」 - 本質的に新しい市場リスクのルールブックであり、銀行のホールセール取引に適用される - とLIBORの課題との関連性を理解しています。銀行は現在直面する分岐点を見据え、この領域やそれを超えた領域で根本的に新しいことを行うタイミングを見計らっています。
時間切れ
私たちの経験からすると、限られた時間で対応しなければならない途方もない課題が待ち受けているにもかかわらず、各国金融セクターにはそれに見合う切迫感が見られません。英国の金融規制当局は最近、「提出された計画書を見ると、移行と関連リスクへの対応の準備状況は金融機関により大きく異なっています」と意外感を表明しました。「様子見」をしている金融機関に行動を促すこともしました。
しかし、この複雑な道程で行動が遅いことについて、金融セクターの企業ばかりに責任があるとは言えません。すでに述べたように、乗り越え難いハードルを超えて道を拓くため、金融機関は移行と結びついたいくつもの依存状態 - 基準設定機関の指針が明確になることの必要性、規制当局・立法機関の両サイドからの介入の可能性 - という厄介な現実に不幸にも直面しているのです。
銀行と金融業界が成功に役立つ根本的「構成要素」に関して知識を深めるまでは、ソリューションに向けた投資を加速させたがらない様子を引き続き目にするかもしれません。しかし、彼らはただ怠惰に座って、業界団体その他の主要プレイヤーがさらなる行動を起こすのを待つことはできません。無駄にする時間はなく、AIの活用は金融機関の現在・未来の事業上の課題に最も迅速かつ信頼性のあるソリューションを与えてくれるでしょう。
事例研究 大手銀行がAIの活用へ
グローバルな金融サービス・セクターにおけるいくつかの大手機関は、KPMGのプロフェッショナルのインサイトとガイダンスを通じて、AIで可能になるLIBORからの戦略的移行が、自行の効率性と競争優位に甚大な効果をもたらしうることを発見しつつあります。人間が行えば通常、膨大な時間 -- 何日とまではいかなくても -- のかかる作業が、AIのめざましい能力を使えば数秒で済むのです。
最近、某大手グローバル銀行が、25,000件以上の契約(エクスポージャにして総額数十億ドルに上る)を評価するために、KPMGのメンバーファームと私たちのイグナイトAIプラットフォームに依頼してきました。これは人間の手で行う場合、推定15,000時間を必要とする膨大な作業であり、4人のパラリーガルまたは法律家が約22カ月間フルタイムで働いて行うに等しい量です。
重要な情報の多くが通常、PDFとシンプルなテキスト文書の山の中に埋もれており、2021年のRFRへの移行期限前にこれを人間の手で見つけ出すのはほぼ不可能だったことでしょう。私たちはこの大手銀行のLIBORからの移行を可能にする新たな包括的データベースを作り、数分の1のコストと時間で関連する契約の詳細をすべて特定し抽出することができました。人間の手で完了しようとすれば数時間を要する、膨大な契約の特定・分析という作業を、自動化はいつもどおり数秒で完了しました。著しい時間の節約だけではなく、自動化されたLIBORソリューションは、手動で約85%であった正解率を98%にまで高めました。
最近私たちは、ある大手グローバル銀行の別の移行を完了しました。この銀行は、数千件のローン契約 -- 各々が数百ページに及ぶ -- を特定・分析し、機械で読み込めるフォーマットに変換する必要がありました。同行は以前に類似の概念実証(proof.of-concept)作業を約20社の他のコンサルティングファーム、テクノロジーベンダー、AI専門企業とともに実施していたので、今回イグナイトが自行のニーズを完全に満たす唯一の包括的ソリューションであることが分かった、と喜んでいただけました。
多くの金融機関が気づいているとおり、非構造化データによる作業であること、無数の複雑なテキスト文書を機械で読み込めるフォーマットに変換することの複雑さを考えると、この移行はソフトウェアのみで取り組むにはあまりにも複雑すぎます。私たちはイグナイトのフォーマットを非常にオープンなものにしてきました。それがイグナイトを市場でユニークな存在にすると考えたからです。これにより、さまざまな使用事例にわたり非常に高い成果を達成できました。私たちのアプローチは、重要なテキスト文書を機械で読み込めるフォーマットに変換するデジタル変換の結果として、LIBOR案件に留まらず、将来の成功に向けた新たな必須の能力と優位性を提供しようとするものです。