IASBによる直近のアウトリーチの解説(週刊経営財務2019年11月18日号)

週刊経営財務(税務研究会発行)2019年11月18日号に、IFRS第17号の修正に関する公開草案についての、IASBによる直近のアウトリーチに係るKPMG/あずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

週刊経営財務2019年11月18日号に、IFRS第17号の修正に関する公開草案についての、IASBによる直近のアウトリーチに係るKPMG/あずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

はじめに

国際会計基準審議会(IASB)は、2019年6月26日、IFRS第17号「保険契約」(以下、IFRS第17号)を部分的に修正する公開草案「IFRS第17号の修正」(以下、本公開草案)を公表した。本公開草案は、2017年5月に公表されたIFRS第17号に対する修正案を提案し、当該修正案について利害関係者からのコメントを求める目的で公表されたものである(コメント募集期限は2019年9月25日まで)。
IASBのボードメンバー及びスタッフは、本公開草案のコメント募集期間中に、各国の利害関係者と直接対話を行って見解を確認するアウトリーチを行った(これは、デュープロセスにおける重要な一部とされている)。本稿では、当該アウトリーチにおいてどのような見解が確認されたのか、IASBの公表資料を基に解説する。


2019年10月のIASBボード会議アジェンダ2A “Amendments to IFRS17”

2019年7月~9月に行われたアウトリーチの概要

今回のアウトリーチにおいては、アジア、オセアニア、北米、アフリカ、ヨーロッパ地域の利害関係者に加え、会計基準アドバイザリーフォーラム(ASAF)、保険監督者国際機構(IAIS)、国際アクチュアリー会(IAA)などの国際機関との対話がなされた。アジアについては、日本、中国、香港、シンガポールの利害関係者との対話が実施されたと報告されている。

修正が提案されている8論点とアウトリーチにおけるフィードバック

本公開草案にて修正が提案されている8論点は以下のとおりである(これらの修正が提案された背景については「IFRS第17号の修正に関する公開草案の解説(週刊経営財務2019年8月26日号)」を参照)。

# Topic
1 IFRS第17号の発効日の延期
2 IFRS第17号の適用範囲に関する追加的な例外措置
3 更新契約に係る契約獲得キャッシュ・フロー
4 投資活動に関連するサービスへの利益の配分規準
5 リスク軽減オプションの拡充
6 再保険契約における会計上のミスマッチの低減(元受契約が不利である場合の処理)
7 保険資産・負債に係る財政状態計算書上の表示の簡素化
8 移行措置に関する要求事項の軽減

1.IFRS第17号の発効日の延期

本提案は、IFRS第17号の発効日を1年遅らせ、2022年1月1日以降に開始する事業年度からとするIFRS第17号自体の適用日の延期と、IFRS第4号「保険契約」(現在適用されている基準)において、一定の条件を満たす保険会社等に認められているIFRS第9号「金融商品」の適用を一時的に免除するオプションの失効日の延期を提案するものである。
財務諸表利用者も含め、IFRS第17号の適用日を延期すること自体に反対する利害関係者はおらず、また、IFRS第9号の適用免除オプションについても、多くの利害関係者がIASBの提案を支持した。一方で、より長い導入準備期間を確保するためにIFRS第17号の適用時期を2年遅らせることを提案した利害関係者や、保険会社の規模によって適用時期に差を設ける(例えば、小規模の保険会社の適用時期は2024年以降にするなど)ことを提案した利害関係者もいた。

2.IFRS第17号の適用範囲に関する追加的な例外措置

本提案は、特定の要件を満たす融資契約についてIFRS第17号またはIFRS第9号のいずれかの基準を適用することができるようにするとともに、特定の要件を満たすクレジットカード契約について、IFRS第17号の適用範囲から除外し、IFRS第9号を適用することを提案するものである。
ほとんどの利害関係者は本提案内容を支持しており、当該提案がより有用な財務情報を提供し、IFRS第17号の導入コストを軽減するとの見解を示した。一方で、提案されているクレジットカード契約の対象範囲が狭いといった懸念を示す一部の利害関係者もいた。また、少数ではあるが、財務諸表の比較可能性を担保するために、融資契約についてはIFRS第9号を適用しなければならないようにした方が良いとの見解を示した利害関係者もいた。

3.更新契約に係る契約獲得キャッシュ・フロー

本提案は、更新が見込まれる保険契約において、新契約獲得時に支払う契約獲得キャッシュ・フロー(代理店手数料など)を、関連する更新後の契約にも配分することを提案するものである。
多くの利害関係者は本提案の内容を支持しており、本提案による会計処理を行うことで財務諸表利用者への説明により資するとの見解を示した。一方で、本提案においては、将来の更新契約へ配分される新契約キャッシュ・フローを資産計上するとともに当該資産についての回収可能性を評価することが求められている点につき、保険会社にとって継続的なコスト負担となり得ることを懸念する利害関係者もいた。また、IASBに対し、将来の更新契約に係る契約獲得キャッシュ・フローをどのように配分するか、IFRS第17号移行時においてどのように当該契約獲得キャッシュ・フローに係る資産を計上するかに関するガイダンスの提供を求めた利害関係者もいた。

4.投資活動に関連するサービスへの利益の配分規準

本提案は、一般的な測定モデルにおける保険収益の認識(契約上のサービス・マージン(CSM)の各報告期間への配分)について、保険カバーだけでなく、保険契約が提供する投資リターン・サービスも含めて考慮することを提案するものである。
多くの利害関係者は本提案を支持し、本提案により収益認識についてより有用な財務情報を提供するとの見解を示した。一方で、本提案で定義される投資リターン・サービスの要件が狭いといった意見を述べた利害関係者もいた(例えば、投資要素が存在しない保険契約においても投資リターン・サービスは存在すると考えている利害関係者もいた)。また、CSMの各報告期間への配分ドライバーであるカバー単位の検討において、保険サービスと投資リターン・サービスという複数サービスを考慮することに関する複雑性を指摘した利害関係者もいた。

参考:投資リターン・サービスの定義(本公開草案 B119B項)
直接連動有配当保険契約以外の保険契約は、次の場合に、かつ、次の場合にのみ、投資リターン・サービスを提供する可能性がある。
(a)投資要素が存在するか、または保険契約者がある金額を引き出す権利を有している。
(b)投資要素または保険契約者が引き出す権利を有している金額に、プラスの投資リターンが含まれると企業が見込んでいる(プラスの投資リターンは、例えば、マイナス金利の環境下ではゼロを下回る可能性がある)。
(c)企業が当該プラスの投資リターンを生み出すために投資活動を行うことを見込んでいる。

5.リスク軽減オプションの拡充

本提案は、企業が直接連動有配当契約から生じる金融リスクを軽減するために再保険契約(出再保険)を使用する場合にも、リスク軽減オプションを適用することができるようにする提案である。
ほとんどの利害関係者は本提案を支持し、本提案は会計上のミスマッチを軽減させるであろうとの見解を示した。一方で、デリバティブや出再契約に限定せず、リスク軽減目的で保有するすべての金融商品においてリスク軽減オプションを使用することができるようにすることを求めた一部の利害関係者もいた。


保有するデリバティブにより直接連動有配当契約から生じる金融リスクを軽減する場合、当該金融リスクの変動による影響を純損益に反映させ、デリバティブの損益とマッチングさせることができるオプションが定められている(IFRS17. B115~B118項)。

6.再保険契約における会計上のミスマッチの軽減(元受契約が不利である場合の出再契約の処理)

本提案は、再保険契約が以下の両要件を満たす場合、当初認識時において元受契約が不利な契約となった際に、対応する再保険契約の利得を認識することを提案するものである。

  • 元受契約の損失を比例的(proportionate basis)にカバーする再保険契約(つまり、固定された比率の保険金を回収する再保険契約)
  • 元受契約が発行される前に、または同時に発行される再保険契約

本提案で示された会計処理自体については、利害関係者は概して本提案を支持し、当初認識時における会計上のミスマッチを軽減させるであろうとの見解を示した。一方で、多くの利害関係者は、本提案のスコープが比例的なカバーを有する再保険契約に限定されているため、スコープが狭すぎるという懸念を示した。例えば、一部の利害関係者は超過損害再保険(Excess of Loss Cover)についても本提案のスコープに含めるべきとの見解を示した。

7.保険資産・負債に係る財政状態計算書上の表示の簡素化

本提案は、保険契約資産及び負債の表示について、保険契約グループではなく、保険契約ポートフォリオレベルで区分して表示することを提案するものである。
ほとんどの利害関係者は本提案を支持し、本提案がIFRS第17号の導入コストを軽減させるとの見解を示した。一方で、少数ではあるが一部の利害関係者からは、ポートフォリオレベルではなく保険会社全社レベルの区分において保険契約資産及び負債の表示を行うことを望む声もあった。

8.移行措置に関する要求事項の軽減

(1)企業結合などで取得した支払備金に関する取扱い
本提案は、修正遡及アプローチを適用する場合における特定の修正項目として、または、公正価値アプローチを適用する場合に、移行日以前に企業結合などで取得した支払備金を、発生保険金に係る負債として分類することを提案するものである。IFRS第17号では、企業が保険契約を保険事故が発生した後に買収などにより取得し、決済される金額が不確定である場合には、支払備金を残存カバーに係る負債として分類することを企業に要求しているが、本提案は、IFRS第17号移行時においてのみ当該処理の例外を提案するものである。
ほとんどの利害関係者は本提案を支持し、本提案によりIFRS第17号の移行がしやすくなるであろうとの見解を示した。一方で、本提案はあくまでもIFRS第17号の移行時の取扱いを定めたものであるため、移行日後の期間においても本提案と同様の会計処理ができるように適用期間の拡大を求める声もあった。

(2)直接連動有配当契約についてのリスク軽減オプションに関する取扱い
本提案はIFRS第17号移行時におけるリスク軽減オプションの適用に関するものであり、以下の提案内容となっている。

  • IFRS第17号の移行日までにリスク軽減の実態を有している場合には、IFRS第17号の移行日から将来に向かってリスク軽減オプションの使用を認める。
  • 以下の両要件を満たす場合、直接連動有配当契約のグループに公正価値アプローチを適用することができる。
    • 移行日から将来に向かってリスク軽減オプションを使用することを選択する。
    • 移行日以前から、金融リスクを軽減するために、デリバティブまたは再保険契約を保有してリスク軽減の実態を有している。

ほとんどの利害関係者は本提案を支持し、本提案はIFRS第17号の移行時における追加的な軽減措置になるであろうとの見解を示した。一方で、過去に文書化されたすべてのリスク管理方針に関して、リスク軽減オプションを遡及的に適用できるようにすることを望む一部の利害関係者もいた。


本公開草案における表現は「保険金の決済に関連する負債」となっている。

その他のフィードバック

本公開草案において修正の提案がなされていない論点についても、コメントをした利害関係者がいたことが報告されている。
多くの利害関係者が、IFRS第17号B137項にて規定されている期中財務諸表の取扱い(IFRS第17号をその後の期中財務諸表又は事業年度において適用する際に、過去の期中財務諸表で行った会計上の見積りの取扱いを変更してはならないとする規定)について懸念を示した。彼らは、当該規定に従えば期中財務諸表の報告頻度によってCSMの計算結果が異なる可能性があり、財務諸表の比較可能性を損なうことなどを指摘した。
また、欧州では、IFRS第17号の年次コホートの規定について、導入のコストがかかることや一部の保険契約においては有用な財務情報を提供しないと考える利害関係者もいた。

今後のスケジュール

2019年9月25日までに利害関係者から寄せられたコメントをふまえ、修正後の最終基準を公表するための議論が2019年11月以降のIASBボード会議で行われる予定となっている。修正後の最終基準の公表は、本稿執筆時点においては2020年中旬頃とされている。

全体のスケジュール

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出典:IASB公表資料 “Snapshot: Amendments to IFRS17”

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