「あずさ監査法人のデジタル戦略」(後半)

【対談】あずさ監査法人が考えるデジタル化社会の可能性とその課題を整理するとともに、デジタル戦略について議論を進めていきます。

あずさ監査法人が考えるデジタル化社会の可能性とその課題を整理するとともに、デジタル戦略について議論を進めていきます。

KPMG Ignition Tokyo

デジタル投資は何のためか

あずさならではのInsightsを提供できなければ存在価値を発揮することはできない。すなわち、デジタル投資は、変化する社会・企業からの期待に確実に応えるべく実施されるものである。

高波:ここで改めて、監査人の存在意義を確認すると、資本市場における財務情報の信頼性確保にあります。あずさ監査法人では、監査品質について、「マーケットにサプライズを与えるような重大な不備を発生させない監査の実現」と定義しています。

茶谷:監査品質の定義については同意です。一方で、先ほども少し話がでましたが、グローバル化、デジタル化が加速度的に進む現代においては、企業活動の変化にあわせて、監査アプローチも変化に迫られています。監査法人は、信頼性の付与という本源的な役割に加えて、企業・社会から環境変化に応じた変革をリードする役割を期待されるはずです。

高波:そのとおりで、そのような将来予想に基づいて、あずさ監査法人では、「3C X Insights」で表現されるデジタル戦略を策定し、投資を進めています。これは、内閣府が提示するSociety5.0の世界が現実化しつつある現在、3C(Comprehensive、Centralized、Continuous)監査を経営者と一 緒に進め、データ、テクノロジー、人材の3つの領域にフォーカスして投 資することで、社会・企業の期待に応えるInsightsを提供していくことを目指しています。

茶谷:今話にでたInsightsは、付加価値のある洞察や知見という意味ですね。

高波:我々のデジタル戦略で使っているInsightsとは、先ほど話題にしていたデータを最大限活用し、これまで発見できなかった気づきを提供するとともに、異常値の発見をタイムリーに行っていくことを意味しています。このInsightsの提供は、単なるデジタルツールの利用にとどまることなく、企業、マーケット、社会から期待される変革を先導すべきという、我々が目指すべき方向性を表すものとして位置付けています。

茶谷:もう1つのキーワードである3Cについては、私が代表を務める株式会社KPMG Ignition Tokyo(KIT)に期待される機能とも大きく関係すると感じます。

ソリューションを産み出す

デジタル戦略に沿ったソリューションを産み出すために、 Digital Innovation部を新設するとともに、KPMG Ignition Tokyoを通じてKPMGジャパンとの協働を加速する。

高波:茶谷さんが率いるKITには「ソリューション開発」と、そのベースとなる「プラットフォーム」を作り上げてもらうことを期待しています。

茶谷:監査の一層のデジタル化を進めるためにも、分析のための統一的なデータプラットフォームが必要ですが、実は、欧米と比較した場合、日本産業界の各社では利用しているシステムやデータ形式の共通性が低いという特性があり、一筋縄ではいきません。加えて、個社を特定することを不可能にするデータマスキング処理などの工程も必要です。この点についてはクライアントの協力も得ながら解決し、将来的にさらなる会計データ利活用を実現するためのインフラ構築をKITが進め「プラットフォーム」として整備したいと考えています。

高波:あずさ監査法人では、当該「プラットフォーム」構築と並行して、2019年に監査法人内に新設したDigital Innovation部(DI部)において、分析ツール等の「ソリューション」を開発する体制でデジタル投資を進めています。ここでいう「ソリューション」のうちのいくつかは、2014年に設立した次世代監査技術研究室で開発され、既に多くの活用事例が法人内で共有されています。DI部とKITが密接に連携することにより、最先端技術を取り入れながら、これらのソリューションの質を高めることを目指しています。

茶谷:両者がかみあえば、3C監査、つまり、網羅的で、一元化された、リアルタイムな監査を可能にするテクノロジーとしての土壌は整いますね。

高波:はい、ここまででデータとテクノロジーについて説明してきましたが、あと1つ、デジタル活用による監査品質向上にあたり欠くことのできないピースとして人材があります。データ、テクノロジー、人材の3つの領域に重点的に投資することで、初めてInsightsの提供が可能になると考えています。

茶谷:そうですね、監査の中でのデジタル活用であり、その結果を読み解き、Insightsを導き出すことのできる会計・監査プロフェッショナル人材が必要になりますね。

茶谷 公之

データを付加価値に変えるために

デジタル・リテラシーを有する会計士の育成及び能力の高いデジタルエキスパートの人員拡充を進めることで、監査人の視点に基づいた深いinsightを提供できる体制を構築する。

高波:ここまでの対談で、社会のデジタル化が進み、監査でもさまざまなソリューションの活用が可能なことがはっきりしました。ただし、真の意味でのデジタル活用を進めるにあたっては、人材面から、「会計士のデジタル・リテラシーの向上」と、「会計士以外のデジタルエキスパートの確保」の2つが必要不可欠だと考えています。

茶谷:そうですね、1つ目の「会計士のデジタル・リテラシーの向上」が求められる背景として、デジタル化の進展に伴って、ユーザーエクスペリエンスからカスタマーエクスペリエンスへの転換が進むという点が挙げられます。

高波:監査業界にあてはめて、説明してもらえますか?

茶谷:これまでは、一次加工もしくは二次加工されたデータをもとに、監査手続の高度化と効率化の観点から、主にユーザーたる会計士がデジタル・テクノロジーを活用してきました。これからは、それらに加えて、オリジナルデータを利用して加工された結果を解釈することにより、カスタマーたるクライアントへ付加価値を提供できることになります。

高波:先ほど話にでた「Insights」を提供するということと同義ですね。

茶谷:付加価値を産み出すためには、業務プロセスの細分化やリスク指標の設定、異常値の定義などの作業が必要になりますが、これは、会計・監査の専門知識とデジタル・リテラシーの両方を有する人材のみが可能とするところです。

高波:あずさ監査法人では、会計士のデジタル・リテラシー向上のため、2019年度から、毎年1,000名の専門職員を対象とした3ヵ年にわたる集中研修プログラムを展開予定です。
2つ目の「会計士以外のデジタルエキスパートの確保」ですが、KITを中心に進めてもらっています。

茶谷:はい、現在KITは、人数比では会計士以外のデジタルエキスパートが6割から7割を占め、約20の国や地域のメンバーから構成されています。異なる知識と経験を有する多様性のあるメンバーで、新しいプラットフォームとソリューションを産み出そうと日々熱い議論を重ねています。

高波:まずは2019年6月末に、1,800~2,000名のデジタル対応人材を擁する体制整備を目指しています。
KITには監査以外にも、アドバイザリー業務や税務業務も視野に入れた幅の広い活躍を期待していますし、それを可能にする多様な人材が集まっていると頼もしく感じています。

茶谷:はい、期待してください。将来的には、プロフェッショナルのナレッジをAIに覚え込ますだけでなく、AIがプロフェッショナルの育成をサポートするようなことも考えています。プロ棋士が将棋のAIソフトを使って強くなるイメージです。

高波:これらの変化に適切に対応できるプロフェッショナルを育成し続けていくことにより、あずさ監査法人は監査品質の向上を継続的に図り、常に選ばれる存在を目指します。そのために、社会・企業の目線を常に意識しながら、デジタル変革のための投資を、データ・テクロノジー・人材の3つのエリアで重点的に進めなければなりませんね。

※役職等は、記事掲載当時のものとなります

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