「KPMGモビリティ研究所セミナー ~転換期を迎えたスマートシティ~」開催レポート
KPMGモビリティ研究所は9月9日(月)に「KPMGモビリティ研究所セミナー~転換期を迎えたスマートシティ~」を東京で開催しました。その様子をご紹介します。
KPMGモビリティ研究所は9月9日(月)に「KPMGモビリティ研究所セミナー~転換期を迎えたスマートシティ~」を東京で開催しました。その様子をご紹介します。
1. はじめに
スマートシティに関する取組みは、エネルギー問題を契機として2000年代から国内外において行われてきましたが、その後のコンピューターの処理能力向上や無線通信の帯域拡大といった情報通信技術(ICT)の発達により、ここへきて転換期を迎えています。また、自動運転技術やシェアリングサービスの台頭に伴い、都市とモビリティを一体にしたスマートシティを構築しようとする動きも活発になっています。
去る9月9日(月)、KPMGモビリティ研究所は「転換期を迎えたスマートシティ」と題したセミナーを東京で開催しました。昨今のスマートシティ構築の情勢を反映するように、自動車や公共交通などのモビリティ業界やゼネコン・不動産などの街づくり関連業界だけでなく、通信・エネルギー・電機・商社・金融など、多様な業界・業種から非常に多くの方々にご参加いただき、関心度の高さが伺えました。
本セミナーは、政府のスマートシティ施策を推進されている内閣府の村上審議官をお迎えすると共に、都市とモビリティが一体となったスマートシティに関するKPMGの研究成果と、スマートシティの進化における論点を共有し、いよいよ実装の局面を迎えた未来都市の姿について理解を深めました。
2. スマートシティの経緯と今後の可能性
はじめに、KPMGモビリティ研究所/KPMGコンサルティングの大島良隆マネジャーより、再び盛り上がりを見せるスマートシティに至る経緯を踏まえ、現在の都市づくりの在り方や、国内外のスマートシティの実例から今後のスマートシティ実装に関する考察と論点について講演を行いました。
まず、これまでの都市づくりは、税金を投じた公共事業として進められてきており、80年代にはコンパクトシティ、90年代にはサスティナブルデベロプメントが理想的な都市モデルとして注目されていました。しかし、理想的な都市モデルが徐々にITを駆使したスマートシティへと変化していく中で、特に海外においてUberやAirbnbといった次世代IT企業や、Google、マイクロソフトといった情報プラットフォーマーが民間企業として自ら投資を行いながら、都市づくりに関与するようになったと述べました。
具体的な事例として、カナダ・トロントにおいて、Google傘下のSidewalk Labs社が中心となり、多大な資金や技術を提供しながら、市や市民と連携してスマートシティを構築しているケースが紹介されました。当然ですが、投資に応じた利益を企業は得ようとします。紹介された事例では、単に技術やサービス提供をする以上の収益スキームが検討されていることも見て取れました。日本国内においても、官民が連携しながら都市づくりを行う流れが訪れていることが示され、2019年度に27自治体が政府の支援を受けてスマートシティ実証を進め、いずれも民間企業とのパートナーシップを結び推進しているということでした。
今後のスマートシティ構築は、民間企業との協業無くしては進めることができず、都市やそこに住まう人々の課題解決を軸としながらも、民間企業の巨大な収益プラットフォーム構築が重要な論点となることが考えられます。行政は、民間企業の関与が都市の特徴に大きな影響を及ぼすことを念頭に、どの企業と連携しどのような街を構築していくのか、住民を巻き込んで考えていく必要があります。民間企業も、単一領域に対する技術やサービスの提供にとどまらず、多様な領域に関与し、相乗効果を生み出していくことを考える必要があるようです。
3. データ連携基盤の構築に向けた提言
続いて、同じくKPMGモビリティ研究所/KPMG FASの池田晴彦ディレクターより、スマートシティを実現するうえで必要不可欠であるデータ連携基盤の構築について、海外の事例紹介を踏まえ、今後わが国においてどのように基盤構築を進めていくべきかについて、問題提起と解決のための提言がありました。
冒頭では、データ連携の重要性を説明するため、米国における可視化した携帯電話の位置情報活用事例が紹介されました。例えば、ある都市では自家用車による長距離通勤が一般的であるとデータが示しており、仮にその都市に次世代モビリティを導入するのであれば、移動オフィスのような車両が求められるのではないか、と仮説を立てることが可能であると説明がありました。取得するデータ量や種類が多いほど仮説の精度は向上するため、いかに多くのデータを収集して活用するかが重要です。
実際、ニューヨークではGoogle子会社による高速Wi-Fiを無償提供するキオスク端末が街中に設置されており、その端末に設置されたカメラで車や人の動きを捉え、データ化して収集しているということでした。また、収集したデータを共有化する動きも広がっており、UberやLyftは収集したデータを無償で公開しています。そして、それらのデータを活用するために、Fiwareのようなオープンなデータ連携基盤が登場してきています。
このような動きは欧米を中心にスピード感をもって広がり始めているのですが、スピード感を生み出している要因として、「ラフに」サービスを設計・構築し、共通基盤化して展開している点が挙げられるといいます。変化の激しい領域においては、事前検討に多大な時間を費やし、システムを細部にわたって作りこむことが足枷となってしまいます。特に日本ではその傾向が強く、データ連携基盤構築を行っていくにあたり、今すぐに使えるIT基盤を活用していく思考に切り替えることや、ITの活用方法を検討するためのリテラシー向上が不可欠であるという提言がありました。スクラップ&ビルドというキーワードも登場しましたが、変化に対応するためには、作り上げた仕組みを継続的にアップデートしていく必要があります。近い将来のことを考えると、非IT企業であっても、そのスピード感に対応するため、自社開発を実現するケイパビリティが求められる日がそこまできているのではないでしょうか。
4. スーパーシティの取組と地方創生
内閣府 地方創生推進事務局 審議官である村上敬亮氏からは、スーパーシティ構想とそれを実現するためのヒントについてお話しいただきました。ざっくばらんかつ核心を突いたご意見に、参加された方々は食い入るように、身を乗り出して講演に耳を傾けておられたことが印象的でした。
お話はまず、インドにおけるマイナンバーカードともいえる「アドハーカード」と、イギリスやアフリカを中心に給与振込に関するフィンテックサービスを提供する「ドレミング」がなぜ成功したのか、という話題から始まりました。2つの成功事例に共通することは、課題(イシュー)を極力シンプルに解決している点です。もちろん、その裏にある技術は非常に高度なものが用いられていますが、関連アクターやスキームは大変簡素です。このあたりは、先述のデータ連携基盤構築の話と通じるところがあります。
次に、スーパーシティ構想に話は移り、スマートシティとの違いについて語られました。端的に言うと、スーパーシティとは、MaaSや遠隔医療など、スマートシティを構成する複数分野の先端技術を単一データプラットフォームに乗せたものと定義されていました。ただ、冒頭のお話にあった通り、イシューオリエンテッドであることが重要で、ただ先端技術を並べるだけでは意味がない、そこがまさに日本の課題であると強く訴えられていました。
その後もスーパーシティ実現、データプラットフォーム構築に関する課題を実例と共に語っていただきました。多少刺激的なお話ではあったものの、人口減少や多様性といったキーワードが注目される現在の日本市場において、提案型かつ大量生産型のビジネスを継続するのではなく、イシューオリエンテッドにビジネスを展開していくことこそ、時代に合った合理的なビジネスである、と参加者の方々は再認識されたのではないでしょうか。締めくくりに、技術や技術に必要なインフラについての議論ばかりを深めるのではなく、イシューや特定需要解決のためのビジョンと戦略を明確にし、インフラ等、スーパーシティに求めることを提案して欲しい、と述べられていました。
5. Q&Aセッション
最後に、KPMGモビリティ研究所アドバイザーの伊藤慎介氏をモデレーターに、登壇者の村上氏、池田ディレクター、大島マネジャーによるQ&Aセッションが行われました。
様々な規制を乗り越えて新しいビジネスをスーパーシティの中で実現するためにはどのように進めていくべきなのか、スマートシティの中にモビリティはどのように組み込まれていくのか、地方に構築するスーパーシティに本当に若者は集まるのか、なぜ海外ではデータ連携の仕組みがうまく回っているのか、といったことについて話し合われました。
ここでもやはり、根底にはイシューオリエンテッドという考え方が透けて見えました。需要が様々なベクトルを向いている中で、課題や需要を見出し、それらを解決した特徴を持った街づくりを行うこと。そして、実現方法として、MaaSやモビリティ、データ連携基盤が活用していく、といったことが今後のスマートシティ構築には欠かせないようです。
6. おわりに
閉会の挨拶として、KPMGモビリティ研究所アドバイザーの石田東生氏からも、過度な心配をするより意欲的に課題解決に挑戦してもらいたい、と締めくくりの言葉を頂きセミナーは幕を閉じました。
転換期を迎えたスマートシティ、官民が一体となってイシューに目を向けた街づくりを行うことで、我が国においても思いがけない都市や暮らしが誕生することを期待します。